恋、超え、愛、哀。

遺産

桜散り、

 金曜日の夜。忙しい居酒屋アルバイトの帰り道、ついこの前まで満開だった桜が葉に変わっていた。


 桜の花が葉に変わる頃、私はいつも貴方との想い出を思い返してしまう。



「別れよ」


 先に言い出したのは貴方からで、私は其れに首を縦に振ることしかできない。

 悔しい。


「最期にもう一回だけ遊ばない?笑」


 私の特技、笑うこと。

 笑いながら言った私のその言葉に貴方は頷いてくれて、遊ぶ事になった。

 その日は雨が地面に落ちていく日。

 低気圧に押し潰されそうになりながら私の最寄りまで来てくれた貴方を迎えに行く。雨から逃げるように雨宿りをしていた貴方目がけて声をかけた。


 一緒に私の家まで歩く道中、まだ別れて数日しか経ってない貴方は付き合っていた時よりも無愛想になっていて虚しくなる。

 其れに強がって喋り始める私。


「此処まで遠かったよね。」


 やはり無愛想に頷く貴方。

 無駄なことを喋ったと少し罪悪感を覚えたが、其れを出さないように匂わないように


「そっか。笑」


 と返事をした。

 家に着いてまず貴方は私の飼っている黒い犬を可愛がる。その貴方が私を愛してくれていたあの時のようで、哀しくなって見ていられなくなった。

 部屋に二人きり。ゆっくりと流れる二人の時間。

 別れた私たちはもう今更何を話せば良いのかわかんなくなって頭が真っ白になった私は



「別れたくない。貴方と私の愛の大きさが違っても私はずっと貴方と居たい。」



 言ってしまった。私は何を言っているのか。ほら、貴方も困った表情をしている。

 貴方が言うには、少しだけ私のことを愛しているらしい。残念な私はその言葉で嬉しくなった。

 

「其れでも良いからもう一度愛し合いたい。」

 

 貴方は縦に首を振った


 気持ちが溢れて深い愛を貴方と私の口の中で味わった。気持ちがいい。ずっと永遠にこの時間が続けばいいと思った。

 

 少しだけ日が経ち、貴方との初めての春を共に歩んだ。貴方と私は別々の学校に行き、貴方は部活、私はアルバイト。予定が合えば二人で手を繋いでお揃いのキーホルダーを買いに行ったり、貴方の家で恥を残しながら互いに体を重ねたり、一緒の夢を共有したりした。


 今だけはこの大き過ぎる程の空に貴方と手を伸ばして居たい。そう思う日が多くて私は貴方に其れを知って欲しかった。

 

「本当にそれでいいの?貴方は少ししか愛されていないんだよ?」

 

 同級生の女の子からの言葉だった。

 其れは核心を突くように私の奥深い部分にまで刺してきて一気に苦しくなった。いきなり夢から現実に引き摺り出され、さっきまでいつもの様に笑っていた私は一気に陰気臭くなった。

 よく考えれば、気づいてくれるかどうか解らないくらいの気遣いとか、他愛もないメッセージに返信する気力とか、貴方の為に朝早くから起きて化粧をしていた時間とか、全てが無駄に思えてきて。私は貴方の愛を少ししか貰っていないのにこんなに頑張っていた私が可哀想。貴方は何も私のためにしてくれなかったのに。思い出したらキリがなく、私は貴方への気持ちが冷めてしまった。

 

「別れよう」

 

 次は私が言う番。少し心が軽くなった。きっと心の何処かではこうなる事に気が付いていたのだろう。

 

  

  日曜日の夜。相変わらずな居酒屋アルバイト 帰りにご褒美でも買って帰ろう。葉桜を見ながら思った。

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