2回目デート(貴志視点)
ひょんなことから、葵ちゃんとふたりで出掛けることになった。
部屋を出ると、外は明るい日差しが降り注いでいる。
天気がいいことにホッとしながら迎えに行くと、葵ちゃんは初めて見る洋服を着ていた。なんだかいつもと感じが違う。
ボーっと見ている僕に葵ちゃんが言った。
「どう? おめかししてみたんだけど」
「う、うん。いいと思う」
「それだけぇ?」
葵ちゃんは、プクッと頬を膨らませた。
(他になんて言えばいいんだ!?)
「え、あの、似合ってるよ。いつもより大人っぽく見える」
たぶんこの答えで正解だったのだろう。葵ちゃんが嬉しそうに笑った。間違えなくて良かったと、僕は胸をなで下ろした。
***
〈小鳥通り〉は、週末ということもあり、たくさんの人で賑わっていた。
僕は人ごみが苦手な方だが、葵ちゃんと一緒に店を覗いてまわるのは楽しかった。彼女は面白そうな物や気になる物を見つけては僕に教えてくれる。
石が売っている店では「魔石ってこんな感じかな?」と言われてハッとした。
金色に光る石は
「黄金に似ていることから『愚者の金』とも呼ばれてるんですよ」
と店の人が教えてくれた。
もしかしたら、金だと騙されて買った人たちがいるのかもしれない。
紫の石はアメジストクラスター。ヒーリング効果が強いというから、異世界なら治癒魔術師にぴったりだ。
しばらく妄想していたらしく、気がつくと「しょうがないなあ」という顔で葵ちゃんが見ていた。中学生に見守られてる大人って、
反省しながら歩いていると、葵ちゃんを見失ってしまった。
慌てて辺りを見回すが、目のつくところにはいない。
気持ちばかり焦って頭が働かず、スマホで連絡するという手段すら思いつかなかった。
人ごみに逆らうようにさっき来た道を戻ると、道端でキョロキョロしている彼女を見つけた。
「葵ちゃん!」
僕を見た彼女がほっとした表情を浮かべて手を振る。
「ごめん! はぐれてたの気がつかなくて」
「ううん。わたしがぼーっとして歩いてたから」
不安だっただろうに、僕を気遣うように微笑む彼女を見て、
「通りを抜けるまで手をつなごうか?」
と思わず言ってしまった。
葵ちゃんが驚いたように僕を見る。
しまった。気持ち悪いと思われたかも。
「う、うん」
(え、いいの?)
僕がおずおずと左手を差し出すと、葵ちゃんが僕の手をキュッと握る。
柔らかくて小さな手。
僕はその手を壊さないように、そっと握り返した。
しばらく無言で歩き、通りを出たところで、ふたり同時に手を離した。
なんだか妙に緊張した。出会ったとき彼女はもう5年生だったから、手をつないだのは今日が初めてだった。
「手に汗かいちゃったね、えへへ」
葵ちゃんはハンカチを出すと、なんと僕の手まで拭いてくれた。
「ごめん! 僕のせいで」
「ち、違うよ。暑かったし、わたしも汗かいちゃったから」
お互い気遣っていると、目の前にドンとそびえ立つ赤い鳥居が見えた。
「ちょっと行ってみる?」
声をかけると、葵ちゃんは嬉しそうにうなずいた。
お参りをする前に、予約していた古民家カフェに連れていった。ここは母の友人の店で、母と一緒に何度か来たことがある。
雰囲気が良くて食事も美味しいので、ここなら葵ちゃんも喜んでくれるんじゃないかと思ったのだ。
店に入る前から、葵ちゃんはウグイスの声に驚き、古民家カフェだと喜んでいた。店内の雰囲気や食事にも満足してくれたようでホッとした。
なりゆきで来週も来なければならなくなったが、そろそろ母に連絡しなきゃと思っていたので、ちょうど良かったのかもしれない。
一度だけ、母がスミレ荘に来たことがあるが、いきなりやってきて汚いだのなんだのとうるさいから二度と来ないように言ってある。
葵ちゃんを見習って、たまには親孝行でもするか。
母の日のプレゼントを渡したら、どんな顔をするかな。
―――――――――――――――――
デート回は今回で終わりです。
次回、貴志くんが新しいコンテストに挑戦します!
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