第6話 いにしえ

リンコは血圧計、体温計、聴診器、血中酸素濃度測定器と電カルを持って、505号へ向かった。


トントン。

失礼します。


うっわー、トントン、しつれいしますだってー。

しつれいするならかえってーー!

あはははー。よしもとだー。


あ、しまった。ここは小児科だったわ。

難しい言葉は厳禁!

リンコは冷や汗をかいた。


はい、はい。

しつれいしまんがな。よろしゅたのんまっさ?

と大袈裟な礼をすると、ようやく子供達は

よし!たのまれよーか?なぁ、みんな。

うん、たのまれよう。

と受け入れてくれた模様。


リンコは窓際のガクホの所へ行き、今から血圧、体温、呼吸などや足についても触れる事を説明した。

ガクホは静かな所作でベットに横たわる。


リンコはガクホの顔を直視したとたん、

あら、どこかで会ったことがあるような。

懐かしい。

たくさん出会って患者さんや関係者さんの中にいらしたのかしら。

なんだろう。こんな気持ちは初めてだわ。


じゃあ、血圧を測らせてね。

リンコはマンシェットを腕に巻こうと

ガクホの腕に触れた。

その瞬間、ベニ、ベニ、、と声がした。

えっ?

思わず、ガクホを見た。

ガクホの瞳はリンコを真っ直ぐに捉えていた。


こんな事があったわ。いつだった?

思い出せない。


看護師さん、どうかしたんですか?

ガクホが聞いた。


リンコはハッとして現実に戻された。

ごっごめんなさい。

実はね、今日から小児科に変わってきたの。

だから、慣れなくて。

リンコは咄嗟に嘘をついた。


気のせいだわ。緊張してるのね、私も。


ガクホ君、脈を測りたいの。

手首を貸してね。


ガクホは手首をリンコに差し出した。

リンコは手首に触れる。

この感触、気のせいなんかじゃない。

前に、前に触れた事がある。

ベニ、ベニ、、。声が聞こえる。

ああ、この声も聞いた事がある。

むかし、、、。


リンコは意識を失った。

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