16 魔法を教えてもらう
「それじゃあ始めましょうか」
そう言ってレナが俺の隣に座る。ミシャはレナの隣に椅子を持ってきてそこに座るようだ。
魔法の初歩を教えるのに特別準備は必要ないらしいので、いつも食事をしているテーブルのところで教えてもらうことになっている。
「とりあえず最初は何をすればいいんだ?」
「最初は魔力を感じるところからですね。これができないと魔法を使うことができませんので」
確かに魔法を使うのだから魔力を感じることができなければどうすることもできないよな。
いつの間にかテーブルの反対側に座っていたアンジェが、ほとんどの獣人は魔力を感じることができないから魔法が使えないと教えてくれた。
要はこの段階で躓かなければ、最低限魔法を扱う才能があるということなのだろう。
「ソクサさん、手を出してもらってもいいですか」
「……うん? あ、ああそういうことね。はい」
一瞬、いかがわしい方に想像が膨らんでしまったが、レナが俺の前に手を差し出してきたので、前に手を出してくれという意味だと気づきすぐに手を前に出した。
「大きいですね」
「え?」
「ごめんなさい。何でもないです」
「そ、そうか」
俺の手をとったレナがボソッとつぶやいた言葉を完全に聞き取れてしまったのだが、これは普通に手が大きいという意味でとっていいんだよな? なんかレナの表情からして変な含みがありそうなんだが。
「これから私がソクサさんの手を通して魔力を流していきます」
「あ、ああ」
何事もなかったように話を進めていくレナに少々戸惑うが、これから魔法について教えてもらうのだから、これ以上の追及はしない方がいいだろう。
「それでは行きますね」
レナがそういうと同時に俺の手に触れているレナの手から俺の中に何かが入ってきたのを感じた。
「何か感じましたか?」
「ほんの少しだが何かが流れてこんできているのはわかるな。本当に少しで、気にしていないと気づけそうにない感じではあるが」
「そうですか。ではもう少し流してみますね」
そういうと同時にレナから流れてきていた物が少し増えたような感覚がした。しかし、その直後に今まで流れ込んでいたものがいきなり俺の中に入ってこなくなった。
「ん?」
「どうしましたか?」
「流れが止まっている気がするのだが」
俺がそういうと同時にまた魔力と思われる物が俺の中に入り込んできた。
「お?」
「いったん止めてから再度みたんですが、しっかり感じ取れているみたいですね」
俺の反応を見てレナは「よかったです」と安堵したように小さく息をついた。
「ああ、なるほど」
今一瞬魔力を止めたのは、偶然とか気のせいじゃないかの確認のためか。まあ、思い込みで魔力が流れていると錯覚を起こしてしまう可能性もあるわけだし、必要な確認か。
それと教える側からすれば、全く才能がないと相手に伝えるのもなかなか気を遣うのだろう。俺だってそういう立場になったら言い出し辛いだろうし。
「魔力が感じ取れたらその先に進めていくことになるんですけど、このまま進めても大丈夫ですか? 体の中の魔力を無理やり動かしているので、最初はこれだけでも結構疲れるものなんです……けど、どうやら大丈夫そうですね?」
「ああ、疲れている感じは一切ないな」
この体って本当にほとんど疲れないんだよな。疲れたと感じたのも最初に人に会いに行こうと1日以上走り続けた時くらいか。あの時も精神的に疲れたってだけで肉体的にはそこまでだったし、ガチで肉体的疲労を覚えたことって一度もないんだよなぁ。
俺の態度や様子をみて本当に疲れていないことが分かったのか、ミシャが今まで座っていた場所から少しだけ俺の方に近づいてきて口を開いた。
「このまま続けても大丈夫そうなので私が引き継ぎますね」
「う、うん」
「よろしくな」
全く疲れた様子が見られない俺に少し納得いっていないようなレナだったが、とりあえずレナが担当してくれる部分が済んだので次の段階に移行することになった。
今度はミシャがもう一段階先。魔力を魔法に変換する方法を教えてくれることになっている。
「それでは、魔法を扱うために必要なものは想像力です。火を起こす、水を出す、風をおこす、土を操る。どれも実際にその状況を想像できるかどうかで魔力を魔法として発現できるかが決まります」
「なるほどな」
ここから先は想像力で魔法が使えるかが決まるんだな。
実際に見たことのある現象なら想像もしやすいかもしれないが、風を起こすことや土を操る想像をするのは結構難しくないか?
前の世界で軽くとはいえアニメや漫画を見たことのある俺は、その辺の想像をするのはそこまで難しくはないんだが。この世界にそういったものがあるかどうかはわからないしな。
そういえばアニメなんかだと魔法を使う時に呪文を唱える、詠唱するものもあったんだけど、この世界の魔法ではそういうことはしないのだろうか。
そのことをミシャに聞いてみると、
「ソクサさんの言うように、起こしたい魔法を明確に想像するために、言葉を紡ぐ方もいますね。私が知っている限り少数でしたけど」
「そうなのか」
そう言えばレナも詠唱はしていなかったな。すっと指先から火を出していたし、むしろ言葉に出さないと魔法を使えないっていうのは見た目的にもあまりだし、魔法使い的にも恥なのかもしれない。
「とりあえず、レナさんの火魔法と私の土魔法と水魔法を今見せますので、それを真似てみてください。風魔法については一応見せるという形になりますけど、あまり得意ではないのでその辺は……」
「得意ではないといっても、少しでも見せてくれるのは助かるよ。全くみたことがないよりは断然想像しやすいからな」
いつも見ているが、直前に見た方がより明確に魔法のイメージが浮かびやすいのは間違いない。お手本を見せてくるのは本当にありがたいことだ。
「そうですか。そう言っていただけると私も助かります」
「助かっているのは俺の方なんだけどな」
そういってうっすらと安堵したような嬉しそうな表情をミシャと横で待機していたレナが改めてお手本として俺の前で魔法を見せてくれた。
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