有隣堂の女神さま。
うさな
第1話
「異世界転生です!」
収録終わりのスタジオで、女神が元気よく言い放った。
「……ハァ?」
疲労の滲み出る声でそう返事をしたのは、彼女の目の前にいるオレンジ色のミミズクだ。
「ですから、わたくしは有隣堂を訪れたくて異世界転生したのです。……聞いていますか?ブッコロー?」
女神はふわふわと波打つ金糸の髪を揺らしながらご機嫌斜めな仕草で腰に手をあて、ブッコローと呼んだミミズクに念を押す。
「えっ?なになになに?僕、疲れすぎて幻覚見てる?」
ブッコローは疲労のあまりぼんやりとしてしまって、うまく思考ができていない。体もふらふらと揺れてしまっている有様だ。
なぜブッコローがこのような状態になっているかというと、ここ神奈川県にある老舗書店・有隣堂伊勢佐木町本店6階スタジオで、あと数十分で終電になってしまうという時刻まで動画収録をしていたからである。
60センチほどの達磨のようなシルエットで虹色の羽角をもち、右翼の脇に緑色の本を抱えているミミズクのブッコローは有隣堂チャンネルのMCを務めていて、少し前に終えた動画撮影で延々としゃべりっぱなしだったためヘトヘトに疲れきっていた。
そこへ「ちょっと!あなたどこから入ってきたんですか!?部外者の立入はご遠慮願います!」と、この春に広報マーケティング部へ配属された男性新入社員の湊が割って入ってきた。撤収作業中に突然現れた「西洋画の女神みたいな格好をした不審人物」に警戒しきりだ。
「よくわからないけど、お姉さんは有隣堂のお客さんなんすか? 今は夜中だから朝にならないとお店は開きませんよ。」
そう絞り出すような声で言ったブッコローには、現在の異常な状況をおかしいと判断するだけの気力は失われていた。なんか適当に納得してもらって不審者には穏便に帰ってもらおう。早く家に帰り、娘の寝顔を見てから眠りにつきたい……。
「ブッコローさん、気にするところはそこじゃないと思いますよ!!」
「なるほど、なるほど。」
不審者は湊のツッコミを無視して、うんうんとひとりで納得すると合点がいったと言わんばかりに胸の前で手を叩き、朗らかに宣言した。
「わかりました。では、朝にいたしましょう。」
と言うが早いか、不審者……もとい女神の体がまばゆく発光すると一瞬で視界に光が拡がった……!!
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