最終話

 テスト終了から一週間。


 忘れた頃にやってきた、答案返却タイム。終了間近の高揚感はとうに消え失せており、三馬鹿トリオの心中を大きく占めているのは、不安となっている。


 テスト当日同様の緊張感を、俺は抱いていた。点数は残酷だ。いかに手応えを感じたとしても、結果がついてこなければ意味はない。


「ただいまー!」 


 苺の声は明るかった。これは期待をしていいんじゃないだろうか。遅れて、東雲姉妹も我が家に到着。全員の顔が、明るい。


 これは、成功の予感がしてきた。


「聞くまでもないかもしれないが……」

「点数?」 

「愛弓はストレートだなぁ」 

「お兄さん先生が間接的すぎるだけ」


 ややあって、三人全員が声を合わせた。


「「「赤点回避、大成功〜!」」」


 忍ばせていたであろうクラッカーが、パンッと弾けた。


「おめでとう。ほんとによくやったよ」


 安心感。達成感。どちらとも取れぬ感情が渦巻いている。


 一回目の祝勝会の段階で、ある程度の成功は確約されたようなものだった。が、こうして点数が確定するまでは、ぬか喜びできないというもの。


「見て、点数」

「もちろん」


 全員分の答案に目を通す。書き込まれた平均点や赤点と参照しつつ、ペラペラとめくっていく。


 平均点を超える教科もすくなくなかった。各々の最高得点を見ると、かなり高いものといえた。それに関しては、相当力を入れたに違いない。


 英語は、苦手といった割にはよく奮闘していた。文法は問題なし。長文は振るわなかったが、これは次回のテストに向けて与えられた宿題というものだ。


「すごいよ。これはなかなかのもんだ」

「でしょでしょ? 褒めてつかわせ〜」

「偉いぞ苺」

「私たちには褒めるの不在?」

「東雲姉妹もよくやった! みんなすごいし偉い」


 ハイタッチをすることになった。とっくに感じ終えていたはずの達成感がよみがえる。脳汁が溢れるとはこのようなことをいうのかもしれない。


 自分はテストを解いていないのに、この興奮。三人はもっとすごいのだろう。


「今度はもうすこし盛大にやりたい!」

「李里花、それならどこがいい?」


 あまりに高級すぎる店ばかり出されたので、さすがに断った。俺がバイトでもしていたらぎりぎり払えたかもしれないレベル。


「もっと庶民的なものをどうか……」

「ならあそこかな!」


 回転寿司と来た。


「突然庶民感がぶち上がったけど!?」

「李里花、極端すぎ」

「お寿司が食べられるなら、どこでもありかなってね」

「なるほど、お寿司ね。兄貴は最近食べてないし、いいんじゃない?」

「だな。ちょっといい店にしよう」


 回転寿司といっても、いろいろある。奮発して、ちょっと高い店を選んだ。


 そして迎えた別日。


 予約を抑えた寿司屋で腹を満たし、そのあとはショッピングモールを巡り、そして夜のライトアップを見る。そんな予定だ。


「教えてくれた分のデート。お寿司代以外は私たちが負担する」

「してみると、寿司だけなんか異質になったな」

「いいんじゃない? また一興だよ」

「そういうことにしておこうか」


 いよいよ実施される、俺の給料。なんだか変な言い方だ。とはいえ、こういう形で家庭教師をやるとは、前から決まっていたことだ。そのうち慣れるだろう。


「よし、寿司だけは俺の奢りだ。好きに食べるとといい」

「決めたこととはいえ、なんだか寿司だけっていうと情けなく聞こえるね」

「兄貴が奢るなんて珍しいんだよ? そこはさ、評価すべきなんだよ」

「妹の評価がなんか嫌だな」

「日頃のおこないってやつじゃない?」 


 そんな生意気なこと聞いちゃ、もう教えてやらないんだからね!


 まぁ、別にいいか。きょうはなにせ寿司が食べられるのだから。そして、彼女たちも楽しい思いができる。いいことだ。


「よし! きょうはめいいっぱい楽しもう!」

「賛成。いつまで勉強できるかわからないから」

「不穏な発言はよしなさい」

「愛弓はもう折れないでしょ? 私、なんとなーくそんな気がする」 

「む……期待を裏切らないよう努力する」


 そういうわけで、まずは寿司屋を目指す。


 勘違いしてはいけないのは、これがゴールではないことだ。ここからがむしろスタート。きのうの自分を上回ろうとする日々の、本格的な始まりだ。


 始めは盛大に祝おう。デートのこともそうだ。俺がもっとまともな人間になるために、彼女たちにとっての勉強同様に、頑張っていく。


 そのためのいい機会だ。苺には感謝してもしきれない。なかなかできない経験だからな。


「私、マグロしか食べない! 兄貴は?」

「俺は全種類制覇を目指すね」

「私、量で勝負」

「みんな競わないでよ〜!」


 かくして、いまから寿司屋タイム。そしてデートの予行練習。


 めいいっぱい楽しもうではないか。


 専属の家庭教師として。


 めいいっぱい楽しませようじゃないか。


 俺の生徒たちを!

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妹の友達の双子姉妹の家庭教師になったら、月謝は甘々なデートと俺のイメチェンでお支払いしてくれるそうです まちかぜ レオン @machireo26

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