呪われオフェリアの弟子事情~天才魔術師は師匠に最愛を捧ぐ~
長月おと
第1話 プロローグ
普通の人間として、朽ちるように死にたい。
この願いがどれだけ難しいか、知っているのは自分だけだろう。
女性魔術師オフェリア・リングは『不老』という呪いを受けている。
銀色に輝く髪は真っすぐ腰まで伸び、やや強気に見える青い瞳はサファイヤのように透き通り、輪郭はビスクドールのように滑らかなまま。呪いを受けた二十歳の姿から百年以上、何ひとつ変わらずに美貌を保ち続けている。
それだけを聞いたら、不老は人によっては歓迎すべき呪いのように思うだろう。
しかしオフェリアにとって不老は、大切な時間と尊厳を奪った忌々しい力だ。
だから孤児を拾った。呪いを解いてくれる、理想の魔術師を育てるために。そう……真面目に育てたつもりだった。
「お師匠様、やっと会えましたね。とても……とても幸せです」
カラスの羽のような艶やかな黒髪を襟元で軽く束ね、黄金色の瞳を持つ麗しい青年――弟子の魔術師ユーグが顔を綻ばせ、師匠オフェリアに告げる。十八歳になった弟子の眼差しは、まるで遠距離恋愛中の恋人に向けるように熱っぽい。
一年ぶりの再会。
確かに懐かしむ気持ちは分からなくもない。問題は、人気のカフェにいるというのにふたりだけの世界だと錯覚しそうになるこの甘い空気。
断じて、オフェリアとユーグは恋人関係ではない。あくまで師弟関係だと断言できる。なんせ年齢差は百十もあるのだ。オフェリアの見た目は若くても、中身はとんだ老婆。
ユーグの眼差しの熱さは、尊敬の類いに決まっている。
「それは良かったわ」
オフェリアは動揺を隠すように、コーヒーを口にした。口に苦みが広がり、甘く疼きそうだった気持ちも少しはマシになる。
と、思ったのはわずか数秒だけ。
「良かった。顔が赤かったので熱でもあるかと思ったのですが、大丈夫そうですね。お師匠様に何かあったら、僕はどうにかなりそうです」
またも、弟子としては重すぎる言葉が並んでいる。
ここまで師匠に過保護な弟子はこの世にいるだろうか。いや、いない。そう心の中で突っ込むくらいには、弟子が献身的すぎる。
「そんなに心配する必要はないわ。大袈裟よ。私が病気なんてしないのをよく知っているでしょう?」
「はい。知っていますが、それでもお師匠様のことが大切だから……許してください」
ユーグは指先で、先ほど赤く染まっていただろうオフェリアの頬にそっと触れた。そして眉を下げ、慈しむような眼差しを向ける。
オフェリアの心臓は不本意にも飛び跳ねた。
見た目麗しく、随分と優しい青年に育ったようだ。それでいて魔法学校での彼の成績は、文句のつけようがないほど素晴らしい。
(私は理想の魔術師を育てようとしただけなのに……こんな風に立派になるなんて想定外なんだけれど!? どこから、こうなってしまったの!?)
師匠しか見えていない妄信的な弟子に、オフェリアは頭を悩ませた。
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