第11話 正義の悪魔。
ミチトが笑っていられたのはここまでだった。
ユーナを見て、話を聞くとタシア、シア、コードの血を継ぐ真式なのに、セレナを助けられなかった時が怖いからと術の使えないミントを名乗っていると聞くと、恐ろしい顔になって「情けない。タシア達は術を拒絶していたが、それは強すぎる力が万一想定以上に人々を傷つける事が怖かったからだ…。それをなんだ?大切な人の命を背負う覚悟もない?ふざけるな」とユーナを叱りつけると、「肉体の持ち主には許可を取った。その子を連れて地下へ来い。鍛え直してやる。昔のナハトを見てるみたいでイラつく」と言って地下に降りると、「イブに言われて昔の服を残しておいてよかった」と言って収納術から服を取り出して着替える。
ヴァンが興味深そうに「イブさんに何を言われたんですか?」と聞くと、ミチトは「…怒ってる俺に近寄るなんてすごいや」と言ってから、「イブは歳を取って服を処分しようとしたら、「ミチトさん、器用貧乏は恐ろしい言葉です!きっと若い時の服とか着る日がきますから収納術にしまってください!」って言われたんだよ」と説明をして笑う。
ミチトは笑いながら辺りを見渡すとファットチャイルドの残骸の山を見つける。
「ナハトのリトルチャイルド?」
「あれはタシア・スティエット達が、ミチトさんの死後に隕鉄で作ったファットチャイルドなんですって!」
「タシアが…。嬉しいような悲しいような気持ちになるね」
「なんでですか?」
「タシアはナハトに懐くくらい剣で強くなりたかったのに、真式になるくらい俺の分まで戦おうとしてくれたからね」
ミチトは残骸に近寄ると「俺の術で姿を変える」と言ってシャゼットそっくりの剣と手甲、後は愛の証そっくりのレイピアを作り出すと「アクィ」と呼びかける。
「何?」
「あの日の訓練をする。コーラル達にヒールをさせるんだ。俺はユーナを殺す」
慌てるコーラル達を無視して、ミチトは「構えろ。何を使っても構わない」と言って手甲を身につけると、「無手の俺に勝てると思うな」と言って構えた。
隙のない構えにユーナが攻めかねている。
アクィは「コーラル!ヘマタイト!ペリドット!シャヘル!ユーナにヒール!ユーナが死ぬわ!」と言ってコーラル達が構えた瞬間に、ミチトは距離を詰めてユーナを殴り殺した。
一瞬だった。
一撃一閃で死んだユーナがヒールで蘇生して「グガ!?」と言いながら蹲ると、ミチトは「まず一つ」と言った後で手元を見て、「…それにしてもこの身体は弱いなぁ」と不満を口にする。
「あれで…」
「弱い?」
「バケモンだ…」
「あれがミチト・スティエット…」
驚くコーラル達を無視して、アクィが「本当、この時代の子達は戦いに縁遠いから弱いのよね」と言う。
「まあそれも良い事だよね。早く起きなよ。ナハトならこの段階で5回は殺したよ」
ミチトの圧に震えながら立ち上がったユーナは、ファットチャイルドを構えて斬りかかる。
「重い隕鉄剣を手足のように使うとか…それは賞賛に値する」
だがユーナが何をしてもミチトはその全てをうわ被せてユーナを突き放す。
ダガーに持ち替えて滑走十連斬を放てば、ミチトは「ジェードより遅い!反撃を想定しろ!」と言って滑走二十連斬でユーナを斬り飛ばす。
激痛で動けないユーナに「俺の剣に刃がなくて良かったな」と言うと、「まだだ!その身体なら!俺の無限斬なら!二刀剣術!」と言って前進してくるユーナを見て、ミチトは「甘いんだよ。タシアに比べたら遅過ぎる」と言って収納術から予備の剣を取り出して「二刀剣術…」と言いながら前進した。
「「無限斬!」」
ミチトの無限斬はユーナを上回り、あっという間にユーナは吹き飛ばされるが、すぐに「まだだ!二刀剣術!!」と言って立ち上がる。
「諦めの悪さはナハト譲りか?」と言って笑ったミチトは「コーラル!アクィを俺に貸すんだ!」と言って愛の証を受け取ると、「無限斬の弱点を見せてやる。アクィ、付き合ってくれ」と言う。
アクィも嬉しそうに「奮いなさい!」と声をかける。
「二刀剣術!無限突!」
ミチトはアクィがコーラルに授けた六連突きを更に昇華させた無限突を放つ。
「これ、年取ってから考えた技だけど、ぶっつけ本番でもできて良かったよ」
