第9話 ゾンビ系エイリアンがショッピングモールで市民を襲う!?

「暴動? 地震とかじゃないのか……」

「なんでもいい、行くぞ……っ!」


 いまいち事態を把握できてない俺の手を引き、シャノンが通路に導く。その鋭い物言いに口をつぐみ、黙ってついて行くと、足早に避難する人々と共に非常階段に向かった。

 だが目の前に広がるのは黒山の人だかりと、落ち着いてくださーい。押さないでくださーい、という誘導のループ。非常階段へと続く三階中央の細い通路は、大晦日のような賑わいを見せていた。もっとも、がやがやという喧騒は災害時のものに近い。


「こりゃあ、だいぶかかりそうだな……」


 デイビスさんが険しい顔で呟いた。

俺たちは人波にもまれながらゆっくりと避難していく。その後、階段を下りて一階にたどり着くとようやく開けた場所に出た。

それから出口に向かう人々についていくと――


「――あぁぁぁぁぁ――こ――ぁぁぁぁぁ――ち――きゃゃゃゃ――はや――くッ!」


 突然、狂ったような叫び声が聞こえてきた。

 数人が叫んでいるらしく重なり合ってよく聞き取れないが、思わずぎょっとする。


「っ!? おい、なんかヤバくないか……」

「ああ、私たちも走るぞっ!」


 俺とシャノンが出口に向かっている途中で、対面の通路から客とスタッフが血相を変えて走ってきていた。

 なにが、あったんだ……、と思ったその瞬間――


 ジリィィィィィィィィィィィィィィィ!


 肌がぴりつくような騒音が耳を襲った。そのサイレンの直後、今度は出入り口に半透明の壁が徐々に下がりだした。まるで何かを閉じ込めるように、来るものを拒むように。

 そして出入り口に俺たちが着く頃にはほとんど覆われていた。


「無理に行こうとするな、挟まるぞ!」


 滑り込めば間に合うかもしれなかったが、シャノンに腕をつかまれた。

 壁は二重でしかも分厚い。この二枚を合わせると一メートルはありそうだ。改めて見ると、一歩か二歩の距離が遠く感じる。確かに挟まれていたかもしれない。


「目の前で潰れたお前を見るのはごめんだぞ」

「そ、それは俺もごめんだ」


 冗談めかして言うシャノンだが、実際起こりかねないことだったから笑えない。隔壁が閉まる際にロープをきつく結ぶようなギギギィッという音がして、俺はビビりながら半透明な壁に手を当てる。車が突っ込んできても耐えれそうなほど分厚い……のに、外の様子が見て取れた。

 避難を終えた人々でごった返したパーキングエリア。その黒山の人だかりを進み、入ってくる緊急車両。サイレンの赤い光りが陽光と混ざり合って照り返し、思わずぎゅっと目をつぶる。さらには、遠くの空にヘリコプターまで飛んでいた。

 まるで災害時のような騒がしさだった。

 外はえらいことになっていたが、ただの暴動だとアナウンスは言っていたんだ。だからじきに収まるはず……。

 俺は入り口前に取り残された数十人と一緒に事態の収束を待った。


「アレが来るっ! ふざけんな! 開けろよ、おいっ! まだ人がいるんだぞ……!」


 さっき対面の通路から走ってきた若い男が、叫びながら壁を叩き続けている。


 アレ? ……アレって何だ? 何が来るんだ……!?


 その必死な形相に思わず後ずさり、困惑する俺の目の前で「ドン!」という音が響いた。


「冗談じゃねぇ! もう、なんで……ッ!」


 最後にもう一度大きく叩くと、男は崩れるように膝を突いた。

 そして、うわごとのように「もうダメだ……おしまいだ……」と繰り返す彼の絶望が伝播するように周囲の人々にも不安と焦りが広がる。


「くそッ! もうここまで来やがったか……ッ!」


デイビスさんが睨みつけたその先で、逃げ遅れた人々の最後尾にいる警備員風の男が噛まれた。

 赤い花が散った。血の色をした濃い花びらが舞い落ち、床に広がった。その光景に黄色い光りがゆらゆらと加わる。噛まれた首の傷を押さえ、うつ伏せに倒れた男の上に揺らぐふたつの光。それは、痙攣する男に乗っている者の黄色く光る目だった。


 ――あれは、あいつは……!?


 ニュースで見たVICSとかいうエイリアンだ。

 黄色い目の人間。青い血管が浮き上がった爛れた肌は、何かで裂かれたように筋肉組織がべろりとあらわになっていた。不気味に反響するそいつの声は深く、腹の底まで響いてくる。そして、そいつは男の首筋を噛み続けていた。 

 俺はぎらつく黄色い眼光におののきながらもはっと息を呑んだ。


「なん、だよアレ……VICS、か」


(次回に続く)

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