母という人

瀬戸はや

第3話

ひろこおばさんから聞いた話。知恵子さんは何でも得意だったのよ。女学校時代の知恵子さんはみんなからとても慕われていたわ。私もお母さんみたいになりたいと思っていたは、私ちえこさんに憧れていたのよ。

僕はなんとなく憧れていたひろこおばさんから、母に憧れていたなんて聞くとちょっと面食らってしまった。ひろこおばさんは、フランスでウーマンリブの活動に参加していたりなんかして僕は 憧れという言葉はひろこおばさんのような人に使われるものだと思っていた。そのおばさんが母に憧れていたなんていうことを言ってくるとは全く想像もしたことがなかった。女学校時代の母が一体どういう人だったのか 僕には全く知らなかった。少なくとも僕が今まで知っていた母とは全く違う人間の話をしているような気がした。

ひろこおばさんによれば、とにかく母は何でもできる人だったらしい。そんなこといきなり言われても 僕には全く想像できなかった。僕の よく知っている母はとにかく人が良くて、ぽっちゃりとした感じで、面白いことを言う優しい母というものしかなかった。もちろん宿題をやらなかったり悪いことなんかすれば怒られたけれどもとにかく母はいつも優しかった。そういうあったかい優しい母の思い出しかなかった。ひろこおばさんの言うように何でもできて、人から憧れられるような人物としての母は僕の記憶には全くなかった。そんなことありえないことだった。人から憧れられたりするような人間としての母がどうにも僕にはしっくりこなかった。とにかく僕の知っている母は他の人から憧れられるような人間とは全く違っていた。人当たりはとても良かった。母と関わりを持つ人は、大抵母のことを気に入ってくれていた。何と言うか好かれていた。母のために何とかしてあげようという気持ちになってくれていた。どうしてそういう流れになるのか その理由は 全くわからないがとにかく、母は関わりあう人みんなから好かれていることが多かったように思った。母が憧れの対象になるような人にはとても思えなかった好かれいることはよくわかった。なぜそんなに人から好かれるのか その理由は全く奥にはわからなかった もちろん僕も母のことはとても好きだった 優しかったし 楽しかったし 嫌いになる理由がなかった。

母が亡くなってもう2年になるけれど 僕には 未だにそこのところがわからない どうして母はそんなにいろんな人から好かれていたのかは謎だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

母という人 瀬戸はや @hase-yasu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る