「ふふ。私は六連突きをシアに教えたのよ」
「え?そうだったの?」
「そうよ。まったく、凄いんだから、100まで数えたけどもっとよね?」
「まあね。ありがとうアクィ」
「ううん。またミチトに振るって貰えて嬉しい」
ミチトは愛の証をコーラルに戻すと「立てよ。まだ動くだろ?」と圧を放つ。
必死に立ち上がりながら「く……、頼む…。その力でセレナを…」と言うユーナの言葉にミチトが怒りかけた時、「まだそんな事言ってんのかよ!セレナはユーナにしか治して貰いたくないんだよ!いい加減腹決めろよ!」とヴァンが叫び、ミチトに「ミチトさん!無限術人間の作り方をユーナ達に教えて!セレナが死んじゃうからお願い!」と詰め寄る。
「えぇ…、そのつもりだけど君凄いね」
「凄くないよ!ちゃんと御礼とか考えたから良いよね!?」
「御礼?」
「うん!まずこれ!」
ヴァンが渡したのはコーラルのケーキ達だった。
「どう!美味しい!?」
「うん。アクィの味に近い。美味しいよ」
「ならこれ!」
そう言ってヘマタイトのパンケーキやシャヘルのクッキーを渡すと「イブとメロの好みの味に近い。懐かしいな」と喜んだ。
「それでこの後が考えた奴!ミチトさん!コーラル達は武器を作ったり直したりが下手くそなんだ!あのファットチャイルドの残骸で武器とか作らせるから教えてよ!」
「…それいいね。あんな隕鉄の残骸とかムカつくよね…うん。壊そう」
ミチトはもう一度愛の証を握って「アクィ、力を貸してよ」と言うと、ファットチャイルドを杖代わりに立つユーナを睨んで、「光斬術」と言って光の刃を飛ばすとファットチャイルドを真っ二つに切断してしまった。
そのまま「構えろ」と言って他の武器を構えさせるのだが、その全てを愛の証とシャゼットもどきの変則無限斬で粉々にへし折って、「うん。スッキリした。君達がこれを完璧に直して、更に体型に合わせた武器を持つならユーナに模式の作り方とか教えてあげるよ」と笑い、アクィは嬉しそうに「出たわね、正義の悪魔」と言った。
コーラルが状況を見て「ヴァン…これが…」と聞くと、ヴァンは「うん。どうやってミチトさんに頼むか考えてコレだ!って思ったんだよね」と言ってニコニコと笑っている。
「何という事を…」
「あの残骸と…」
「あの原型のない奴を直せだと…」
ミチトは圧を放ってユーナの首根っこを掴んでセレナの前に連れ出すと、圧を消してニコニコ笑顔で「セレナさん、もう少しだから頑張れるよね?」と声をかける。
それは同一人物にはとても見えない。
セレナは「……はい」と困りながら返事をする。
ミチトは「ほら、頑張ります。よろしくお願いします。って言えよ」とユーナに言うがユーナは下を向いて何も言わない。
ミチトは無言でユーナを殴り飛ばすと「ほら、頑張りますだ」と言う。
それでも返事をしないユーナをコレでもかとボコボコに殴り「ほら、やり返して良いよ?」と言って、ダウンを取っては「シャヘル、ヒール」と言って治させて「よろしくお願いしますは?」と迫る。
シャヘルが「いい加減やると言え」と文句を言う頃に、「セレナ…。俺でいいのか?」とユーナが言った。
「うん。私を助けてくれるのは昔からユーナだよ」
この言葉にまた黙るユーナを見て、ミチトは「覚悟を持て。俺の子供達は皆覚悟を持って生きた。それを忘れるな。タシアもシアもコードも模式は持たなかったが、覚悟はいつもしていた」と教えると、ムスクれたユーナが「コード・スティエットは50を過ぎてから自身の模式に子を産んでもらってる」とだけ言った。
「マジで?」
驚くミチトだったが「うわ、体の持ち主がマジだって言ってる」と言って、「何やってんだよコード…。あんだけモテてたのにまだ子供……。トゥモみたいに身持ちが固いのも困るけどなぁ…」と肩を落とすと、愛の証のアクィも「本当、トゥモは潔癖過ぎたわ」と漏らして2人してため息をついていた。
コーラルとヘマタイトからすれば自分達が居る以上、ラミィ・スティエットかフユィ・スティエットが婿を取らなければ、トゥモの子孫になるので何があったのか気にしてしまった。
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