第11話 屋上に逃げれた朱宇たち。だがそこでおかしな痕跡を目にする
「デイビス、道を塞ぐ準備をしろ!」
「了解!」
ウォルターさんが叫ぶと、エスカレーターを上り切ったデイビスさんが通路を駆け、壁のパネルに手をついた。
確実に近づいている化け物の鳴き声。それは耳に反響し、背筋を凍らせる。叫びたいがその労力も惜しい。だから自分の持てる全てを足に込め続けた。
そうしてようやく止まることを許された瞬間――
「一歩も入れるな! 押し込めぇぇぇ!」
デイビスさんが非常ボタンを叩いた。天井から透明なパネルが下がり出す。数秒で閉じるくらいの早いペースで下がってきているが、それでも危機的な状況であれば長く感じる。
デイビスさん、ウォルターさん、アイラさんの順で横一線に並び、拳銃のマガジンが空になるまで撃ち続けた。迫り来る大蜘蛛が撃たれ、熟れたオレンジのような体液を撒き散らし、床に転がる。それをまた別の大蜘蛛が埋めるように迫ってくるが、再装填した拳銃がそれを堰き止める。
――ギィィィッ……!
ついに防犯パネルが閉まった。
分厚いパネルを前にした大蜘蛛たちがこちらに飛び込むが、べっとりと体液をつけるだけで完全に弾かれている。でも、助かったはずなのに、こいつらはもう襲ってこないはずなのに、ゾッとする感覚が消えてくれない。歯をたて、爪をたて、無意味でも諦めない執念が奴らの黄色い目に宿っていたから……。
バクバク、と自分の心臓が耳元にあると思えるほどうるさくて、胸が苦しくなる。俺は呼吸を乱しながら逃げるように踵を返し、出口に向かった。
「非常用の設備以外は動かないみてぇだな。退いてな、朱宇」
俺が半ば呆然と開かない自動ドアの前に立っていると、デイビスさんがそう言って懐からナイフを取り出し、ドアに差し込んだ。それから隙間に手を滑り込ませ、ウォルターさんと一緒に出口をこじ開けた。
そうして、俺たちは屋上に出た。
そこは駐車場になっており、車があるばかりで動くものは何もない。
「ねぇねぇ、もう走らなくていいよね? ここ、誰もいないよ」
「だと良いんですがね。私もこの格好だとさすがにキツイですから」
「だから着替えたらって言ったのに、スカートを破ってまでスーツで戦うなんて。あーあ、せっかく買ったのに全部置いてきちゃった」
残念そうに肩を落とす母さんに向かってアイラさんが「どちらも不適切です……あんなひらひらなのは……」と呟きながら拳銃をジャケットの内側に仕舞った。
誰かに見られると不味いのだろう。デイビスさんとウォルターさんもアイラさんと同じように拳銃を服に隠して見えないようにしている。
警察官が拡声器で呼びかけるような声を聞きながら駐車場の中ほどまで進むと、前を歩いていたウォルターさんとデイビスさんが立ち止まった。
「何か落ちてないか? あの一角だけやけに散らかってるぞ……」
「破片……というより、何かの部品かもな……」
ウォルターさんに指差され、たどたどしく答えるデイビスさん。この位置だと車が邪魔で見えない。俺は彼らの近くに行こうとしたが、アイラさんに腕をつまれた。
「危険ですから、動かないように」
「あ、はい……」
「はっ、離せ。私はまだ動いてもなかったぞ」
「あーそういうことだったら私も。ちょっと待ってようかぁ」
振り返ると、アイラさんが首を振ってるし。そのもう片方の手にはシャノンも同じように捕まってるし。母さんに限っては、自分だけ仲間はずれは嫌だとかそんな理由で便乗してるだけだろう。母さんの言葉を最後に、警察が避難誘導の指示を出している声だけが駐車場に木霊していた。
ウォルターさんとデイビスさんが再び歩みだす。車のボンネットの脇を通り、駐車場の白線を踏んで開けた場所に出たところで異変が目に見えて広がった。
突如として、青白い光が瞬く。目の前が眩く染まり、バチバチと放電する音がそこら中から響いてくる。屋上のコンクリートが弾け、車体が爆発し、炎上した。
(次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます