初恋twilight(4)~繋がる事実と可能性
「その可能性は高いだろうな」
私たちのような「この世界を舞台としたゲームを知る転生者」が他にもいるのではないか。そう可能性を述べた私に、アラタさんが同意した。
イベントを理解した上で仕込まなければ、これらをすべて強制的に発動させることは不可能だ。
ちなみにあてがわれた(言い方嫌だな)攻略対象達は容疑者から外している。何故ならイベントごとに全て相手が違ったから。
これも推測なのだが、もしかして犯人は
それを話すとアラタさんは視線を伏せて考え込む。
「……整理しよう。まず原作にはなかった大きな出来事。学園内で王子の護衛が操られ生徒を害そうとした。これが一年前」
自分たちの事であるが、客観的に見るため記号を当てはめて話しているのだろう。
私はそれをメモにとりながら頷く。
「その後は特に妙な出来事は無く、順調に進められていた。ただし起こす予定の無かった好感度を大幅に上げるイベントが立て続けに起きている」
フォートくんが頷く。
この不可解な出来事の一番の渦中にいるため、その不気味さは一番感じているところだろう。
「さらにもう一つ。……イベントに"あてがわれた"攻略対象者。それを一覧にしてみたんだが、ある共通点が見つかった」
新たな情報の提示に、私とフォートくんは身を乗り出してアラタさんが提示した紙に書かれた人物名を眺めた。
その数はおよそ六名。
優等生。
不思議くん。
色男。
童顔。
第一王子。
特別教諭。
フォートくんは眉根を寄せていたが、私はそれを見てピンときた。脳裏に浮かぶのは、あるまとめ動画。
「…………悪役令嬢死亡エンド」
「ご明察、だ」
私の発言にフォートくんは目を見開き、アラタさんは苦々しい顔で頷いた。
「一連の出来事をまとめて考えるのは危険かもしれないが、もし全てが繋がっていて俺たちの推測が正しい場合。……厄介だぞ。件の相手は俺達の目的と真っ向からぶつかりあう」
「仮に犯人が転生者だとすると、アルメラルダ様の不幸を望む者であると……」
空気がぴりりと張り詰める。
「ああ。それも追放エンドなんて生易しいやつでなく、飛び切りのバッドエンドをご所望のようだ。そして傍から見た場合、それを目的とする者から見た現状はどうだ?」
「アルメラルダ様、性格はあれなままだけど原作通りの悪役令嬢かと言われると……。う~ん」
首をかしげて唸ってから、悪役令嬢から一番被害を受けるはずの人間に問いかける。
「フォートくんから見て、アルメラルダ様ってどう?」
「だいぶ愉快で面白い人だと思うよ」
「だよね」
「他人事のように言うな。多分ファレリア、あなたの影響だぞ」
「……マ?」
「他に考えられないだろ」
なにやら断言されてしまった。
「……で、だ。そうなるとバッドエンドを見たい犯人からすれば、原作との違いにまず混乱するはず。そして次にとる行動は?」
「……原作との差異を探して、排除する」
繋がってしまった……。
「そう。そして原作と一番違う、目立つキャラクター。当然それは決闘なんてやらかした俺と貴女だよ、ファレリア」
「ああ~……」
はい、理解。納得。
まだ確定ではないけれど、これまで生きてきて殺されるほどの怨みを買った事は無いし、ガランドール伯爵家もまっとうな家だ。
私やアラタさんという例があるのだし、もう一人や二人や三人くらい転生者が居てもおかしくない。
流れを見るに、そっちの線が濃厚とみて良いだろう。
「ファレリアを俺に殺させて、その後俺のことも自殺させる。これで綺麗さっぱりだ。余計な事をする邪魔者の排除完了……ってな」
「でもそうなると、僕が本来の主人公である姉さんの弟……とまでは、バレていないわけか」
「原作との違いもフォートの場合はアルメラルダた……様のように周りに居る異物からの影響、と思われているんだろうな」
「一番怪しいなって思ってるのは特別教諭だったんですけど……。スパイだし、とんちきいんちき予言者だし、襲われたところにタイミングよく現れたし。……でも、違いますよねぇ……」
特別教諭についてはアラタさんから「原作ファレリア」の話と合わせて事件の後に聞いた。
あいつ、幼い私が頑張らなかったらとんでもねぇ厄ネタだったんだよな! 原作後に放置すると厄介というのは、スパイだからというだけではなかったのかと納得した。
スパイはスパイでも数年がかりで星啓の魔女を貶めようとしてくるとんでもない国賊だったよ。
なんでこいつ攻略対象に入ってんの? いや、原作ファレリアの話は制作陣の一人が出した同人誌だし、多分メタ的に考えると「こいつのスパイ設定使ったろ!」って後付けしたんだろうけど……。
けど怪しいだけに真っ先にアラタさんが調査を入れた所……驚くことに真っ白。驚きの白さ。
しかもヤバめの背景だったスパイでもなかった。マジに元居た国を裏切ってこの国に再就職かましていたらしいですわね。
これを証言してくれた相手が第一王子だというのだから、もう信じるしかない。信用度が段違いすぎる。
その特別教諭を拾ったのも第一王子。……グルという可能性を考えるにしても、国の次期国王が悪役令嬢のバッドエンド見たいがために暗躍しているとか考えたくないし……割に合わないだろうし……うん。
