妹の友達の双子姉妹の家庭教師になったら、月謝は甘々なデートと俺のイメチェンでお支払いしてくれるそうです

まちかぜ レオン

第1話 俺の生徒は双子姉妹!?

「ただいま、兄貴! テストが返ってきたよ!」

「おかえりいちご。あとで見せてくれよ」

「うん!」


 夕方になって、我が家こと赤坂家に妹が帰ってきた。高校の部活動に出ていたから、もう陽は沈んでいる。


 大学の講義を早々に終えて帰宅していた俺は、しばらくソファでくつろいでいた。


 ポケットのスマホを取り出す。


 四月も後半。苺は高校二年生、俺こと赤坂純矢は大学一年生。時の流れとは早いものだ。


「もう大学生、か……」


 晴れて第一志望校に合格した俺は、大学生活を謳歌……しきれているか怪しいところだ。


 勉強は人並み以上にできるが、人間関係は赤点ギリギリといったところ。リアルが充実していたら、家に直帰なんてしていない。


「兄貴ぃ」


 苺がリビングに戻ってきた。


 ピンクの髪の毛、やや濃い化粧、短いスカート……。


 改めて思うに、派手な女子高生の要件を綺麗に満たしている妹だよな。


「戻ってきたか」

「取り出すから待って〜」


 カバンを漁る。テスト用紙をファイルから引き抜く。


「ほら、見て! 過去最高得点だよ!」


 新学年になったということで、妹の苺が通う高校では、テストが課されていた。


 春休みの間、俺は入学準備の合間を縫って、いつものように苺に勉強を教えていた。


「すごいな! やるじゃないか!」

「兄貴のおかげだよ。私みたいなポンコツでも、こんな点数が取れるなんて……お友達にも褒められちゃった」


 えへへ、と苺は笑った。


 俺の大学生活が充実していないのはさておいて、すくなくとも、我が家での生活は充実している。


「これからも頑張ろうな!」

「え、ちょっとしばらく勉強はしたくないな」

「あらら」

「テスト前になったら本気出す!」

「これは勉強を教えない方がよかったかな」

「ダメダメ! 教えてください、なんでもするからさ!」


 妹はさして勉強が得意ではない。俺が高校三年生だったときも、時間を見つけて苺の勉強を教えたものだ。


 むろん、すべての教科を隅々まで教えるのは、受験生だった俺には不可能。


 苺は、俺が教えたところだけが異様にできた。


「なんでもする、なんていうもんじゃないよ。悪い男の人が相手なら、なにをされるかわからない」

「兄貴は悪い男の人じゃないもん」

「そういう屁理屈をこねない」

「兄貴ってなんだか家庭教師っぽいね」

「話を逸らさない」


 家庭教師っぽい、か。


 その通りかもしれない。教える対象は妹だったが、勉強を教え、学習の指針を立てるのをサポートした。


 やっていることは、似たようなものかもしれない。


「家庭教師といえばさ!」

「導入が強引だね」

「そうやって茶々を入れすぎると、女子のモテないよ?」

「……」

「ちょっと、黙らないでよ。図星みたいじゃん」


 図星だよ。悲しいことに。


「兄貴、いい奴なんだけどなぁ。理解者がいなくて残念だね」

「やめないか、フォローのはずが傷を抉られるみたいだ」

「ごめんごめん」


 苺はこたえた。やや軽さが否めなかった。兄貴は傷ついているんだぞ! ぷんぷん!


「で、本題に入るね」

「強引な導入からすると、家庭教師の話かい?」

「ビンゴ!」


 苺はスマートフォンを操作すると、とある写真を見せてきた。女子高生の写真である。


 同じ人物が、同じ格好で写っているものだ。しかし、表情がやや違う。一方は明るく、一方は暗い。


「そっくりだな。まるで双子みたいだ」

「当ったりぃ〜!」

「え? まじ?」

「珍しいでしょ」

「ここまで似てるから、一瞬同一人物の写真かと勘違いしたよ」


双子といっても、全然似ていないパターンもよくあるからな。


よく見たら身長が違うし――遠近法で同じような身長に見えていた――、表情も全然違う。同一人物であるはずなどないのだが、理解が追いつかなかっただけだ。


「そう。東雲しののめ姉妹だよ」

「珍しい苗字だな」

「まあね。私、東雲しののめちゃんたちはマブダチなの。三馬鹿同盟を締結するくらいにはね」

「知らなかった」

「私があまり話さなかったからね」


 俺が受験期だったから、友人との楽しいエピソードを語るにも、気が引けたのだろう。


「なるほどな……で、要件というのは、東雲しののめ姉妹が、俺に家庭教師をしてほしいってことでいいのか?」

「その通り!」

「どうして俺に?」

「私が、さっきテストでめっちゃ点を取れたから、『どうしたら高得点、取れる?』って愛弓あゆみちゃんに聞かれちゃってね」

愛弓あゆみちゃん?」

「妹の方ね。ちなみに、姉の方は李里花りりかちゃんっていうの」

「ふむふむ」


 姉・東雲しののめ李里花りりか


 妹・東雲しののめ愛弓あゆみ


 このふたりに勉強を教えてほしい、ということか。


 写真を見たところ、悪い子達ではなさそうだ。


「兄貴」

「はい」

「鼻の下、伸ばさないで。いくら東雲姉妹がかわいいからって」

「ごめんなさい」


 家庭教師、といったが。


 報酬とか担当教科とか、教える頻度であるとか。


 決めることはたくさんある。きょうは承認、あした以降に細かいところは詰めていけばいいだろう。


「じゃあ、兄貴は受け入れてくれるの?」

「ひとりが三人に増えたところで、そう大差ない。教えるのも嫌いじゃなし」

「それに、生徒が私以上にかわいいもんね」

「そ、それは余計だ」

「いいんだよ? 男の子だもんね」


 妹の手のひらの上で弄ばれる兄貴、不甲斐ないな。


「で、詳細はどうする? 直接会って話すのか、それとも……」

「それなら大丈夫。いまから詰めていくから」

「どういうことだ?」


 苺はスマホを手早く操作して、東雲姉妹にメッセージを送った。


 既読は瞬く間についたようだ。行動は、すぐさま実行に移された。


 ――ピーンポーン。


「来客?」


 メッセージを送ってすぐの、このタイミング。


 作為的なものを感じずにはいられない。


「はい」


 インターホンの通話ボタンを押す。


『東雲李里花でーす!』

『……東雲愛弓。いわれた通り、ピンポンした』


 姉はハキハキ系、妹はクール系らしい。いずれにしても整った顔立ちに変わりはない。


 ……って、冷静に分析している場合ではない。


「なんでうちの前に東雲姉妹がいるの!?」

「これからいろいろと条件を決めるからさ、兄貴!」

「俺が家庭教師を引き受けると読んでの決断?」

「まあね」


 妹め、なかなか食えない奴だな。

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