レベルアップは見た目だけ ~ 世界に平和をもたらすべく懸命に努力を続けてきたのにレベルアップしても全然強くなれず、落ち込んでいたのだけれど……。どうやら顔面偏差値のみ大きく上昇していたもよう ~
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第1話 追放
ある午後のことだった。
「……と、いう事でお前には抜けてもらう」
ついに実力不足を理由に、魔王討伐パーティーのリーダーである勇者のユーリより追放を言い渡された。
「っ! でも、オレは魔王を倒すためにここまで……」
食い下がるオレを見て、ユーリが眉間に手を当てハァと深いため息をつく。
「お前の気持ちは分からんでもないし、別にボクだってお前が嫌いなわけじゃない。お前が日々努力しているのも知っている。だがなぁ……お前の成長はただの見掛け倒しじゃないか」
オレはユーリの言葉に唇を強く噛んだ。
そうだ。
この三年間、オレは強くなることを目標に鍛錬を欠かしたことはなかった。
しかし……。
才能がない為なのか、パーティーメンバーと日々実力差が開いていくばかりであったこともまた事実だった。
悔しいが、ユーリの言い分が尤もである事はオレ自身が誰よりも分かっていたから。
オレは自分の気持ちを押し殺し、これ以上皆の足を引っ張る事の無いよう、僅かばかりの金を受け取り、一人長年所属していたパーティーを去った。
******
自分の実力不足が原因とは言え、魔王討伐に一番近いと言われているユーリから切り捨てられた事は、正直すぐには割り切れないくらい悔しくもあった。
しかしオレの本懐は、皆と共に旅をすることなどではなく魔王を討伐し、世界に平和をもたらすこと。
それ故仲間に見捨てられようと、オレはこんな所で、こんな事で立ち止まるわけにはいかなかった。
気持ちを切り替え、さて、これから一人でどうしていこうかと思った時だった。
「ハルト、待ちなさいよ! 私に相談もなく一人パーティーを出て行くなんてどういうつもり?!」
そう言って。
肩まである栗色の髪を揺らし、女の子が一人息を切らせながらオレの傍に駆け寄って来た。
僅かにツンと眦が吊り上がった大きな瞳を持ち、実に健康的で愛らしい容姿をした彼女の名はリリア。
オレの幼馴染みであり、ユーリのパーティーの回復師だ。
リリアはオレに追いつくなり
「ハルトがパーティーを抜けるなら私も抜けるわ。だから私を置いて行くなんて許さないんだからね!」
そんな驚くような事をあっさり言ってのけた。
三年前も
『弱い癖に、村のみんなの反対を押し切って世界の為に魔王を倒す旅に出ようとするなんて、ハルトはお人よしが過ぎるのよ。……しょうがないわね。ハルト一人じゃ心配だから私も一緒に行ってあげるわ』
そう言ってリリアが、たった一人で生まれ育った村を離れるつもりだったオレについて来てくれた事を思い出す。
「リリア、ありがとう。でも……、でもリリアは本当にそれでいいのか?」
多くの死線をくぐってきたにもかかわらず、三年前とほとんど強さの変わらない残念なオレと違って。
この三年の内にリリアは大きく実力を伸ばし、聖女と呼ばれ多くの人々に慕われるまでに成長した。
故に、そう言ってくれるリリアの気持ちは素直に嬉しいが、彼女をオレの事情に再び巻き込んでしまうのは躊躇られた。
「今更何よ。ずっと一緒だって、村を出る時約束したでしょ!」
不甲斐なさから俯くオレの弱虫心を、リリアがいつもの様に眩しく笑い飛ばし。
オレに向け、相変わらずオレのものよりも少し小さく暖かなその手を伸べてくれた。
これまでと何一つ変わらないリリアの優しさが酷く胸に染みる。
いつか彼女の心意気に報いられる様、これからも努力を重ねていく事を密かに胸に誓い、リリアの手を取ろうとした、その時だった。
「いいえ、よくありません! リリアさんは大切な魔王討伐パーティーのメンバーですからこれまで通り、勇者様達と旅をお続け下さい。ハル様のお世話は、この先リリアさんに代わり、シルドバッケン国の第一王女である私が責任をもってさせていただきます!!」
そう言って、リリアに向かい伸ばしたオレの手をバッと掴んでその豊かな胸元に抱き込むようにして強く引いたのは、同じく魔王討伐メンバーとして長い事共に旅をしてきた仲間。
長いプラチナブロンドとアメジストの瞳がまるで儚い夢の様に美しい少女、クローディアだった。
クローディアもまた、旅を始めたばかりの頃はか弱く我儘放題で手のかかるお姫様だったのに。
旅を通して多くの精霊と契約を成した彼女は様々な知識と魔法を身に着け、今では賢姫とも精霊姫とも呼ばれ多くの国民から敬われている。
寄る辺を失ったオレを憂いて、そんな風に慮るクローディアに感謝の言葉を伝えようとした時だった。
「ダメですよ~。お二人とも魔王討伐には欠かせない存在だというのに、パーティーを抜けるなんて、何言ってるんですか~。あ、でもそんなお二人と違って私は普段の戦闘ではハル先輩同様役立たずですから大丈夫です。ハル先輩、ここからは二人でゆっくりのんびり私達のペースで旅を続けていきましょうね~」
そう言ってクローディアとは反対の方のオレの手を強く引いたのは、神秘的に美しい艶やかな黒髪と揃いの色の瞳を持つ、魔術師のメグだ。
その凛とした美しい容姿に反し、メグはいつもにどこか眠たげに、少し間延びした話方をする。
そんなメグの声に、我知らず強張らせていた肩の力が抜けていくのが分かった。
「先輩同様『役立たず』って、お前なぁ」
いつもの様に失礼なメグの発言に怒ったフリをして、彼女の柔らかな頬を痛くない様やさしく引っ張れば、メグがまたいつもの様にふにゃっと笑った。
メグはオレと同じと言ったが、彼女が扱うのは一度放てば周辺一帯を焦土と化す超高火力の魔法だ。
故にそう何発も打てるものではなく、普段の戦闘ではいざというときに備え力を温存しているだけ。
決してオレのように弱い訳ではない。
それを分かって、でも『同じ』だと言ってくれたメグの気遣いが嬉しくて。
妹にしていた時の癖で彼女の頭を撫でようとした時だ。
「いいえ、誰が何と言おうと私がハル様と一緒に行くんです!!」
そう言いって、またクローディアがグイッと強くオレの腕を抱き込むようにして引っ張った。
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