第45話【最悪の再会】

 雨宮の持つ銃の射程有効距離は五○~百メートル範囲。

 銃口から装薬と弾丸を詰め、撃鉄を起こしてコック・ポジションにする。

 これで発砲準備は完了する。

 そこまでに掛かる時間はおよそ一○~二○秒。

 そして引き金を引いて、弾丸が発射される。

 計発砲まで掛かる時間はおよそ二○~三○秒ぐらいになる。


「あーくそ、銃はあんまり慣れてないんだよな。

一発の銃弾で数匹か撃つようにしてるが、照準がズレて数がばらつく……!」


 雨宮の近くで風を斬るような音が聞こえると、ラヴィが刀にこびり付いたデッドの血や肉片を振り払っていた。


「ラヴィ、何匹斬った?」


「二○……三匹だね。やっぱり予想以上だ。

燃えてる場所には近づこうとしないから、世釋が門から出ていくのを確認してから街に下る門の前を一通り燃やして来たよ」


 雨宮は瞬きを繰り返すと、首を傾げた。


「え、どうやって?

お前火起こすもの持ってたっけ?」

「刀で摩擦起こして、火花が散るから……あとは枯れ葉にその火花が移れば。

今日は風もそこまで弱くも強くないしすぐに火が大きくなってよかったよね。

偶然とはいえ俺らが毎日草取り頑張った甲斐があったよね」


 ラヴィはそう早口で言うと、はははっと乾いた様な笑い方をした。

 雨宮はちらりとラヴィが燃やして来たと言っていた門の方に視線を向けた。

 雨宮が火薬を放った屋敷よりも小規模のようだが、炎の高さは遠くからでも激しいのが判った。


「……とりあえずこれでここから発生したデッドはこの場に閉じ込められたってことか。

あと報告しとくと、カイン・クロフォードの姿は遠目であのときは確認できたが、今はデッドが多すぎて見失ってる。

矢の数は?」


 雨宮にそう言われ、ラヴィは矢筒を確認する。


「街でも何本か使ったからあと一○本もないと思う。

雨宮、照準合わせたら少し右にズレてみて」

「うん……こうか?

……っと、すごい一発で周りのデッドにも着弾したわ!

流石ラヴィだな……!」

「こういうタイプの銃は大体散弾式だから、雨宮の今持ってる銃もかなと思って。

実際見るのは、はじめてだから上手く着弾してくれてホッとしてる」

「これなら屋敷に近付きながら発砲できそうだな。

デッド溢れすぎて足止めくらってたんだよ」

「間違えても俺に被弾させないでよね」

「へい、へい」


 ラヴィは前方に出ると、次々に襲い掛かってくるデッドを斬っていき、後方から支援する形で、雨宮が銃をデッド達に発砲していく。


「ラヴィ!

しゃがめ!!」


 雨宮に言われたようにラヴィはその場にしゃがむと、弾丸が頭上を通過していく。

 そのままラヴィは体勢を低くしたまま前方に駆け出すと、斜め下方から刀を滑らせながら被弾を免れたデッドを数匹斬殺した。


 デッドを撃つ。

 振り向き際、デッドの脳天に向かって撃つ。

 正面に向きなおすと、デッドの足を撃ち、姿勢を崩した所にトドメの一撃をくらわす。

 デッドを斬る。

 右上から左下へ斬りおろす。

 受け流しながら、デッド背にまわり込み、斬撃を与える。

 返り血を浴び、デッドの臓物が自身の頬に貼り付き、頭上から降ってきても、ラヴィ達は進む足を止めない。

 進む先に土汚れが付いた布に包まれたものを見つけ、ラヴィは布を剥ぎ取ると雨宮に向かって投げた。

 投げたものは雨宮の少し先に落ちると、雨宮は急いでそれを拾い上げた。


「扱いが雑過ぎだろうがラヴィ!」


 雨宮の真後ろからデッドが五匹襲いかかろうとしていた。

 雨宮は拾い上げた大鎌を向かってきたデッドに向かって斬りつける。

 鎌の刃の表面にはべったりとデッドの血と五個の首が乗っていた。

 慣れた手つきで、首を弾くと少し高く上げた。

 そして、降下してくるデッドの頭を横に真っ二つに斬り分けた。

 斬られた頭と首を無くした体が同時に地面に崩れ落ちた。


「ふぅ、普段使ってる大鎌こいつの方が身体にしっくりくるわ。やっぱり」


 雨宮は片手で大鎌を持つと、長柄を肩に担いだ。

 大鎌は、平均よりも少し大きい一八〇cm程度あり、長柄の下端に柄からL字に突き出すように設置された長さ九○cm程度のカーブした刃から構成されている。

 通常は農民等が草を刈る為に使われているが、雨宮の持つ大鎌は戦闘用に改良されたものだった。


「よくあんな大きな鎌なのに、小回り利くよね……流石なのは雨宮だよ」


 ラヴィは雨宮のことを横目に見ると、フッと笑った。


「やぁ、楽しそうだね」


 耳元でそう声が突然すると、全身に悪寒が走った。

 ラヴィが振り向いた瞬間、後方にいた雨宮の胸にはぽかりと穴が空いており、口からは大量の血を吐いていた。


 首が絞められた様に苦しくなると、地面に叩き倒される。

 鈍く肋骨ろっこつが折れる音がする。


「ーっが!」

「うん、一人だけ喋れれば構わないからね。

一番押し倒しやすい華奢な方の君を選んだよ」


 ラヴィの上に乗り、首を絞める声の主はそう笑顔で言った。

 薄い黄色みがかった髪色に、肩より少し長い髪。

 どこか幼さが残っているが、微笑むその顔には覚えがあった。


「アイ、シア……?」


 あの日ラヴィと一緒にノアの箱舟に招待され、デッドにされた少女が目の前にいた。


「ん? コレはというのか。

捨てられていた肉片を集めて作っただけだからよく知らなかったな。

そうか、君の知り合いか」


 アイシアはニコッと笑うが、首を絞める力は緩まない。


「ああ、すまない。

これじゃあ苦しくて会話もままならないか。

では、一応腕と足を折っておこう」


 同時に何かの重圧がかかったように、両腕両足がボキリと砕けると、ラヴィは激痛に悲鳴よりも嘔吐物を出した。


「ああ、すまない。

どうも手加減の仕方が判らないんだ。

おーい、気絶なんてしないでよ?

君に聞きたいことがまだあるんだからさぁ」


 ラヴィは飛びそうな意識を堪えながら、アイシアを見た。

 髪で隠れてわからなかったが、顔の半分は欠落しており、そこから黒く疼く何か蠢いていた。

 先程首を絞めていた手も同じように手の形はしているが、黒く蠢いている。


「はじめまして、ラヴィ・アンダーグレイ。

僕はカイン・クロフォード。

さぁ、質問に素直に答えて。

僕の愛しいエリーゼ・クロフォードをどこに隠したのかな?」

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