13 アンジェとミシャ
想定していなかった以上にがっつり洞穴は埋まった。
これはこの女性がすごいのか、魔法がすごいのか。レナが使う魔法はちょっと火をつける程度のものだったので、ここまで大規模なものになるとは思っていなかったのだが。
「すごいな」
「ホント、あなたすごいわね」
「別にこれくらいだったらエルフの村では普通らしいです」
その様子から謙遜している気配はないので、本当にエルフにとってこれくらいは普通の範疇なのかもしれない。若干らしいという部分に引っ掛かるが。
「でも、これだけの魔法が使えたのならあの男たちにつかまることもなかったんじゃないの?」
確かに。常識のこともあり反撃するのは難しかったとしても逃げることに使うことはできたとは思う。
ただ、逃げたところでいい結果になったかどうかはわからない。獣人差別どころかデミエルフの彼女が捕まっていた以上、亜人差別のある社会だろう。そんな中で彼女が人間の町で働くことは難しいはずだ。それに住む場所の確保も困難だろう。
この女性の場合、逃げ出したところで状況が好転したかといえば難しい部分だと思うが。
「母からあまり信用できない相手の前では魔法を使うなと言われていたので。それに加減を間違えたりしたら当てちゃいそうでしたし、あの時は抵抗する気も起きなかったので」
「…そう」
話の流れ的に、このデミエルフの女性が捕まったのは村を追い出されてからそれほど時間が経っていないタイミングだったのだろう。そんなタイミングなら自暴自棄になって抵抗しようとも思えないかもしれない。
「でも、そうして正解だったんでしょうね。今こうしていられるのは、あの時逃げなかったからでしょうから」
「……そうかもね」
その途中でいろいろやられているのに今そう言えるのは、それまでこの女性がどれだけ人生をあきらめていたのかがにじみ出ている感じがして、俺はどういう言葉を返せばいいのかわからなかった。
「そういえば自己紹介をしていなかったな。俺はソクサだ。狼の獣人だな。これからよろしく」
家に向かう途中、一度も名前を名乗っていなかったことに気づいた。そんなことをする状況ではなかったのもあるが、これから一緒の家に住むというのにお互いの名前を知らないのはよろしくない。
ついでに俺の種族に関しては憶測でしかない。まあ、水面に映った顔の見た目からして間違いはないと思う。
「そういえば名乗ってなかったわね。私はアンジェよ。猫系の獣人。よろしくね」
「私はミシャ……です。先ほど説明した時にも言いましたがデミエルフになります。歳は12になります。よろしくお願いします」
「12!? その見た目で!?」
ミシャの年を聞いてアンジェが驚きの声を上げる。俺も驚きで目を見張る。アンジェの反応からしてミシャよりは年上のようだが、背の高さなどの見た目からミシャの方がアンジェより年上だと思っていたのでなかなかに衝撃だ。
別に自己紹介をする中で自分の歳を言う必要はなかったと思うのだが、もしかしたら今まで見た目と年齢が見合わないことで嫌な目にあったことがあるのかもしれないな。
「私これで24なんだけど、嘘でしょ? その見た目で私の半分なの?」
俺と同じように驚いた様子で自分の年齢をカミングアウトしたアンジェだが、その姿もその歳の割にかなり若い印象を受ける。
そもそもアンジェは気の強そうな性格の割に背はそこまで高くない。赤毛で快活そうな印象のあるアンジェだがその見た目は、年相応な見た目をしているレナとそう変わらない。一部の肉付きはアンジェの方がいいのでレナよりは年上なんだろうというのはわかるが、それでもレナの1つか2つ上と言われた方が納得できる。
「私の場合は周りから見た目よりだいぶ若いって言われることが多かったんだけど、貴方の場合は逆なのね」
「私はむしろアンジェさんとそれほど歳が変わらないと思っていたので、そこが驚きです」
ミシャはアンジェに比べてかなり背が高い。170は超えていないだろうが、アンジェとは頭半分以上は差がある。
それに、色白な肌だけでなく、レナよりも明るい銀に近い髪色とやや垂れ目ながらもかなり整った顔の造形が合わさって、すごく神秘的な印象を受ける。
よく見た海外モデルのようなすらっとした体型に垂れ目ゆえの温和な印象を受ける顔。そして落ち着いた雰囲気と話し方なため、歳を聞いた今でも本当はアンジェより年上なんじゃないかと思えてくる。
「あなたは何歳なの?」
「わからない」
気づいたときにはこの森にいてこの体だったからな。それに見た目が完全に獣人だから見た目からどのくらいの年齢なのかも判断できない。
「わからないって、正確な歳がわからないってこと? そんなに歳をとっているように見えないから、20代半ばくらいかしらね」
「それくらいかもなぁ」
獣人のアンジェがそういうのならそれくらいなのだろう。
そんな風に思っていると、アンジェが俺のことをじっと見ていることに気づく。
「……あなたみたいな混じり気のないやつって、大半が我欲の強くて他の人のことを考えないやつが多いんだけど、貴方はそうじゃないのね」
混じり気のないやつ、というのが何を指しているのかを理解するのに少し時間がかかった。
「混じり気のないというのは獣人としての見た目のことか?」
「そうよ」
俺もレナもアンジェも獣人という括りではあるが見た目は結構違う。元となっている動物が違うという意味ではなく、全身が動物のような見た目の俺と、四肢が動物のように毛に覆われており、他は耳としっぽが動物のようなアンジェ。レナは耳としっぽ以外に獣人としての特徴はない。
「ということは、俺みたいなやつには自己中心な奴が多いってことか」
「まあそうね」
あれか? 見た目が動物に近いとその分本能とかが強く出やすいとか、そんなのだろうか。
「あ、もしかして、最初俺のことを警戒していたのはそれがあったからか?」
「状況が状況だったからってのが大きいけど、ないとは言えないわね」
そんな感じのことを話しながら、肉体的にも精神的にも疲れているだろう2人に合わせゆっくりと家に向かって歩いていった。
―――――
ミシャは話すよりも聞くタイプの子なので、あまり話の中には入ってきません。基本的に誰かが話しているのをニコニコしながら聞いている子です。
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