まあ、とりあえず白とみていいかなぁこの辺は。
「俺がアルメラルダ様と待ち合わせていたあの場に居合わせたのは、完全な野次馬だろうな。ファレリアに不吉な予兆があると知って周りを見張っていたんだろう。……野次馬と称したことからお分かりだろうが、好意や心配からではなく興味本位でな。あいつ、そういう奴だよ。部屋の中までは見れないだろうから、ファレリアが刺されたときは何もできなかったんだろうが」
「あ、あの野郎……」
「……ともかく、今は相手の目的が朧げに分かった段階だ。単独犯なのか複数犯なのかもわからない」
「少なくとも人を動かせる立場にはありますよね。でないとフォートくんをイベントに追い込めないですから」
「イベントのため動いた者の中で洗えそうな人間だけ洗ってみたが、指示が巧妙に中継されているようで大本にはたどり着けなかった。……力不足で、悪い」
「いや、アラタさんはすごくよくやってくれてますって! ただでさえ護衛やアルメラルダ様の特訓で忙しいのに!」
今日だって遅くまでアルメラルダ様の婿教育とやらでしごかれていたのだ。
……アルメラルダ様、アラタさんが頑丈だからって私相手には出来なかったらしい特訓も嬉々として行ってるんだよな……。こんな所でまだ自分への訓練が手加減されたものだったと知るとは。
そのおかげというかなんというか、私への特訓や
でもこれって……あれよね。今のアラタさんを表すとすると。
「すけーぷごーと……的な……」
「気づいちゃった。みたいな顔で言わないでくれないか!? だいたいの意味を察するから!」
「あ、すみません。また口に出てましたか」
てへぺろっと誤魔化しつつ、「でも」と考える。
……一年行動を共にするようになって、わざわざ出向かなくてもマリーデルちゃんことフォートくんが近くに居る現状。だというのにアルメラルダ様、以前のような虐めはしなくなったのよね。
間近に第二王子の護衛を務めていたアラタさんの眼がある上に、周囲の注目も以前より集まるようになったからやりにくいと言えばそうなのだろうけど。
『マリーデル・アリスティ! 次こそは負けませんわよ!』
『まったく、庶民だけあってもの知らずねこの小娘は! 見ていてイライラしますわ。競っている私の格まで下がるじゃありませんの!』
「…………」
ここ最近の言動やら、仕事を押し付けるためだとしても、自分の推薦で生徒会へ入らせたこと……などなど。
思い出すと「おやぁ?」となる。
(なんだ。アルメラルダ様、もうマリーデルちゃんを下に見てないじゃないですか)
いやぁ、まあ気づいてはいたのだけどね? 改めて考えて、納得というか。
そもそも嫌悪している相手を、文句を言うとはいえ行動を共にすることを許すはずもない。ましてや自分の仕事を任せるなんて、ないない。
今ではもうアルメラルダ様にとって気に食わない小娘は、気に食わないまでも正しく競い合う
まあ直接的な虐めがほぼなくなったとはいえ、フォートくん仕事攻めという地獄を味わっているようだから負担的にはどっこいどっこいかもしれないけれど……。
納得した事実に苦笑しつつ、そっとフォートくんの顔を窺う。
う~ん……疲れてるなぁ。
疲労がにじみ出ているのか、綺麗な二重がいつもより濃く深く見える。隈を作っていないだけ流石と言おうか。
長い睫毛が扇のように広がって、青い瞳に影を落としている横顔が麗しい。亜麻色の髪を月光が照らし、月の女神もかくや、といった様子だ。
明かりに使用している魔法光も、なにもかも。彼の幻想的な美しさを際立たせる舞台装置に見える。
本当に綺麗な顔してるわこの子……。
「ん? どうしたの」
「!! いえいえ、なんでも」
き、気づかれた。こっそり見ていたつもりが視線がぶつかって焦る。
……しかも問いかけてくる声と目がすごく柔らかいのでドギマギしてしまうな。
いかんいかん。落ち着こう。
などと思っていると。
「………………。あ! そうだ。少し小腹が減らないか? 俺、ちょっとクッキーとってくる」
「は? アラタさん?」
しばしの沈黙のあと、アラタさんがこれでもかというくらいとってつけた態度で席を立った。
「隔離結界も張ってあるし、まだ時間あるだろ? 今日はもう少しゆっくりしよう。じゃ、とってくるから寛いでてくれな!」
「おいちょっと待てこら」
荒い口調が飛び出るくらいには焦る。
おいおいおいおいおい! 二人きりにするな!!
ここ一年、フォートくんへの対応にも困ってるんだから!!
しかし持ち前の身体能力で風のようにどこかへ走り去ったアラタさんを止める術は私になく。
……久しぶりに、この密会という場でフォートくんと二人きりになってしまった。
いや、隔離結界が維持されてるからね? ある程度の範囲内にはアラタさんいるんだけどね?
でも実質二人っきりだよ、これ。
「………………」
先ほどまで滑らかに動いていた口は石のように固まっている。
何かしゃべろうにも、口から出る前に喉の奥へとひっこんでしまうのだ。
複数人いる時は気にならないんだけどな……!
……これがもうひとつ。
私が一年前から先送りにして目をそらして、頭を悩ませている案件である。
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