岡崎の箱
斧田 紘尚
伊勢佐木町の闇
R.B.ブッコロー、伊勢佐木町本店に閉じ込められる。
ブッコローが目を覚ますと見覚えがある店内のあまり見たくない風景だった。
有隣堂の伊勢佐木町本店。その閉店後の暗闇に満ちた店内だ。
何故ブッコローがこの様子を見たくも無かったか、それは誰しもが覚えるであろう得体の知れない暗闇に対する恐怖のためだった。
ブッコローは夜行性のミミズクではあるが、それ以上にこの暗闇に住まう得体の知れない存在に恐怖している。
以前、番組で夜中の伊勢佐木町本店で番組撮影をしたのだが、その際にはラップ音や誰も居ない箇所の電気が勝手に点く、懐中電灯の電球が突然切れる等の不可思議現象が散見され、遂にはロケを終了する運びとなった。
目に見えない恐怖程恐ろしい物は無いと否が応でも気付かされる一件となったのである。
そして大変残念な事にブッコローは今たった一人、この伊勢佐木町本店の暗闇の中で目を覚ましてしまったのだ。
いつものYoutube番組、有隣堂しか知らない世界の収録を終えふっと一息を吐いた瞬間、日頃の疲れが一気に噴出したのだろうか、瞼が落ちたと思った途端に意識を失ってしまったようだとブッコローは寝ぼけ眼の目を擦りながら思った。
目を覚ました後にすぐ伸びをして欠伸を一つ吐くとすぐ辺りが真っ暗だという事に気づく。
番組の収録中、ブッコローの瞳を煌々と照らしていた白光の蛍光灯の灯りはすべて落とされ、唯一避難誘導灯の緑の灯りがブッコローの体を蛍光色に染め上げている。
「ええ、真っ暗じゃん。もしかして取り残された?」
ブッコローは辺りの状況を確認しようと周囲を見渡すと、ここは伊勢佐木町本店の1階で既に閉店後でお客様どころか店員すら居らずしんと静まり返っている。
たしか自分は6階で収録していた筈なのになぜ1階に居るのかとぼんやりと疑問に思ったが、店内に取り残され帰宅できない事の方が重大だと頭を切り替える。
「なんで1階に・・・。てかやっば。おーい、誰かいないの?渡邉さーん?」
ブッコローが伊勢佐木町本店の1階から6階まで響くような大声で叫んでも誰一人言葉を返す者どころか店内の壁から跳ね返ってくる筈の山彦すら、この店内の静けさにかき消される。
「ええ、どうしよう。誰も居ない?通用門の鍵持ってたかなあ。」
ブッコローは立ち上がり何処に存在するのかよく解らないポケットの中を探り当てるものの、手に触れるものはスマホに家の鍵や自転車の鍵、そして車の鍵と今必要のない物ばかり。
どうしようかなと頭を掻きむしりながら次の手立てを考えていると、この暗闇の中に似つかわしくない声がスピーカー越しで響き渡る。
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