一章 完全封鎖のサイコロジー

第2話 ゴールデンウィークを満喫する主人公、朱宇(しゅう)、だが一緒に来た可愛い幼馴染の連れが怖いんだが……

 こんな経験はないだろうか?


 何もかも終わった後や、その出来事が始まる直前、緊張して居ても立ってもいられないような時、ふと思うと自分ではどうしようもない事にぶち当たっていたなんて経験。


 例えば、寝る前に翌日のイベントのことを考えてしまって楽しみで眠れない。それが原因で寝坊する。もしくは、ぐっすり寝てもなぜか寝坊する。どう転んでも同じような結果になってしまったり、テストで良い点をとろうと頑張って勉強しても同じような点数だったり、いくらランニングしても全然体力がつかなかったり。

 こんな風に本来違った結果になるはずが、パターン化して同じような状況になって「こんなはずじゃなかった……」と頭を抱える。


 それは言ってしまえば、自分の行動がある程度決まっているような。誰かが、というより小さな何かが身体に入って悪さをするような。自分の意図しないところで頭が切り替わるような。

 そうこれは、たとえるなら薬を盛られて意識が朦朧として――


「ん? 寝てるのか……? ……おい、着いたぞ。起きろ」


 肩をゆさゆさ揺すられる感触。薄く目を開くと、黒い座席の背がぼんやり映り込んできた。

 眠気眼のまま俺――水巳朱宇みずみしゅうはぎこちなく首を動かす。足元のスピーカーから流れるポップな曲が、ぼやけた思考を徐々に覚ましていく。


 ……あ、俺、寝てたのか……朝早くから車に乗ってたから、まぁこうなるよな。元々朝は弱い体質だし。


 視線を巡らせると、シックで黒い座席が六つあった。荒地でも難なく走れる頑丈な造の、大人数で行くレジャーにもってこいなスポーツ用多目的車SUVだ。なかなか良い座り心地で、運転席と助手席にそれぞれタッチパネルやテレビまでついているといういかにも高そうな車だ。


「……? 朱宇、降りないのか? 先に出て待ってるぞ、お前のお母さん」


 再び隣から声が上がった。その声が示した方向に目を向けると、窓の外でひょこひょこと動く影が見てとれる。かぶってるベレー帽の位置が気に入らないようで、ひょこひょこと手を動かしていた。

 俺はその光景に向かって冷めたように息を吐き、いつものことだよ、と言って首を回すと、隣の座席にさっきまでの男口調からは想像できないほど可憐な少女がいた。

 紫と白のホーダー柄Tシャツに黒いブレザー、その下には黒いショートパンツ。全体的にカッコよくまとまっているが、ボーダーの柄が可愛らしい出で立ち。フリフリなど一切ないボーイッシュな感じではあるのに、長いブロンドと桔梗色の瞳がまだ幼さを残していて実にキュートだ。

 シャノン・キフネ・フェシュネール。フランス人と日本人のハーフで、俺と同じ小学五年の同級生だ。母親同士の仲がいいこともあって親しくなった友達だから家族ぐるみの付き合いで、今日もこうして一緒にショッピングモールに遊びに来ていた。


「何だ? まだ寝ぼけてるのか? ずっとこっちを見てるが……さては楽しみすぎて夜眠れなかったんだろ。やはり身体は正直だな、嘘はつかない」

「ばっちり起きてるよ……」


 そう言って俺は前の座席を倒し、空いていたドアから出た。

 パークエリアで車から降りると、静かなエンジン音が止まった。周りの車よりも一回り大きい車。ここら辺ではあまり見ないごついデザインが目につく。

 シャノンが車のドアを閉めるバンッという音を背に受けながら、俺はアスファルトを踏みしめ、ショッピングモールの出入り口に吸い寄せられる家族連れや若い男女と一緒に歩いていく。


(次回に続く)

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