キリン若丸

鮪山ちひさ

第1話


 一九九七年、京都市動物園にて、キリンが生まれた。


 大変喜ばしいことであり、すぐに名前の公募がかけられた。そこはさすが京都、凝った名づけが多く、最終的には、丁(ひのと)丑(うし)年生まれだから、牛若丸、という案が選ばれた。


 キリンなのに、なんで牛? というSNSでの盛り上がりが、来園者の増加に繋がった。みな、ネームプレートと牛若丸を同時にフレームにおさめようと、写真撮影がとくに人気であった。


 牛若丸は、その名前のイメージとは裏腹にスクスクと成長し、すぐにキリンの平均身長三メートルを超えた。飼育員からはキリン若丸だとかキリ若だとか呼ばれていた。


 しかし、この牛若丸の快挙を不快と捉える人間が、この地上にただ一人だけいた。


「このままでは、わたしのけいかくがくずれて、だいなしになってしまう」


 後に、京都市市役所都市計画局都市企画部都市計画課に勤める彼女が、そんな憎しみをもったのは、五歳のころであった。


 彼女は牛若丸より一年早く生まれたので、時に二〇〇一年。そのころから、彼女は「けいかく」のために動き始めた。


 長い黒髪を振り回し、中高の柔道部では、あまりの敵の無さと、まるで仁王立ちするかのような立ち姿、貫禄に、だれが呼び始めたか、「弁慶」、とあだ名されていた。悪い気分ではなかったらしい。

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