第297話 ゲヘラー・フォン・マルローデリアン国王 その2
大爆発の後、「何じゃったのじゃ?」と呟きながら震えるゲヘラー・フォン・マルローデリアン国王を左右から支える近衛騎士もまた膝がガクガクと震えて居り、辛うじて転倒せずに踏ん張って居た。
全身黒ずくめで白い変なお面の男が何かをした事は判ったが、その後何が起こったのか、全員が全員全く理解出来ないのだ。
人知を越える何かなのか、迂闊に手を出してはいけない存在なのは間違い無い・・・。
この時産まれて初めて身体の芯から来る恐怖と言う物を味わったