初恋twilight(3)~犯人は誰だ!月夜の密会
ある日の夜。
久しぶりの密会の時間である。
普段アルメラルダ様も一緒に行動している分、以前より転生者二人と協力者一人の三人で密会する機会は減ってしまった。
今では人が寝静まった深夜に寮を抜け出して会うのが定番となっている。
一年前の犯人が未だ不明のため一見危険な行動だが、アラタさんが隔離結界さえ張ってしまえば問題は無い。
アルメラルダ様のように隔離結界に気付き破壊できる者の数も限られているし、破壊されたらその瞬間に逃げる算段もついている。
……それに多少の危険を冒しても情報交換の場は必要だ。
特に今日の会合は、一年越しに例の犯人を特定するためのものなのだから。
夜闇を月が明るく照らす中、テーブルに用意された眠気覚ましのお茶に月光を浮かべる。
それを飲むアラタさんとフォートくんは両名共に疲れ果てた顔をしており、日ごろの激務を伺わせた。実際近くで見ているしね。
私も魔法訓練の類で疲れているといえばそうなのだけど、慣れプラス現在アルメラルダ様のモチベーションが主にアラタさんの婿教育に向けられている分、実は前より気楽だ。
「ここ一年、直接危険な事はなかったけど……不可解なことは多かったね」
フォートくんの言葉に頷く。
しれっと参加しているこの密会については、以前「アラタさんが私に不信感を抱いている」とフォートくんに聞いてから本当に今後も来ていいものかとらしくもなく悩んだこともある。けどそのアラタさん自身から来てほしいと直接誘われたので、こうして今も参加していた。
……別の意味で少し参加しにくい理由も、あるにはあるのだけれど。
アラタさんは「不可解」という言葉に神妙な顔で腕組みし、唸る。
「……発生させる予定が無かったイベントだな」
「そう。まあ、そこは僕が上手く男とファレリアの立ち位置を入れ替えたりしてイベントを終わらせたから、全体的な計画進行には問題ないんだけど……」
「今でも思うんですけど私に入れ替える必要ありました?」
私の質問にフォートくんは至極真面目な表情で頷いた。
「あるよ。だってそのポジションが空いてたら、他の誰かが収まりにくるだろ。だったら事情を知っている相手をその場に据えるしかないし、となればファレリアしかいないじゃないか」
「アラタさんは」
「俺が他の奴らから余計な勘繰りとやっかみを買うだろうが」
「私は!?」
「ファレリアは女の子だからノーカン。女の子同士の友情にとやかく言うのは童顔だけだろ」
「それは、まあ……」
童顔。あいつ腹黒キャラのわりにその嫉妬心がまったく隠せていないんですよねぇ……。
ちなみに雑極まりないこれらの呼び名だが、攻略対象の事を話す時は万が一誰かに聞かれても問題ないようにフォートくんが攻略対象者に使用している記号をほぼそのまま利用しているのだ。
それがめちゃくちゃ楽なので、うっかりすると普段でも出る。特に双子相手。
それにしても、イベントなぁ……。
フォートくんは普段から好感度管理が完璧なので、季節イベントなどで大幅な好感度アップを狙う必要が無い。
そのため極端に好感度が足りていなさそうな場合を除き、イベントは見送る……というのが方針だったのだが。
それがまあ、起こること起こること。
例えば、学園祭では後夜祭のダンス。
ダンス自体は複数の相手と入れ替わりつつ踊るものなんだけど、一曲だけ特別な曲があり……それを特定の相手と踊って、打ちあがった花火を一緒に見ると恋が叶うみたいなジンクスがあるわけよ。
このへんとか制作陣の誰かの高校時代の思い出とか入っとらんか? と個人的に思ってる。ジンクスとか花火とか。
ちょいちょいファンタジー学園物の皮をかぶった現代学園物っぽいエピソード挟まってくるんだよな。
当然フォートくんはその曲を踊らず、その間は姿を消してやり過ごすはずだったのだが……。
どういうわけか攻略対象が隠れていたフォートくんを見つけ、ダンスの場に連れ出してしまった。
しかしフォートくんは特別な曲が始まる前に、アラタさんを誘おうとうろうろしていた私を確保しダンス相手に据えてしまった。華麗に相手を入れ替えた手腕は見事という他ない。
でもって一緒に踊ったし花火も見た。
……何故か一応教えておいた女性パートでなく男性パートを完璧に踊られてしまって、ポカンとしているうちに終わってたんだよな。
なかなか周囲の視線が痛かったですよ。特にダンス相手を成り代わられた攻略対象くんの。
例えばプチ修学旅行。
海岸沿いの洞窟に攻略対象と閉じ込められて、一緒に洞窟内部の神秘的な光景を見てから脱出し絆を深める! というイベント。
当然スルーのはずだったが、気づけば攻略対象の一人と洞窟の中だったフォートくん。
状況を把握した後、五秒で壁を破壊して脱出したらしい。
別グループで行動していたので後で聞いたのだけど、自然破壊にあまりにも躊躇が無いし純粋な魔法の破壊力に怖っ……となった。フォートくん、どんどん強くなってないか。
ちなみに洞窟内の魔法苔による神秘的な光景は生き残っていたらしく、夜に私所属のグループとフォートくん所属のグループで見に行けたのは良い思い出。綺麗だった。
例えば音楽祭。
ハプニングで主人公と攻略対象の一人が劇の主役と相手役に抜擢されるというイベントだったが、あらかじめ人員が減る事態を防ぐことで回避は出来たように思われた。
けど原作とは違った理由で彼らは参加できなくなり、劇の手伝いで台本を覚えていた(手伝いは不可避イベントだった)マリーデルちゃんに白羽の矢が立ったと。
もう一人の主要人物(攻略対象が収まるポジションである)が決まる前に「やむなし!」とアラタさんを突き出したら、何故か芋づる式に私とアルメラルダ様まで引きずり出された。
必要だった人員二人だけだろ!? と訴えたけど、劇の監修を務めていたナルシストに「こっちの方が面白い! フォローはするからアドリブで頼むよ!」とか無茶苦茶なことを言われた。
死ぬ気でやったし羞恥と緊張で死ぬかと思った。
例えば女神を奉じる年末パーティー。
そのパーティーではその時期に起きる魔法光によるオーロラと、流星群が同時に見られる現象がひとつの目玉となっている。
パーティーではその年で最も優秀な成績を収めた生徒が発表された後……。東にある女神神殿の塔にその時点で最も好感度が高い攻略対象者に呼び出され、天体ショーを共に見るイベントがあるのだ。
プレイ最終年だとそこで攻略完了した相手から告白される仕様だったり。
これも早々に寮に戻ってイベントをスルーしようとしたフォートくんなのだが、複数の人物に別々の用事を頼まれ……動いている内に、女神神殿の塔へ。
それまでの出来事から最初からマークをつけていた私、アラタさん。事情を知らないながらもついてきたアルメラルダ様は、フォートくんが攻略対象と二人きりになる前に乱入して全員で仲良く天体ショーを見る事と相成った。
青春の思い出ですね、ええ。
大きなところでその辺か。
その他にもちょくちょくイベントはあったのだが、どれも危ういところで回避している。
いや、別に多少イベントが起こったところで調整はきくんだろうけど……。
問題は「回避しようとしていたイベントが強制的に起こった」ことなのだ。
これらの事をふまえ、私たちはひとつの推測をはじき出した。
すなわち。
「……やっぱりもう一人は居る感じですかね。"転生者"」
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