第007話
会議場の客席に着席する。
ライトアップされた壇上の椅子に2人の男性が座っていた。
向かって右側の男は、金色の髪を後ろに流して、ピッカピカに磨き上げられたドデカイ真っ赤な鎧を装備してる。いかにも屈強な戦士って感じだ。
左側の男は丸刈り頭で、鎧の男とは対象的にボロボロになるまで使い込んだ軽装の装備。顔中が傷跡だらけなのが、遠目からでもよく見える。冒険者家業の過酷さを物語るようで、見ているだけでちょっと怖い。
「今日は『
進行役の先生が話し始める。
2人の間にもう1つ空いている椅子が置いてあるけど、あの空席は何なんだろう。
「向かって右側に座っていらっしゃるのが、Aランク冒険者レックス・アルケイン様。左がSランク冒険者ルーベン・ハークス様です」
「ルーベン・ハークス……? どっかで聞いたことあるな」
「ミネルがルーベン様も【剣】のスキルを使うって言ってたよ」
「なっ!? じゃ、じゃあ、俺も頑張ればSランク冒険者になれるってことなのか?」
ルークは傷だらけのルーベンに自分の将来を重ねると、どんどん引きつった顔に変わっていった。
「俺、ああなっちゃうのか……?」
「流石に失礼だと思うよ、ルーク……」
「本日は貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます」
「いえいえ、未来を担う若い人たちのためなら、時間なんていくらでもあげちゃいますよ」
紹介されたレックスが髪をかき上げながら遠い目をすると、客席の一部から黄色い声があがった。
「『
「あ〜、まぁとってもいい人ですよ、うん……。女神って感じで。もう何でも許してくれるって感じです」
「は、はぁ……」
「こいつは幹部に昇格したばかりだ。クラーディア様ともまだ数えるほどしか会話してない」
「ちょ!? バラさないでくださいよ!? ここでは伝説的な冒険者で通したいんですから!」
腕を組むルーベンはちょっとお調子者なレックスに呆れながら、代わりに返答した。
「クラーディア様は慈悲深い御方だ。常に国民の安寧を願っておられる。その願いは奇跡の力となって、俺たち国民の健康を保ってくれている。他国に比べてこの国の平均寿命が長いのは、クラーディア様の恩寵を証明している客観的事実だ。そして、クラーディア様の力が強く働いているのは、俺たち国民の信仰心がクラーディア様に届いている証拠でもある。家族や友達、大切な人間の健康を願うのなら、お前たちもクラーディア様への敬愛を忘れないことだ」
強面だからか、説得力のあるルーベンの言葉にみんな聞き入っていた。
女神様と普通に会ってるなんて、やっぱり凄い人たちなんだな。
「お二人が冒険者になられたキッカケは何だったのでしょうか」
「ある日、女神様の声が聞こえたんですよね。『あなたの力が必要です』って……。女神様にお願いされちゃ、断れないでしょ?」
「どこぞの誰かが『モテたいからクランに入れてくれ』って土下座してたのは、どうやら俺の記憶違いらしい」
「そうです……ルーベン様の記憶違いです」
ムードメーカー的なレックスの人柄が伝わってくるようで、みんなクスクスと笑う。
「生徒たちの中にも冒険者を目指している人がいると思います。一生懸命に頑張れば、ここにいる生徒たちが『
「もちろん! 誰にでも夢を叶えるチャンスはあります。特に可愛い女の子は夢をつかみやすいと思いますねぇ! 挑戦したい子は、どんどん僕に相談してねぇ!」
「ルーベン様はどう思われますか?」
「あれ? 僕の話、聞いてます?」
「……俺は言葉を知らない。俺が言えるのは1つだけだ。こちらに来るときは、死ぬ覚悟を抱いてこい」
2人への質問は続き、お昼前には講演も終了した。
生徒たちがクラスごとに先生たちに引率され、教室へ戻っていく。
「あれ、ケイト先生は?」
「おいおい、俺達だけ居残りかよ」
ケイト先生がどこにも見当たらず、僕たちが会議場を出るのは最後になってしまった。
「お待たせしましたぁ。それじゃあみんな、教室の戻ろうね」
「もう先生、遅いよぉ」
「ごめんごめん。ちょっと大事な話があってね」
会議場から出ると、ルークの目がキラキラと輝いていた。
「凄かったなぁ、ルーベン先生……」
「せ、先生?」
「見た目は怖かったけど、話してるの聞いてるだけで強いのがわかった。俺もあんな人になりてぇな。卒業したら冒険者になるっていうのも、1つの手だな」
最初は傷だらけの顔を寒々しく見てたのに、すっかり感化されたみたいだ。
どう考えたって冒険者は危険な職業だ。
友達なら「そんな簡単な世界じゃないよ」と諭すべきところだろうけど、ルークだけは特別なんだよなぁ。
冒険者になったら、本当に女神様に仕えるところまで登り詰めちゃう気がする。
「どうだ、アウセル? 冒険者」
「ルークは大丈夫だろうけど、僕は無理だよ。だって泡だよ? どう考えたって冒険者は向いてないよ」
みんなと一緒に会議場を後にしようとした時、ヒヤッとした冷気が首を撫でた。
曲がり角からスラリとした足が現れる。
黒髪に青い色が混じった綺麗な長い髪の女性。
とろんとして眠たそうな瞳は、透き通るような青色に光っていた。
背の高さからいって年上だけど、制服じゃないし、上級生というふうにも見えない。
「君、ちょっといい?」
「は、はい」
「会議場、どこか知ってる?」
「会議場なら向こうですよ」
「ありがとう」
冷気は女性が遠ざかると無くなっていった。
あの人のスキルだろうか、蒸し暑い夏でも涼しく過ごせるなんて羨ましいな。
「もう! 今ごろ来たって遅いですよラフィーリア様! 一体どこにいたんですか!?」
会議場から切実そうな声が響いた。
後ろに振り向いて見たけど、声はそれっきり聞こえなかった。
「ア、アウセル君……ちょっといいかな……」
足を止めたせいでみんなから離れてしまった僕にケイト先生は声をかけた。
なんだかさっきからオロオロとしていて視線も定まらない。
「どうかしたんですか?」
「いや……ここではその、なにかと話し難いことなんだ。放課後、一緒に園長室まできてくれ。ルーク、君もね」
ルークと顔を見合わせる。
園長先生に呼ばれる心当たりなんて、あるはずない。
なんだか嫌な予感がする。
不安を抱えながら入室した園長室。
真剣な面持ちで園長が言う。
「すまない、アウセル君。君の推薦は取り消しになった」
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