第51話 希望を繋いで②

 

 オフェリアの心臓は勝手に高鳴ってしまう。

 好きな人に告白されたら嬉しくなるのは当然だ。オフェリアも同じ気持ちだと伝えたくなってしまう。

 だが、寸でのところで言葉を飲み込んだ。

 ユーグの愛情は、果たしてオフェリアを同じものだろうか。師匠愛がとんでもなく重い彼の場合、オフェリアの罪悪感を軽くするためなら、本心を偽ることくらいしてしまいそうだ。



「私のために恋人になる演技はしなくて良いわ。自分の気持ちを犠牲にしないで」

「犠牲にしているつもりは一切ありません。青春だって奪われていません。僕の青春はオフェリアで満たされ、僕はあなたを好きになれて幸せだと思っています」

「師匠に対する敬愛ではなくて?」

「十年以上も付き合ってきた気持ちを間違えるはずがありません。たとえ解呪に必要な事務的なものであっても、オフェリアと口付けできることに舞い上がっているんです。この気持ちは誰にも否定できません。たとえオフェリアであっても、僕の愛は別のものにはできませんよ」



 ユーグはオフェリアを見上げ、表情を和らげた。

 彼女の顔は熟れきったように赤く染まり、青い瞳は感極まったように潤んでしまっていた。

 彼は立ち上がり、片手でオフェリアの両手を握ったまま、もう片方の手を彼女の頬に添えた。



「僕がどれだけオフェリアを好きか、どう伝えれば信じてくれるのでしょうか? 学生時代に、年に一度しか会いに来てくれなかったことを今も根に持っていると教えるべきでしょうか?」

「そんなに前からなの?」

「気持ちを自覚して、もう十二年になります。毎日一緒にいた大好きなオフェリアが……好きでたまらない初恋の人と離れる日が急に訪れるなんて予想していませんでした。どれだけ寂しかったか、何度夢にまで見たか。焦がれすぎておかしくなりそうな気持ちを紛らわそうと勉強にのめり込みすぎて、クラーク先生に魔法で失神させられ、無理やり眠らされたことも一度や二度では済みません」



 そう語るユーグは当時を思い出しているのか、今にも泣いてしまいそうな弱々しい笑みを浮かべている。これは、本当に愛する人と離れて辛かった人の顔だ。

 オフェリアの胸がギュッと締め上げられる。



「私は、百年以上も生きているおばあちゃんよ。こんな年上で良いの?」

「実年齢が気にならないほど、僕にとってオフェリアは可愛らしい女性ですよ。容姿なら、もう僕の方が年上です」

「呪い持ちの、気味悪い化け物だよ?」

「僕が解呪するから問題ありません。重要なのはオフェリアの気持ちです。もう一度言いましょう――愛しています。僕の、一生の最愛になってくださいませんか?」



 ユーグは願いを込めるようにオフェリアと額を重ねた。

 さっきは恋人を望んでいたのに、さりげなく一生の最愛――伴侶にまで格上げさせているではないか。ユーグの強い愛情を一身に感じる。

 オフェリアの胸は痛いほど高鳴り、突き上げる想いが、これまで気持ちをせき止めていた壁を壊していく。

 呪い持ちだからと、誰かを愛することを諦めていた。逆も然り、呪いを持った自分を誰も愛してはくれないと思っていた。

 呪いが解けても、百歳を超えた訳あり魔術師は化け物だ。

 しかしユーグは全てを知ったうえで、以前から愛してくれていたらしい。それも、かなり重く。



「愛しているわ。私もユーグを愛している……っ!」



 オフェリアは絞り出すように、想いを告げる。

 すると目前にあるユーグの金色の瞳から、雫がひと粒落ちるのが見えた。



「オフェリア、心から愛しています。僕と一緒に老いて、死んでください」



 老いて死ぬことはオフェリアの悲願だ。それを口にしてくれるなんて、最高のプロポーズに違いない。

 オフェリアは両手を、ユーグの頬に添えた。ユーグも、空いた手をオフェリアの頬に添える。

 ふたりは視線を絡め合い微笑むと、引き寄せられるように唇を重ねた。

 胸いっぱいに幸福感が広がっていく。

 同時に魔法陣が発動し、青白い光が世界を染め始めた。

 息継ぎも大変なくらい、ユーグが魔力とともにオフェリアの奥へと入り込んでくる。すべてを受け入れていく彼女の心と魔力は、愛する人に支配されていった。

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