第18話 ヴァンの秘密。

墓地の像が綺麗になっていた事で大騒ぎになってしまい、諦めたヘマタイト達はハラキータの前に顔を出すことにして、スティエットを名乗ると「ご…ごごご…6人も!?」と大騒ぎになったが、コーラルだけは「ごめんなさい。ラージポットに呼び出しを受けているの」と謝って皆を残して行くことになる。


「コーラル?」

「ヴァンの言った通りよ、おじ様から一人で来なさいって言われたわ」


「そっか、ごめんね。俺は大鍋亭でウブツン・ジーノの手紙を読ませてもらうよ」

ハラキータと面識のあるヴァンは、自分のリズムでさっさと大鍋亭に行ってしまい、ユーナ達は伝説のトウテと喜ぶ前に、盛り上がるハラキータ達の圧に「お前がなんとかしてくれヘマタイト!」と言ってしまう。


ハラキータの凄いところは、髪色と雰囲気だけで「リナ様のご子孫様!」、「ライブ様!」と喜び始める事であった。

古代神聖教の信徒達も手を止めて、スティエットがトウテに来てくれた事に喜んでいた。




その頃のコーラルはオルドスの元に居て自身のすべき事を聞いていた。


「おじ様、それは本当なのですね?」

「本当だよコーラル・スティエット」


真剣な表情のコーラルは「私はどうすれば?」と聞くと、オルドスは「根回しは住んでいるからドウコに行って借りてくれば良い。後は君の信じる貴い行いに準じなさい」


「わかりました」

「早い方がいい。ヘマタイト達はハラキータ君に捕まってて、ヴァン君はミチト君の部屋でウブツン・ジーノの手紙と戦ってる。今がいいよ」


コーラルは深く頷いて転移した。




コーラルは泣いていた。

ドウコに着いても泣いていて信徒達に心配をされるが、「いえ、私はコーラル・スティエット。貴い者として頑張ります」と言ってトウテへと向かった。



ヴァンはミチトの部屋でウブツンの手紙を読んでいた。

初めこそ辿々しい読み方だったが文章の内容がわかってくるとウブツンの言葉がより鮮明に届く。


真剣に読むヴァンの背後に現れたコーラルが「ヴァン」と声をかけると、「あ、お帰りコーラル。ごめんね。オルドス様の無茶振りなんだった?」と言いながら振り向いたヴァンは泣いているコーラルを見て目を丸くした。



「コーラル!?どうしたの!?オルドス様に何か言われた?ミチト様の遺髪に手を出したから怒られた?」

「違う…違うわ」


違うと言ってもボロボロと泣くコーラルを見て、ヴァンはオロオロとしてしまう。


「ならどうしたの?そんなに悲しい事とか辛い事があったんだよね!?」

「ねぇ…、ヴァンはなんでセレナを救いたかったの?」


「え?助かる可能性があるなら助けてあげたかっただけ、ユーナだって本当は助けたいし、コーラルに友達が出来たら嬉しいだろ?」


それが全てではない事をオルドスに聞いて知ったコーラルは、明るく笑い飛ばすヴァンを見てさらに泣きながら、「貴い…貴いわ…。ヴァン、あなたはあの場の誰…ミチトお爺様を抜かした誰よりも生きたいと言う言葉、死にたくないと言う想いの意味と重さを知っていたからよね?」と言うと、ヴァンの作った鳥の羽根を模したペンダントトップを取り出してみせる。


話の読めないヴァンが「コーラル?」と聞き返すと、コーラルは「鳥になって見守る」と言った。

この言葉でヴァンの顔から余裕は消え去った。


「妹さんが居たのね?」

「オルドス様?凄いね。出会う前の事まで知ってたんだね。そうだよ。俺には小さな妹が居た。名前はリット、北部の寒さは厳しいから、タイミング悪く冬に病気になった。そのまま高熱で死んだよ。リットは死ぬまで「死にたくない」「怖い」「生きたい」って言った。小さいから死ぬ意味なんてわからないだろうけど確かに言ったんだ」


「だから死を見逃せないのね?」

「見逃せないよ。死んでいいなんて許せない」

ヴァンの表情はドンドン険しくなっていく。


「リットが最後に言ったのは「お兄ちゃんと生きたいけど無理だから、死んだら天に住むって聞いたから鳥になるんだよね?鳥になってお兄ちゃんが怪我をしないように見守るね。お兄ちゃんは怪我ばかりだもんね」だよ」


暗い顔で「オルドス様のお使いはそれをコーラルに教える事か…」と呟くヴァンに、もう一度涙を流したコーラルは真面目な顔で前を向いた。


「コーラル?」

「ヴァン、私の名はコーラル・スティエット」


コーラルは涙を拭う事もせずに胸に手を置いて名乗りを上げた。


「知ってるよ」

「ええ。私の友達、ヴァン・ガイマーデ」


「どうしたの?」

「私は今日初めてスティエットの名の意味と重さを知ったわ。間近な人間の死生観。真に貴い者の心に触れた。私はあなたを尊敬する」


「俺は貴くないよ」

「ううん。貴いわ」


「貴くない。貴いのはコーラルだよ。今も泣いてくれてるよ?」

「私はスティエットとしてあなたの為に何かをしたいの。そして考えついたの」


「何を?別にいいって。セレナも助かったから万々歳だよ?」

「ダメよ。五式を考えたの。五式は術者の身体に合わせるから無理のない変化を迎える。ペトラさんのようにはならないわ」

ここまで聞いてわからないヴァンではない。「コーラル?それって…」と聞き返すと「ヴァンのお母様から借りてきたわ」と言ってコーラルが見せたのは小さな遺髪だった。


「それ…リットの…」

「ええ、お母様は肌身離さず持っていた。それを借りてきたわ」


コーラルはオルドスから渡されていた空のペンダントに遺髪を入れると「転生術」と言う。


光の先に居たのはコーラルとは違うセミロングの髪の少女だった。


「ここ…、どこ?え?私の中にお姉さん?目の前にお兄ちゃん?」


1人で混乱しつつコーラルが説明するとヴァンをみて「お兄ちゃん」と声をかけるリット。

ヴァンが震えながら「リット…なんだな」と聞くと、リットは「うん。今は私の方がお姉ちゃんだね」と言って微笑んだ。

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