星降り注ぐSinfonia(3)~女王のごとく鷹揚に、獣のごとく獰猛に
自分の気持ちを自覚してから数秒後。
「そぉいっ!!」
パァンッ!! と頬を両手で挟むように叩いた私である。
「ファレリア!?」
「どうした急に!?」
フォートくんとアラタさんが驚くも、私に奇行の理由を話す余裕はない。どうか今はそっとしておいてほしい。
(今はマジでそんな事を考えてる場合ではないんですよ!! 自重しろ!!)
あああああ! もう、顔が熱いっ!!
ブンブンと頭をふって正気を保とうとしている私である。けど内から湧き上がってくる熱はなかなか冷めそうにない。
……なんとも厄介な感情である。
そんな風に私が抱いた感情に振り回されていると、崩れ落ちていた第二王子から反応があった。
「軽蔑……か。ふはっ」
(わ、笑った)
きつい言葉食らいすぎて頭おかしくなったか? いえ、こいつは最初から頭おかしいですけれども。
私の想像を裏付けるように第二王子はバネ仕掛けの人形のように身を起こすと、両腕を大きく広げてフォートくんに向き直った。
表情といい動作といい、とても正気に思えない。
「それも仕方がない。だが貴方は私の知る通りにイベントを起こして攻略対象達と絆を深めていた。私含めてな。私が知る台詞で、行動で。なにを言ったって、知ったって、貴女は観測される側の存在でしかない! さぁ、
言うなり第二王子はフォートくんに掴みかかろうとするが、フォートくんは私ごとそれを避けて後退する。
「ファレリア、ちょっと待ってて」
「あ、……うん」
支えられていた体を離されて、後ろにかばうようにフォートくんが前に立つ。
その背中は魔法アイテムによって未だ華奢なマリーデルの体格のままだというのに、妙に大きく見えた。
(ぐぁぁぁぁ! 待って待って待って。さっきから男子三日合わざればどころじゃない。この数時間で見え方が全然違っちゃってるの、何!! 油断するとすぐに余計な考えが顔を出す!! )
浮ついた気持ちを振り払おうと私が間抜けにあわあわしていると、反して冷静なフォートくんが第二王子を見据えた。それを見て急激に自分の状態が恥ずかしくなったので私も少しだけ冷静になる。
あ、すみません。自分も落ち着きます。うす。
この世界の人間を明らかに見下している第二王子の言葉。
しかしフォートくんはその第二王子の言動に揺るぎもせず、逆に女王のごとく鷹揚に笑ってみせた。
「今度は僕自身にも何かする気? でも、残念。僕を操った所で君が望む"原作"になることは無いよ」
そう言って、長く大きな三つ編みに手をかけるフォートくん。手には刃の様になった魔力が渦巻いていて……。
(……ん?)
首を傾げた時は、もう遅かった。
「僕はマリーデルの弟! 男だからね!」
(言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?)
ざくっと三つ編みが大胆に切り落とされて、亜麻色の髪が宙を舞う。
肩口のあたりまで短くなった髪の毛をくしゃっとかきあげて、フォートくんは獰猛に笑った。
「冥府の力? ちょうどいい。星啓の魔女の力なんて無くたって構うもんか。今この場でお前ごとぶっとばしてやる。それで綺麗さっぱりだ!」
それを見ていたアラタさんがぽつりとつぶやく。
「溜まっていた鬱憤ごと、爆発しちゃったみたいだな……。わぁ、思春期……」
その途方に暮れた声を耳にしつつ、私は「どうしようか、これ」とアラタさんと顔を見合わせるのだった。
冷静に見えたけど、その実一番頭に来ていたのはどうやらフォートくんだったらしい。
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