結果発表(貴志視点)

 前話の「貴志くんの部屋」から「結果発表」まで貴志視点で進みます。


 ―――――――――――――――


 11月初旬、とうとう最終選考の結果が出る日がきた。


 ひとりで部屋にいるのも落ち着かず、庭に出たり入ったりしていると、ちょうど創立記念日で学校が休みだという葵ちゃんが付き合ってくれた。

 

 ふたりでベンチに座って話をしていると、会社へ行こうとする葵ちゃんのお母さんに叱られた。

「ずっとそんなところにいたら風邪引いちゃうわよ」


 確かに朝から気温も低いし、よく見ると葵ちゃんも少し寒そうだ。早く帰してあげないと。


 ところが僕が口を開く前に、葵ちゃんのお母さんがとんでもないことを言い出した。


「しょうがないわねえ。今日は貴志くんちにお邪魔させてもらいなさい」

「「えっ!?」」

 僕と葵ちゃんは同時に声を上げた。


「信用してるわよ」と警告めいた言葉を残し、そそくさと出勤していく葵ちゃんのお母さん。 


 もちろん変なことをするつもりはないが、ひとり暮らしの男に娘を託していいのか!?


 とりあえず、風邪でも引かせたら本気で怒られそうなので、

「うち、来る?」

 と葵ちゃんに訊いてみた。

「いいの!?」

「うん。散らかってるけど」

「そんなの、全然平気!」


 断られるかと思ったのに、結構ノリノリだ。

 信用してくれるのは嬉しいけど、もしかして男として意識されてないのかな。

 そう思うと、なんだかモヤモヤした。


「どうぞ」

「お、お邪魔します」


 葵ちゃんが部屋に来るのは久しぶりだ。

 少し窓を開けて換気をし、暖房をつける。部屋が狭いからすぐに暖かくなるだろう。


(葵ちゃんの座るところを確保しなきゃ)


 床に置いてあった本をどかし、クッションのほこりを払ってから、ローテーブルの前に座ってもらった。

 僕も斜め前に座り、テーブルの上にあるパソコンで再度確認してみたが、結果はまだ出てなかった。もしかしたら午後になるのかもしれないな。



 葵ちゃんはココア、僕はカフェオレを飲みながら、のんびりと待つことにした。

 窓の外では、赤や黄色に紅葉した木が冷たい風に吹かれて揺れている。


(やっぱり部屋に連れてきて良かった)


 葵ちゃんはカップで両手を温めながら、フーフーと息を吹きかけ、ココアを冷ましている。


「なんかいいね。こういう時間も」

 思わず漏れた言葉に、葵ちゃんが小さくうなずく。


 もしかしたら、葵ちゃんも同じ気持ちなのかな。

 ふたりだけで過ごす穏やかな時間を、かけがえのないものだと感じている。



 ◆


 そしてとうとうサイトに結果が公開された。

 

 大賞受賞は………………


『前世大賢者だった俺は、魔法学校で青春します』

 麦野案山子


 え? え? ええっ!?


「キャ――――ッ!!」

 すぐそばで葵ちゃんの絶叫が聞こえた。


「やったね、貴志くん! おめでとう!」

「え、あ……ありがとう。え、ほんとに?」

「本当だよ! ほら、よく見て。大賞『前世大賢者だった俺は、魔法学校で青春します』って書いてるでしょ」

「うん。麦野案山子むぎのかかし……僕だ」

「そうだよ! 貴志くんだよ!!」


 身体が震えてきた。頭がおかしくなるほど想像はしたけど、まさか本当に大賞を受賞するなんて思ってなかった、らしい。自分でもよくわからない。

 

「あ……」


 いきなり両目から涙があふれた。

 恥ずかしいので隠そうとすると、葵ちゃんが僕の頬に触れ、指先で優しく涙をぬぐってくれた。

 

「がんばったね、貴志くん」

「う、うん」


 もう駄目だ。涙が止まらない。


 葵ちゃんは泣いている僕の頭を胸に抱き寄せた。良かったねと言う声が震えていて、彼女も泣いているんだなと、ぼんやりと思った。

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