第9話 愛玩

「理想の愛玩動物は欲しくないかね?」

こんな台詞が聞けたのはちょっと前の斜陽街。

今では聞けない。


そんな台詞を言っていたのは、二番街にあったペットショップの主人。

いい噂はなかった。

危険なペットを売りつけるとか人体実験をするとか。

尾鰭背鰭がついて噂が泳ぎ出したような人物だった。

その片目は死んだ魚のように虚ろで、

口の両端をキュウッと吊り上げて笑うのだそうだ。


「理想の愛玩動物は欲しくないかね?」

そういって客を店内に入れていた。

店内はずらりとブリキの缶が並んでいたそうだ。

主人はこう言っていた。

「望みを叶える手段を知っているかね…望みは叶ったと脳に認識させればいいのだよ…」

そうして客に妙な香を嗅がせたとかどうとか…

それ以上のことになると噂も色々でわからない。

主人が客の脳を取り出してブリキの缶に詰めていたという噂が最も有力だ。

脳は理想のペットを手に入れたという夢を見て缶の中で眠るのだそうだ。


別の噂もある。

際限なく融合を繰り返すペット…というものを売りつけたという噂だ。

何でもそのペットは触れた物を自分の一部として機能させてしまう能力を持っていたとかどうとか。

飼った男の部屋を取り込んで、なおも男を執拗に狙っていたとか。

めちゃくちゃな噂である。

まるで妖怪である。

もしそれが本当なら、世界がそのペットと融合してしまうではないかと思うが、

所詮噂なのであまり突っ込まない方がいいだろう。


今ではペットショップはシャッターが閉まったままになっている。

ここの店は閉めてしまったらしい。

しかし、ペットショップの主人がどこに行ったかは誰も知らない。

「理想の愛玩動物は欲しくないかね?」

どこかの街でそんな事を言っているのかもしれない。

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