第8話 突然起きた破砕音! そしてショッピングモールで暴動が発生!?
……冗談だろ。こんなの放送していいのかよ。
鈍器で殴る鈍い音もそこから滴る赤い血もどうでもよかった。ただ、どんなに攻撃を加えても必ず向かってくるその姿に「こんな生物がいていいのか……?」と思わず呟いてしまう。
『ちょっと誰か、止めて止めてっ!』
映像が切り替わり、スタジオに戻る。不思議そうに首をかしげるマリーさんと慌てふためくネイビーのスーツが映り、それからCMに変わった。
完全に放送事故だ。アナウンサーの慌てっぷりが見ていて不憫なほどだった。
「まだ入り口にいたのか。探したぞ」
声のした方を向くと、シャノンのむすっとした顔が拝めた。どうやら一周回ってきたらしく、ちょうどゲームセンターの右端に立っていた。
「ごめん。ちょっとテレビ見てた」
「テレビって……そんなの家でも見れるだろ。さっさと行くぞ。デイビスを待たせてる」
そう言って歩みだすシャノン。今度こそ付いて来ているのを確認するように後ろをちらちらと振り向いてくる。この過保護とも思える仕草を目にすること数回。俺たちはクレーンゲームコーナーに入っていた。
透明なケースに子供が欲しがりそうな可愛らしいぬいぐるみや、別のベクトルの可愛らしさを持つ美少女フィギュアが積み上がっていた。普段全然来ないから物珍しくきょろきょろと辺りを見回してみたが、人気の少なさが目立つ。3D映画や、バーチャル系のゲームのおかげでここら辺は寂れた街のようだ。
まぁでも、レトロ好きな客や、クレーンゲーム限定品という響きに弱い人には好評らしい。
だがそこで、まったく興味なさそうな表情のデイビスさんが見えてくる。待ちぼうけをくらったからか、目を細めてこちらを見据えてきた。
これが普通の人だったなら眠たそうなだけに思えたが、不気味なほど鋭い。ゲームセンターにあるまじき迫力。獲物を発見したハンターみたいな仕草は子供にはきついのでやめてほしい。
そんな俺の内心とは裏腹に、デイビスさんは気さくに笑いかけてきた。
「お、シュウ。どこ行ってたんだ? トイレとかだったら先に言ってくれよ。探し回らねぇといけなくなるからな」
「あ、はい。すみません」
「分かればいいが、お嬢も俺がゲーセンのアプリいじってる隙にいなくなるし」
「すまない。でもその時朱宇がいないって気づいたんだ。それでこの辺りを一周して……」
少しばつが悪そうなシャノン。それで見つかったってわけか、とデイビスさんが言葉をかぶせると、シャノンは途端にしたり顔になった。
「ああ。夢中でテレビを見てたぞ」
「いや、あれはテレビが悪い。あのアドバイザーが目立ち過ぎたのと実験映像にビビらなかったら今頃は……ん?」
そこで筐体の中に裸のまま無造作に入れられた丸っこい猫の群れが俺の目に入った。
「お目当ての物って、それか?」
「ん、まあな。クッションに使えそうだしな。うん、これでいい」
シャノンは澄んだ瞳をモフモフの山に向けたままビシッと指差した。
「デイビス。このぬいぐるみが欲しい。頼めるか?」
「お嬢にそこまで言われちゃ仕方ねーな。よし、やってやろうじゃねぇか」
デイビスさんは快く頷くとクレーンゲームの料金パネルに腕輪型の
その時だった。
――――ドォゴォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオン!!
どこからか伝ってくる破砕音。分厚い層が崩れ落ちるような、地響きにも似た振動。それからクレーンゲームのアームがギギッと止まり、ピロピロとうるさかったゲームセンターに静けさが広がる。だが少しすると、通路の方から人々のどよめきが聞こえてきた。そしてついには、スピーカーからサイレンが響きだし、アナウンスまで流れてきた。
『モール内のお客様にご連絡します。現在、北口の博物館、一階展示場で暴動が起きています。スタッフが対応中ですが安全のため、ただちに避難してください。お近くのスタッフの指示に従って、どうか落ち着いて避難してください』
(次回に続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます