第8話 弟子を拾いました③
オフェリアはユーグの手を優しく両手で包み込み、心の中で打ち震えた。
(や、やったわ。これで変態に頼らなくても解呪できる希望が見えてきた。さよなら、変態たちよ……!)
そうと決まったら即行動だ。喜びに浸っている場合ではない。
「私のことは師匠と呼んで。男たちは放置して、ここらか出るわよ。ついてきて」
オフェリアはユーグの手を引き、スラムの出口を目指した。
✽✽✽
数時間後、オフェリアは大量のショッピングバックを宿の部屋の床にどんと置いた。
ユーグに服などの必需品を買ったのだが、最低限と思いつつ揃えたらなかなかの量になってしまった。
(自分のものでなくても新しい服が買えるのが楽しかったから仕方ないわよね。良い買い物をしたわ)
都合の良いように自分を褒めながら、今日から一緒に生活を送る弟子にタオルを渡す。
「私は先に荷物を整理するから、先にユーグがシャワーを浴びて良いわよ」
お店に入る前に魔法で軽く汚れは落としたが、きちんと湯で洗い流した方が良いだろう。
促せば、部屋をきょろきょろと見渡していたユーグは慌てたようにシャワールームに入っていった。
しかし、数分も経たずに彼は出てきた。
「早いわね。気持ち良かった? って、あれ?」
オフェリアはユーグの濡れた髪を乾かそうとタオルを頭に載せて、髪のあまりの冷たさに驚いた。
「お湯は使わなかったの?」
「だって……お湯はお金がかかるって聞いたから……僕、お金ないし」
「この宿はいくら使っても、追加料金は発生しないわ。好きに使って大丈夫よ。ちなみに浴室にあった石鹸は? 洗髪オイルは使った?」
「僕が使っても良いの?」
ユーグの目にはわずかな怯えが混じっていた。親か、司祭からか……使って怒られたことがある目だ。
オフェリアの胸がぎゅっと痛くなる。出来るだけ柔らかい笑みを浮かべた。
「もちろんよ。それらは衣食住の約束に含まれているから、好きに使っていいの。近いうちに、ユーグ専用の石鹸とオイルを買おうね。もう一度シャワーを浴び直してきて良いわよ。急がなくて大丈夫だから」
そう伝えれば、ユーグの顔のこわばりが消えた。口元をほんの少し緩め、小さく頷く。
「使い方は分かる? 教えようか?」
またユーグが頷いたので、洗面台で簡単に使い方を見せてあげる。
そうして次シャワールームから出てきたユーグの体はしっかり温かく、石鹸の良い香りがするようになっていた。
そうしてご飯を食べ、寝間着に着替え、一緒のベッドに横になる。互いが下に落ちないよう、オフェリアがユーグを抱き締めるように身をくっつけた。
「あ、あの、本当に僕が、師匠と寝て良いの?」
「むしろ一緒でごめんね。くっつくと寝られないタイプだった? ベッドがふたつある部屋があれば良かったんだけど、今夜だけ我慢して」
「ううん。師匠、温かいから……寒くないから、我慢じゃ……ない」
「ふふ、なら良かったわ。おやすみ、可愛い私のお弟子さん」
「おやすみ、師匠」
挨拶するなりユーグはあっという間に規則正しい寝息を立て始めた。オフェリアを信用していることが分かる、安心しきった可愛い寝顔を見せている。
その寝顔を見ながらオフェリアは、ユーグから聞いた生い立ちの話を振り返った。
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