第22話 だっ!
ゴーンゴーンゴーン!
鐘が鳴っている。そろそろアリアを起こすか。この鐘が鳴ったら起こすと約束したからな。
「アリア、朝だぞ起きろ」
「スー……スー……」
反応なしか。我はアリアの腹の上で立ち上がり、伸びをする。さて、起こすと約束したから起こさねばならんのだが、人間はどうすれば起きるのだろう? とりあえず叩いてみるか。
「アリア、起きる時間だぞー」
アリアの胸を叩いてみるが無反応だ。もっと強く叩いてみるか。
「ほらっ! アリアっ! 起きるっ! 時間っ! だっ!」
アリアの硬い胸を猫パンチで乱打するが、太鼓を叩いたような音が響くだけだった。
ダメだな、まるで反応がない。やっぱり顔の方が効果的か? だが、顔は叩くなと言われていたな。じゃあ舐めるか。我はアリアの顔の横に移動し、アリアの顔を舐めていく。ペロペロペロ。
「んー……」
アリアが我に背を向けてしまった。当然、顔も我と反対側を向いてしまった。なかなか起きないな。やっぱり叩くか? ふと見るとアリアの耳が目に入る。猫の耳とは違う人間の耳だ。柔らかそうでなんだか美味しそうに見えてきた。ちょっと齧ってみよう。カプッ。
「ひゃわーーーッ!?」
耳に齧りついたら、アリアが奇声を上げて起き上がった。ふむ、耳が弱点なのだろうか?
「え!? 何? 何が起こったの!?」
アリアが耳を手で押さえて辺りを見渡している。
「落ち着けアリア、もう鐘が鳴ったぞ。起きる時間だ」
「え? あ、クロが起こしてくれたの?」
我の声に、アリアがようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「なんかほっぺたが濡れてる……涎? あ、そうだ。鐘が鳴ってるなら急がないと」
アリアが朝の身支度を始めるのを横目に、我はアリアの寝ていた場所に横になった。うむ、温い温い。アリアの支度が終わるまで時間がある。我はもう一眠りだ。
◇
「クロ起きて、ご飯食べに行くわよ」
我はアリアの声に起き上がり、ぐぅっと伸びをする。やっと飯か。もう腹がペコペコだ。
アリアの後について食堂に向かい、飯を食べる。いつもの朝食だ。相変わらず小魚が美味い。
食後に顔を洗いながら思う。歩くのだるいな。我はお腹いっぱいだ、満腹感が睡眠を誘う。昨日は遅くまで起きて、新しい魔法の調査をしていたのだ。まだ寝足りない。
そうだ! 新しい魔法と言えば、あれは移動にも使えるんじゃないか? さっそく試してみよう。上手くいけば、歩かなくてもよくなるかもしれない。我は昨日習得したばかりの新しい魔法を使いアリアの影に潜った。
「あれ?クロー?」
「ここだ、アリア。影の中だ」
「なんで潜影を使ってるのよ」
潜影というのは、アリアの考えた新しい魔法の名前だ。名前が無いと不便だというので名付けた。影に潜るから潜影、そのまんまだな。
「実験だ。ちょっと思いついてな」
「そう、どんな実験なの?」
「このままアリアの移動についていく実験だ。長距離はまだ試してなかっただろ?」
「確かにそうね。日中のデータも取れるか……試してみましょう」
本当は歩きたくないだけなのだがな。しかし、もしこれが成功したらかなり画期的なのではないか? 今後、我は自分で歩かなくてもよくなってしまうではないか。我は新しい魔法の成功を祈る。すべては、我が楽をしたいがために。
我は真っ暗闇の影の中で横たわり、上を見上げ、外の様子を窺う。どうやらアリアが歩き出したようだ。忙しなく前後する足、その上では白い下着に包まれた尻がぷりぷりと揺れている。視線を下げるとアリア以外にも周りの様子が見える。丁度、女子寮を出た所のようだ。アリアの歩く速度に合わせて景色が流れていく。自分で歩いていないのに流れていく景色というのは不思議な感覚だな。
「太陽の下でも、問題なく潜影は発動してるみたいね」
「影はあるからな。影が無くならない限り大丈夫だろう」
もうすぐ教室と中庭の分かれ道か、ここまでだな、我は潜影の魔法を解除する。潜影の魔法は便利だ。ここまで歩かずに来れてしまった。いざという時の逃げる手段にもなるし、かなり優秀な魔法だな。相変わらず戦闘力は無いが……。逃げるが勝ちだからな。何事も命があっての物種よ。
「アリア、我はイノリスの所に行っている」
「あ、出て来た。分かったわ、あんまり迷惑かけちゃダメよ」
我はイノリスの元までルンルン気分で歩いていく。今日はイノリスに良い報告ができるからな。我の心も弾もうというものだ。イノリスには魔法が上手くいかない時によく話を聞いてもらった。話というか主に愚痴だが。イノリスには随分と慰められた。甘やかしてくれたしな。そんなイノリスに良い報告ができるのが嬉しい。中庭に着くと、イノリスはいつものように日向で丸くなっていた。我はイノリスに近づいていく。
「イノリス! 来たぞ」
イノリスが顔をこちらに向け、顔を綻ばせる。
「にゃ~」
「おはよう、イノリス。今日は良い報告があるのだ」
イノリスと挨拶を交わし、さっそく我はイノリスに新たに習得した魔法を見せることにした。
「イノリス、よく見ておるのだぞ」
我はイノリスの影に入るように潜影の魔法を使う。
「にゃっ!?」
ふっふっふ。イノリスは突然消えた我に驚いているようだ。イノリスが飛び跳ねるように起き上がり、我の居た所を中心にグルグルと動き、我の居た所を前足でパンパンと叩いている。イノリスの顔には驚愕と不安があった。これは早く戻った方がいいな。アリアも急に目の前から消えるのは心臓に悪いと言っていたし。我は潜影の魔法を解除する。
「ここだ、イノリス。驚かして悪かったな。見ての通り、我は新しい魔法が使えるようになったのだ」
「にゃ~」
イノリスが我を見つけてホッとしたように近づいてくる。そして、ベロリベロリと舐めてくる。イノリスの顔には歓喜がある。我が新しい魔法を習得したことを祝ってくれているのだろう。本当にいい女だ。まるで我が事のように喜んでくれる。
「我が新しい魔法を覚えられたのも、イノリスの支えがあればこそだ。感謝する」
我は感謝を伝えるために、イノリスを舐め返す。そしたらイノリスはそのお返しとばかりに我を舐めてくる。我も感謝よ届けとばかりに舐め返す。
「ふふ、これでは終わらんな」
「にゃ~」
我らはしばらくお互いを舐めあったり、身体を擦り付けあったりして喜びを共有した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます