数字の「8」が脱いだらとんでもないことになる。

ちびまるフォイ

「8」のヒミツが明らかに(成人指定)

「え!? あの"8"がついに脱ぐの!?」


教室内の誰かが放ったその言葉に耳と神経がぜんぶ持っていかれた。


数字の0~9の中で、

誰よりも官能的で魅力的な体を持つ「8」


6みたいなアンバランスでもなく。

3のように小生意気でもない。


あの、8がついにヌードを出すなんて。



(み……みたい……!)



8がこれまで包んでいた秘密のベールを解き明かしたい。

その8が秘めている姿を裏まで知りたい。


し、しかし。


「お前も興味あるよな? 8のヌードだぜ!?」


意気揚々とネットニュースを見せる同級生。

鼻息荒い男子中学生を、俺は鼻でせせら笑ってやる。


「たかだか数字のヌードごときでなに騒いでんの? 馬鹿らしい」


そう俺は誰よりもクールで大人びた中学生。

ワイシャツだってちょっとズボンから出しちゃうくらい大人なんだ。


バレンタインではチョコもらえなかったが、

きっとそれは女子の中で俺がみんなのものだから

抜け駆けしてチョコを渡さないようにと牽制していたに違いない。


とにかく俺はクールで大人な男。

数字8のヌードに興味のほとんどを持っていかれていると知られてはならない。



その日の夜。


親が寝静まったのを確認したうえで、さらに1時間待機。


完全なノンレム睡眠を確認してから夜の街へ出る。

目的地は近所のコンビニ。


「この時間帯なら誰もいないだろ……」


深夜のコンビニならば同級生とはちあわせることがないだろう。


いつか河川敷でかぴかぴになった写真集を拾って、

それが8のヌード写真集でしたなどという神のきまぐれを期待するほど俺は愚かじゃない。


自分が欲しいものは常に自分の手で手に入れてみせる。



深夜のコンビニはひときわ明るくて別世界のようだった。

時刻は深夜2時35分。


幽霊もそろそろ寝ようかと布団を敷き始めている時間帯。

深夜のコンビニに出向く人なんていやしない。


「店員は……男だな」


眠そうな店員の顔を確認してから入店する。

店員も疲れているのか「いらっしゃいませ」も言えていない。


好都合。


顔を覚えられる前に8のヌード写真集を購入して退店してみせる。


「くっ……どこだ。どれがその写真集なんだ」


窓際に陳列されている雑誌はどれも似たような見た目で区別がつかない。

下手に雑誌を出したり戻したりしてると万引きと誤解されかねない。


「早く……早く見つけないとっ……!」


焦れば焦るほど思考が単純化して、

さっき調べた雑誌をまた棚から引っ張り出してしまう。


店員も深夜2時過ぎのコンビニにやってきた

黒尽くめでサングラスの中学生が雑誌棚で挙動不審な様子に気づいた。


「あの」


ついに時間切れ。店員が声をかける。

すかさず俺はきこえよがしに独り言をつぶやいた。


「あーー! 今週号のジャンプまだ出てなかったーー!!!」


早足でコンビニ出る。

事前に用意していたアリバイ工作を使うことになるとは。


家に戻ってからも心臓の鼓動は収まらない。

きっと敵国へ潜入したスパイもこんな気持ちだったのだろう。


中学生の身分でスパイ経験をしてしまうとは、

やはり自分は同級生の誰よりも大人びているに違いない。


その成果は来年のバレンタインで期待するとし、

本来の目的であった8のヌード写真集は結局手に入れられなかった。


スマホで写真集を調べて表紙を確認する。


「なんて扇状的な……!」


雑誌の表紙ではでかい文字で「これまで見えてなかった8の姿が……」と意味深なキャッチコピーが書かれている。

きっとこの袋とじの中には学術的にも非常に興味深い内容があるにちがいない。


俺は他のガキの男子とはちがって、

性的な劣情でもってこの雑誌を手に入れたいわけではなく、

あくまでも8のこれまで見えていなかった部分を知りたいから雑誌がほしい。


しかしどうしたものか。


再び深夜コンビニに突撃すると今度こそ怪しまれる。

変装こそしていても背格好とあふれる大人の男らしさで、自分がバレるだろう。


「あ、ネットでも買えるのか」


雑誌ではネットで買うこともできる。

スマホは親チェックがふいに入るため電子版は買えない。


