第2話 訳あり修道女
リューフェは婚約者に裏切られ冤罪で修道院に入れられた。
身に覚えはないが反論する間もなく有責とされ、ここに送られたのだ。
全ては騙されたことによるが、対応が後手に回ってしまい、誰も話をきいてくれない。
助に来てくれると思った父親からも音沙汰がなく、途方にくれていた。
最初は悲しかったし、寂しかった。
だがいまでは辛かったここでの生活にも慣れてきた。周囲の目線は厳しいが、貴族社会ほどではない。
それにカラムに会ってからは賑やかな生活となっている。
修道院ってこんなところだったかしらと首を傾げてしまう程だ。
「何でカラムは私にプロポーズをするんだろう」
そこも疑問であった。
たまたま自分が森にいただけで、他の者でも良かったのでは? と思ってしまう。
こうしてここまで求婚に来るのだから、本気なのだろうと思うが修道院にはもっと美人も居る。
だがカラムが口説くのはリューフェだけ。
「まぁからかっている可能性が高いわよね」
義姉を襲おうとしたカラムだ。
女性好きで好色なのは間違いないだろう。
リューフェをからかって弄びたいだけかもしれない。
周囲の目が気になるが、二人の関係を悪しく言うものは今のところいない。
カラムとリューフェの事は周囲にはちょっとした刺激を与えていて、見る分には楽しいようだ。
皆が自分でなくてよかったという目線はしているが、これをリューフェの元婚約者が知ったらどうだろう。
(嫉妬。はしなさそうだけど、面白くないでしょうね)
一応冤罪だが、罰としてここにいるのだから、こうして楽しく暮らしてると知れば何らかの邪魔をしに来るかもしれない。
そんな事を考えていたら意外と早く、その日が来てしまった。
「どうしてあなたがここに?」
リューフェは青ざめた。
元婚約者とその妻が訪ねてきた。
当時は愛人であったが、今はのうのうと妻になったらしい。
高価そうな装飾品やドレスを纏っている。
「リューフェがプロポーズされてると聞いて見に来たんだ」
ニヤニヤと笑う二人はとても気持ち悪い。
「あなたなんかを欲しがるもの好きはどんな者かと思ったけど、酷い男のようね。実の兄の奥さんを襲う獣なんて。あなたにはお似合いなんじゃない?」
ニヤニヤとしながらこちらを見るミラージュにリューフェは嫌な気持ちになる。
(あなたこそ体でオルフに迫ったくせに、人のこと言えないわよ)
内心で怒りを覚えながら、リューフェは深呼吸をして平常心を保つ。
「だから祝福に来た」
ぴらりと見せられたのは、カラムとリューフェの婚姻を許すものだ。
「どういうことなの? そんな事を言う権利はあなた方にないでしょ」
「あら、私達はあなたに迷惑をかけられた被害者よ。その被害者が条件付きで許してあげるっていうんだから、関係ないわけないでしょ。それに話を聞いたら丁度良いんじゃないかって思ったのよ。お似合いな二人だもの」
勝手にそんなことを決められては困る。
「あの屑男と結婚するならば、ここから出てもいいわよ」
上から目線のその言葉に嫌な気持ちになるが、平民であるリューフェは口答えすら許されない。
平民と貴族の間には明確な差があるのだから。
「でも彼は貴族だもの。平民の私とでは結婚できないわ」
「あの男は貴族ではないわ。義姉を襲った罪で貴族籍を失ったの。だから良いのよ。あんな男に好かれるなんて、類は友を呼ぶというか……ふふふ」
嬉しそうに笑うミラージュとオルフは、リューフェに婚姻を承諾するように迫る。
リューフェが顔色を青くしているのを見て二人はとても満足そうだ。
「可哀想になリューフェ。ミラージュをいじめたばかりにこんな事になって、だがこれも自業自得だ」
憐れむようなオルフの視線に耐えられず、俯き、ただ耐える。
二人はひとしきりリューフェを貶し、見下し、満足したのか立ち上がった。
「ここの院長にも修道院を出てもいいという許可を出したと伝えてくる。そうしたら穀潰しのお前は行く当てなく、あの男の妻になるしかないだろ?」
そんな事を言って帰っていくオルフとミラージュに、塩をぶつけたいと思う気持ちを抑え、空気の入れ替えの為に応接室の窓を開けた。
淀んだ空気をこれ以上吸いたくなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます