11 私にそういう趣味はありません
気絶しているだけの男は放置して完全に動かなくなっている男から上着とズボンを引ん剝く。下着はさすがにいらないので放置。
すでにこと切れているとはいえ、男の着ている服を脱がすというのはあまりいい気分ではない。そういう趣味ではないというのもあるが、それにこの男たちが着ている服はそれほど洗われていないのか、かなり臭い。とはいえ、この機会を逃せばいつ服が手に入るかわからないのだ。今は我慢して使う前にしっかりと洗えばいいだろう。
3人目の服を脱がせたところで女性たちが服を着て戻ってきた。しかし、その服はところどころ破け、着ていない状態よりも何か危ない感じの見た目をしていた。破れているのはおそらく男たちに無理やり脱がされたときにやられたのだろう。
「あなた本当に何しているの?」
まあ確かにやっているところだけを見れば相当やばいやつに見えるのは致し方ない。理由を知らなければ死んでいる男から服を脱がせているとか意味不明だしな。
俺のやっていることを見て、先ほどよりもより怪訝な視線を向けてきている獣人の女性だが、服は胸元からざっくり裂かれていることで起伏のしっかりしている体がその隙間から見え、無駄に扇情的な見た目になっていた。
一方、耳の尖った女性は獣人の女性の裏に隠れ、ちらちらと俺のことをうかがってきている。
こちらも同じように服が裂かれ、あられもない見た目になっているが、獣人の女性よりも体の起伏が小さいため、そこまで扇情的な印象は受けない。それと、獣人の女性の後ろに隠れちらちらとこちらを伺っているその様子は、小動物のような印象が強い。怯えながらもこちらを覗いて様子は、ちょっとかわいい。
「これは単純に服が欲しくてね。この森に棲んでいると手に入らないし、出来れば下くらいは着たいんだよね」
「ああ……あなた何も履いていないものね」
俺の体を軽く一瞥した獣人の女性は呆れたようにそう言う。
この反応から全身が毛でおおわれているからと言って何も着ていないのは、獣人からしても全裸と同じということなのだろう。しかし、もしかしてこれはそういう趣味のやつだと思われていたのか?
そう考えると、彼女から見れたあの状況は、突然全裸の変態男が現れ、あまつさえ人間たちを殴り、さらには殺したというものだ。そうだとすればまだ生きている人間が居るにもかかわらず怒鳴りかけてきたのも納得である。
「それで、この後どうするつもりなのよ。よりにもよって人間を殴るなんて、大罪なのよ。殺されそうになっても何も言えないじゃない」
「大罪だろうと、あのまま何もしなかったところで何の好転もしなかっただろうし、最悪殺される可能性もあったんだから、そこまで差はないだろ? それともあのままがよかったのか?」
少し意地悪な言い方になってしまったが、逆らえなかったとはいえ男たちに好き勝手に弄ばれるのは嫌だったようで、獣人の女性は無言で首を横に振った。
あんな状況を喜ぶような人はそう存在しないだろうから当然の反応だが、そう思っていても拒否できないというのは相当根深い問題だな。
「こいつらに他に仲間がいるとかわかるか?」
「たぶんこれで全員だと思うわ。私が捕まった時も同じ顔ぶれだったし、他の男は見ていない」
「わ、私の時は最初3人で、後から5人になったので他にはたぶん……」
他にはいない感じか。他にいて不意に鉢合わせしたところで同じような対処をすればいいんだが、2人の証言からして他に仲間はいなさそうだな。
なら残った2人もとどめを刺しておくか。
残りの男たちにとどめを刺し、それが終われば服をはぎ取る。そうして2人のもとに戻ると、先ほどの態度とは打って変わって打ちひしがれた様子の獣人の女性が地面に座り込んでいた。
「この後、どうすればいいのよ。行く当てなんてないし」
「…はい」
どうやら俺が前からいなくなったことで感情の向ける先がなくなり、マイナス方面に感情や思考が流れて行ってしまっているようだ。
「もともと住んでいた場所に戻ればいいんじゃないか?」
無理やり連れてこられたのならもともと住んでいた場所に戻ればいい。まあ、一度捕まったということはそこが完全に安全というわけではないだろうが。
「そうもいかないのよ。私の場合はね」
「どうしてだ?」
「獣人の村ってどんな理由があっても、村から出ていった者を改めて受け入れることってないのよ。人間に攫われたとしてもそれは自業自得。そいつが迂闊だっただけって考えなの」
だいぶ極端な考え方だな。自分の意思じゃなかったとしても一度村の外に出てしまえば完全に他人扱いするって、それは同じ種族の者に対してすることか?
というかそんなことをして村としてやっていけるのだろうか。人間に攫われる獣人が増えたら速攻で立ち行かなくなりそうだが。
「確かにそんな感じで無くなった村もあったらしいわ。でも、獣人が住んでいる場所ってあまり作物が育たないから食料が手に入りにくいのよね。だから、誰かがいなくなったら喜ぶ人の方が多かったりするのよね」
「マジか」
なんか絶滅に向かっている種族の話に聞こえてくるだが、本当に大丈夫なのかこの世界。
「私も帰る場所はありません」
「え、そうなの?」
まさかもう1人の方も元の生活に戻れないとは思っていなかったようで獣人の女性が驚いて声を上げた。
「はい。私が捕まったのは村を追い出されて、どうしていいかわからなくてさまよっていたところだったので」
追い出されたって、この世界の常識を鑑みれば人間以外だと死刑宣告みたいなものだろ。
「どうしてそんな状況になったんだ?」
「私、見ての通りエルフではあるんですが、実は人間と交わったことで出来た子なんです。それで、私みたいな存在をデミエルフっていうんですけど、エルフの住んでいる場所では人間と交わることは禁忌に近い扱いなんですよね」
ああ、なんとなくそうかもなって思っていたがやっぱりエルフでよかったのか。というか言い方が人間限定っぽいところからして、エルフからも嫌われているんだな人間って。
しかし、この分だと獣人に限らず、人間以外の存在は差別の対象なのかもしれないな。
「当然、その結果できた子も同じような感じに扱われまして、場所によって対応は様々らしいんですが、私の住んでいた場所では村に住むことが禁止されていまして……」
「あぁ、なるほど。ばれちゃったのね」
「はい」
追い出されたその時のことを思い出しているのか、デミエルフの女性は今にも泣き出しそうな表情で虚空を見つめていた。
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