執事が全裸でコメディとシリアスを反復横跳びする俺の成り上がり物語。

橋元 宏平

第1話 弁護士先生

「お帰りなさいませ、ご主人様」


 豪華なお屋敷の玄関を開けると、個性的なイケメンが五人並んで、うやうやしく出迎えてくれた。


 全裸で。


 どうして、こうなった。




 話は、数十分前までさかのぼる。


 俺は、川崎虎河かわさき たいが、二十歳。


 俺が幼い頃に、両親は事故で鬼籍きせきに入り、児童養護施設じどうようごしせつで育てられた。


 高校卒業後、すぐに施設を出て、「Shub-NiggurathシュブニグラスEntertainmentエンターテインメント」でアルバイトしている。


Shub-NiggurathシュブニグラスEntertainmentエンターテインメント」は、総合メディア企業。


Shub-Niggurathシュブニグラス」は「豊穣ほうじょうの女神」の名前で、女神様のご加護かごがありますようにというのが、由来らしい。


 バラエティー、ドラマ、ニュースなどを放送している大手放送局。


 テレビ専門誌、番組の関連グッズなど、メディアミックスにも力を入れている。


 だけど、俺は華やかな表舞台とは無縁の、いわゆる裏方うらかた(舞台裏で働く人)。


 撮影機材を運んだり、セットの組み立てを手伝ったり、ほとんど雑用係ざつようがかり


 まぁ、ただのバイトだからね。


 今日も今日とて、したとして雑務ざつむに追われている。


 そんな俺の元へ、スーツ姿の中年男が訪ねてきた。


 長身痩躯ちょうしんそうく(背が高くてせている)で、顔は青白く、不健康そうな顔をしている。


 女を口説けばコロリと落ちそうな、静かなイケメンボイスで問う。


「すみませんが、あなたが、川崎虎河さんですか?」


「ええ、そうですけど。どちらさまですか?」


「申し遅れました、私は加藤かとう有利ゆうり。弁護士を、しております」


 薄い唇にわずかに笑みを浮かべて、加藤先生は名刺を差し出した。


 名刺を受け取ると、『加藤有利法律事務所 弁護士加藤有利』と書いてある。


 それを見た俺は、顔色を蒼褪あおざめさせる。


「べ、弁護士先生……? 俺、何かやっちゃいました?」


「ここでは、少々話しにくい大事な話ですので、場所を移しましょう」


「は、はい……分かりました」


 弁護士なんて職業の人には、初めて出会った。


 完全に偏見へんけんなんだけど、弁護士って怖いんだよね。


 だって、弁護士って、事件が起こった時に出てくる人じゃん。


 そもそも、世間一般的に「先生」と呼ばれる人が苦手。


 別に何も悪いことしてないのに、めちゃくちゃ緊張する。


 もしかして、法律に触れるような犯罪をやってしまったのだろうか。


 俺、アホだからニュースとか新聞とか全然見ないし、見ても分かんないし、世間知らずなところがあるからな。


 もし、何も知らずに犯罪者になっていたら、どうしよう……。


 スタジオ内にいる人々に聞こえるような大きな声で、「急用で、ちょっと外します」と言った後、加藤先生と共に職場を出た。

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