第10話 電話

斜陽街で電話を使う者は少ない。

番外地の探偵は電話をよく使う一人だ。

依頼がかかってくることもある。

いたずら…も、たまにはかかってくる。

そして、ごく希によくわからないのがかかってくる。


トゥルルルル…

電話のベルが鳴る。

こんな時に限って助手がいない。

探偵はしぶしぶ自分で電話を取った。

「はい、こちら探偵事務所…」

『…』

「もしもし?」

『…』

「もしもし?」

二度目は少し語気が荒くなった。

そうして微かに言葉が聞こえた。

『…たすけて…』

電話はそこで切れた。

逆探知なんて言う御大層なことはしていない。

それでも探偵は助けを求める誰かを助けたかった。

帰ってきた助手と入れ替わりに探偵は斜陽街をかけていった。


こんな時、探偵は勘がきく。

探偵は三番街のがらくた横丁のあたりに来ていた。

勘が指すのはこのあたりだ。

この辺に電話なんてあっただろうか?

否、ここは斜陽街、電話無しでも回線に侵入するようなのもいるかもしれない。

探偵がきょろきょろしていると、おろおろした風の合成屋をみつけた。

「よぉ」

探偵は声をかけた。

「探偵さぁん」

合成屋はびっくりしたようだったが、すぐにお願いモードに切り替わった。

「横丁の奥の壁が崩れちゃって…何か下敷きになったみたいなんですよぅ」


探偵と合成屋は狭い横丁を奥に進む。

奥のあたりに、なるほど、崩れた壁があった。

「これか…よいっしょ」

探偵が瓦礫を退けると、その下に使われていない古い端末と…何か小さなものが出ていった。

「あ、猫…」

合成屋の言うとおり、それは小さな猫だった。

猫は汚れた身体を自分できれいにすると、やがてどこかへ走り去っていった。


トゥルルルル…

電話のベルが鳴る。

「はい、こちら探偵事務所…」

『…』

「もしもし?」

『…ありがとう…』

それは小さな声だった。

「どういたしまして」

電話はそこで終わったが、探偵はちょっとあたたかい気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る