第4話 世界の成り立ち

ネフロスが裏側の世界の通りを歩く。

タムはそれについていった。

路地のさらに裏側の、あまり広くない通りだ。

それなりに、裏側の世界の住人はいる。

さっきは影法師になって見えなかった住人たちだ。

緑色、茶色、赤、黄色。

タムは住人を見回した。

様々の色が見て取れた。

さっきの影法師とは違う、鮮やかな色彩だ。

なんだか、住人の森に迷い込んだ気分もした。


やがて、彼らは少し広い広場に出た。

噴水が大きく小さく水をあげている。

噴水の周りには、通りが出ている。

タムたちが来た通りの他にいくつか。

古ぼけた通りだと思った。

「そこで話そう。裏側の世界のこととかな」

タムはうなずいた。

ネフロスとタムは噴水近くのベンチに座り、

ネフロスは話し出した。

「裏側の世界は、風と水と土と、鉱物金属、壊れた時間と、ギミックで出来ている」

「ギミック?」

「まぁ、歯車とか、螺子とか、ぜんまいとか、ばねとか、なんとなくわかるか?」

タムはうなずいた。

「そして、俺たち住人が、ぼんやりした太陽の下、生きてる」

話している彼らの裏で、

風が吹き、噴水が、さぁ…と、音を立てた。

「この噴水も、機械仕掛けのギミックの賜物さ」

「電気を使ってるんですか?」

「いや、風と水と仕掛けで動いてるんだ。ここには流れがいっぱい集まる。それで動いてる」

「永遠に?」

「存在内の時計が、裏側の世界では壊れてるからな。いつなのかは誰もわからないさ」

「そうか、壊れた時間なんですね」

「そう、壊れた時間、壊れた時計さ」

タムはうなずいた。


ネフロスは空を見上げた。

青い空、ぼんやりとした太陽。

「世界も仕掛けで動いているとか、よくわからない話も聞く」

「ネフロスさんも、全部はわからないんですか?」

「まぁな、それでも、なんでも屋はある程度できるさ」

ネフロスは苦笑いした。

「それじゃ、なんでも屋は何を主にするんですか?」

タムがたずねる。

「なんでもだな。思い出探し、螺子探し、怪物倒して、修理して…」

「本当になんでもですね」

「まぁな」

ネフロスが片手をひらひらと振った。


タムもぼんやりとした太陽と、青い空を見上げる。

タムは昔を思い出す。

表側の世界の幼い頃。

近所の同年代の子どもと一緒に、

森に入っては、秘密基地を作った。

ダンボールで作っては、雨でびしょびしょになって。

カブトムシを探したり、がらくたを探し出しては、秘密基地に持ち込んだり。

ネフロスの言うなんでも屋は、タムのその思い出の琴線に触れた。

触れて、響いたように感じた。

もう、年齢的には、思い出に変わってしまっていることが、

今、ここにある。

タム自身の原点に返ったような気分だった。

噴水の音が、風に吹かれて、さぁと鳴る。

森の植物たちの奏でる、風抜けの音に似ている気がした。

それは、とても懐かしい音に感じた。


タムが話し出す。

「人手が足りていないんでしたっけ」

「なんでも、では、どうしてもな」

「それで僕が表側からスカウトされたんですか?」

ネフロスは頭をかいた。

つんつんした髪形が、やや、崩れる。

「裏側の住人の声が届く人間ってのが、少ないんだ」

「それは、どういうことですか?」

「俺たちの声が届かないんだ。なかなかな」

タムは首を傾げたが、何か思いつくと、微笑んだ。

「どうした」

ネフロスがたずねる。

「たまたまであっても、面白いことに巻き込まれて、うれしいと思いました」

ネフロスは小さくため息をついた。

「変なやつだ」

タムはにっこり笑った。


「世界については、おいおい話すこともあるだろう、とにかく、俺たちのアジトに行くぞ」

「アジトって言うの、なんかいいですね」

「つくづく、変なやつだ」

ネフロスにあきれられながら、

タムはネフロスについていった。

子どものころ作った、秘密基地に行くような気分で。

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