鋼鉄の魔女のひとりごと

夜桜ユノ【書籍・コミック発売中!】

第1話 コミュ障の大魔法使い

 太陽がすでに登り切っている朝。


 シュガー・ソングという名の魔法使いの少女が自宅で目を覚ました。


 シュガーは目をこすりながらベッドを抜け出す。


「みんな、おはよ~!」


 部屋を出ると、物言わぬ窓辺の薬草たちに朝の挨拶をする。


 そして、朝食の準備を始めた。


 小さな呪文を唱えて、魔法で薪を燃やす。


 炎にかざしたフライパンが宙に浮かび上がり、そこに卵やベーコン、野菜がビシッとお行儀よく整列する。


「はい、ワンツー、ワンツー!」


 掛け声と共に手を振ると、食材がダンスしながらフライパンに落ち、音を立てながら焼かれ始める。


 テーブルには、ナイフやフォーク、皿が宙を飛んで運ばれてきた。


 朝食の準備を完璧に整えると、シュガーはドヤ顔で胸を張る。


「うん! 流石は私の女子力! これならきっと、男の子たちも放っておかないわ!」


「――女子力じゃなくてどう見ても魔法力ではないですか? 『鋼鉄の魔女』シュガー・ソング殿」


 背後から突如聞こえた声に、ピシッと固まる。


 自分をその可愛くない異名で呼ぶ、不法侵入者といえば……


「むしろ、全て魔法任せにしているという点では一般的な女性よりも怠惰なように思える」


 振り返ると、やはりその男は居た。


 その性格とは対比するように綺麗な青髪と透き通った碧眼の瞳を持つ青年。


 ルミナス王国の国王側近――フィル・テラスタルが呆れかえるような表情を見せている。


「い、いつから居たんですか……?」


「最初からですよ。何度もドアを叩いたのに出てこないし、不用心にも鍵が開いていたので」


「どうしてもっと早く声をかけてくれないんですか! ひ、ひとりごとも聞かれてたんだ。は、恥ずかしい……」


 シュガーは顔を真っ赤にすると、フィルは一層のあきれ顔でため息を吐いた。


「貴方の独り言なんていちいち聞いてません。物言わぬ植物に挨拶をしたり、食材を躍らせて楽し気に焼身自殺させたり、自分はモテる! だなんて勘違いも甚だしい事を口走っては悦に浸っていたりなんていうのは――」


「ぜ、全部見てるし聞いてるじゃないですか!」


「それに何が女子力ですか。優雅に朝ごはんを食べている場合じゃないでしょう」


 フィルは頭を痛めるように額に手を当てた。


「私がここに立っていても貴方が気が付かないほどに所狭しと置かれたよく分からないごちゃごちゃとした機械たち! 少しは片づけてください!」


「こ、これで片付いているんです……! 完璧に!」


「はぁ、もう貴方に何を言っても無駄でしょう。本題に入らせていただきます」


 フィルはテーブルの上に一枚の紙きれを置いた。


「『鋼鉄の魔女』、シュガー・ソング殿。貴方に依頼があります。食事を終えたら王都まで一緒に来てもらいますよ」

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