第51話 鎖
がらくた横丁に鎖師が来たのは昔のことではない。
「あたしは鎖師。あらゆる素材の鎖を作るのが仕事」
鎖師はそう自己紹介をした。
「あらゆる素材ですか?」
合成屋がたずねる。
「鋼、木、プラスチック、何でもいい。あたしが編めば鎖になる。そういうことなの」
合成屋はちょっと考え込み、
「まぁ、そういう事ですか」
と、一応納得した。
黒い風が吹いたあとのこと、
「ひとつ、長めの鎖請け負ってるから、仕事の邪魔はしないでちょうだいね」
そう言って店にこもりっきりになり、
やがて、
重そうな鎖をどこかに届けに行ったこともある。
「どこに届けに行ったの?」
純粋な好奇心から薬師がたずねた。
「番外地の廃ビル」
鎖師は表情薄く、そう返した。
「あたしあそこきらーい…」
薬師は嫌な顔をした。
「仕事よ。そうでなければあたしだってあそこには行かないわ」
鎖師の表情はやはり薄かった。
鎖師の狭い店の中には、作り置きしてある鎖が、ところせましと吊るされている。
鎖師は素材に手をかけると…
大した力も入れないように見えるのに、素早く素材から必要な分だけ剥ぎ取り、
やはり素早く輪にし、繋げていく。
しばらくその作業をし、
「ふぅ…」
と、溜息をつくと、手元にある一際輝く鎖を手に取った。
輝く鎖は触れられると、まるで意志があるように奥の間に飛んでいった。
奥の間でガチャガチャと音がし、
やがて、温かいお茶を入れた湯飲みが、輝く鎖に捕らわれて戻ってきた。
湯の一滴もこぼすことなく、鎖師の手に湯飲みが渡される。
輝く鎖は役目を終えると、また鎖師の傍に横になった。
鎖師は茶をすすり、
「ふぅ…」
と、溜息をついた。
茶を飲み終えると、また輝く鎖を手に取る。
鎖は湯飲みを捕らえて奥の間に飛んでいく。
食器洗いと片付けまでして、輝く鎖は戻ってくる。
この輝く鎖がどういう仕組みになっているかはわからない。
「鎖をどう使うかは依頼人次第。あたしは鎖を編むだけ」
鉄の鎖を編みながら鎖師は呟く。
「廃ビルの彼女はどう使ったのかしら…」
少し遠くを見るように視線を飛ばし、
やがて自嘲気味に笑う。
「あたしは鎖を編むだけ、それだけ…」
鎖師はまた作業に戻っていった。
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