俺のように賢い男はスマホに証拠を残さない。

親も知らない裏山の秘密基地に雑誌を隠せば見つかることもないだろう。


ここで問題がある。

どうすればネットで雑誌を買えるのか。


「クレジットカードなんて持ってないしなぁ……。

 代金引換は危険が大きすぎる」


代引は親がいるときに来てしまうとアウト。

常に取引は隠密かつシークレットに行う必要がある。


ベストな取引はあるのかーー。



「こ、これだ! コンビニ受け取り!!」



俺は最強の受け取り方法を発見し、雑誌を注文した。


ブラウザの履歴を消したが、

注文した品がコンビニへ届くメールがいつくるか。


メールによる親バレを防ぐため、届きしだい削除する気持ちで常にスマホを持っていた。

無事証拠隠滅したときには、やっと雑誌が手に入る嬉しさで泣きそうになった。



取引当日。


「いいか。何も言わず、このスマホを差し出すんだぞ」


「は、はい……。でも先輩、自分で行けばいいじゃないですか」


「最初にいったはずだろ。

 大声を出さない、勘ぐらない、誰にもしゃべらない。

 "お・か・し"を守って、お前はただ金を払って受け取るだけでいい」


「はあ……」


「じゃあ、俺は"約束の地"で待ってる」


部活の後輩のひとりを使ってコンビニへ向かわせた。


これでうっかり同級生とエンカウントしたとしても、

「運び役」が実際の雑誌を手にしているので俺への被害は最小限だ。


取引は慎重に最新の注意を払って行われる。


なにも知らない後輩は紙袋につつまれた雑誌をコンビニから受け取り、

裏山にダンボールで作られた秘密基地「約束の地」に向かう。


「先輩、これ」


「よし買えたな。これは代金だ」


「どうもです。それじゃ」


「おい待て後輩。何も見てないだろうな?」


「え? ええ。それが約束だったので」


「もし見たら……わかってるな……?」


「だから本当に何も見てませんって!」


「よしなら行け」


後輩を帰らせてから約束の地を出る。

ここで開くのも考えたが、セキュリティ面であやうい。


いったん家に帰ってから、親がいないことを

天井裏から庭先までしっかり確認した上でトイレに入る。


このトイレが家における唯一のセーフティポイントにてセーフルーム。


自分の部屋でも鍵をかけることができるが意味あいがちがう。


ふだん「別に隠しごとしてないし」というスタンスであえて鍵をかけないが、

変に鍵をかければいかがわしいことを隠している怪しまれる。


けれどトイレはどうだ。

トイレは鍵を閉めることに違和感はない。


仮に、トイレで堪能中に親が帰ってきたとしても怪しまれない。

まさに鉄壁。


一応トイレの証拠を残すために便座に座って雑誌を包む紙袋を開く。


「おお……!」


ネットの荒い画像越しでしか見ていなかった雑誌がいま手元にある。

心臓が爆速で動き出し、息も苦しくなっていく。


そして表紙にはあの魅惑的なキャッチコピーが。



ーー これまで見えてなかった8の姿が明らかに!



今日、俺はここで大人の階段をいっぽ上がるのだろう。


雑誌にはトレンドの小物だとか、

次にはやるブームだとかも載っているが

そんなのはお寿司のガリくらいにしか見ていない。


本題はそう。

ふくろとじになっている8のヌード。


上半身は大きくせり出したかと思えば、

腰辺りでぎゅっとくびれたメリハリのある身体。


何度夢の中で8に迫られて鼻の下を伸ばしたことか。


「よし袋とじをやぶろう……!」


指で慎重に袋とじをあける。


ちょっとずつあらわになる「8」のシルエットが、

やぶれた切れ目の隙間からチラり見えて来て興奮はクライマックス。


ついに袋とじを開けきった。

そこにはまごうことなき「8」が載っていた。



8.01




「うはあぁぁぁあ!!!」


これまで見えていなかった小数点第一位だけでなく、

さらに第二位まで踏み込んだ衝撃のヌードに衝撃を受けた。



「しょ、小数点第二位は1だったんだぁ……///」



俺は目が焼き付くほど雑誌を読み込んだうえで、

約束の地の神棚に雑誌を持ち込んで、誰にも知られないように封印した。

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