第6話 全裸執事

 そのまま黙っているのも気まずいので、何か喋ろうと口を開く。


「あ、あのさ。お兄さん達は、何者なんですか……?」


「ああ、申し遅れまして、誠に申し訳ございません」


 うやうやしくお辞儀じぎをすると、全裸の男達は横一列に整列する。


「私どもは、ご主人様付きの執事でございます」


「し、執事なの……?」


 全裸なのに?


 俺が半信半疑で聞き返すと、さっきの超絶美形が綺麗に微笑む。


「はい。私は、秘書の桜庭さくらば春樹はるきと申します」


「続きまして、私は執事長のたちばな夏彦なつひこでございます! 今後とも、どうぞお見知り置きをっ!」


 桜庭の横に立っていた、二十代後半くらいのハツラツ野郎が、やたら元気に挨拶した。


 運動部の部長とかやってそうな、好青年といった感じ。


 さっき布団をめくってくれた、小柄な色白の美少年がおずおずと名乗る。


「は、初めまして。ぼ……私は、ご主人様の身のお世話と雑務をさせて頂きます、桔梗ききょう秋桜あきおでございます」


 小さな顔とパッチリとした大きな目が、美少女と見紛みまがうほど可愛らしい。


 でも、せっかくの可愛い顔が、長い前髪に隠れて、もったいない。


 恐らく、桔梗がこの中で最年少だろう。


「アタシは、スタイリスト兼客室係の椿つばき冬月ふゆつきよ。椿って、呼んで下さいな♪」


 三十代くらいの大男が、しなを作ってバチンとウィンクした。


 綺麗に化粧をしていて、髪は真っ赤に染められていた。


 良く見たら、長い爪にはピンクのマニキュアまで塗っている。


 執事が、そんなんでいいの?


 やたらデカくて体格が良いから、見下ろされるとちょっと怖いんですけど。


 それにしても「春夏秋冬」で、名前が覚えやすくてありがたい。


 椿の横には、胸毛が生えたガチムチマッチョが並んでいる。


 三十代後半くらいで、いかつい顔をしていて、椿よりも迫力があってスゲェ怖い。


「管理業務と給仕担当の、田中一郎です」


 そんで、お前は季節とは関係ないんかい!


 急に、普通の名前が来たな。


 田中が笑うと、ちょっと怖さが和らいだ。


 でも執事というより用心棒みたいで、怖くて目を合わせられない。


 田中とは、仲良くなるのに、少し時間が掛かるかもしれない。


 超絶美形。


 好青年。


 美少年。


 綺麗なオカマ。


 ガチムチな男前。


 それぞれタイプの違う、イケメンばっかり揃っている。


 鍛えているのか、全員良い体付きをしている。


 全裸だから、肉体美がとても良く分かる。


 いや、おかしいだろ、全裸。


 なんで、執事が全裸なんだよ?


 普通、執事はスーツを着てるよな?


 これも、ミッチェルの趣味なのか?


 趣味かな、やっぱり。


 だって、これだけの美形を揃えてて、しかも全裸。


 聞いちゃマズいかな? 全裸。


 でも、すんげぇ気になって仕方がないぞ、全裸。


 俺は顔を引きつらせながら、恐る恐る手を上げる。


「ちょっと、質問良いですか?」


「どうぞ。いくつでも、なんでもお答え致します」


 桜庭がにっこりと微笑んだので、ちょっと気後れしながら質問する。


「『なんで、全裸なのかなぁ』って、思っちゃったりなんかして……」


「それは、先代のご主人様が、お決めになられたことです。執事たるもの、主人に隠し事があってはならない。Foot man(フットマン=男の召使い。執事より格下)とは違うことを、見せ付けろ! 全てをさらけだせっ! と、いうことで、何も身に着けておりません」


「あー……そうなんだ……うん」


 それ以上、何も言えなかった。


 全裸の理由は、分かった。


 頭で理解はしたけど、納得は出来ん。


 だって、おかしいじゃん、全裸。

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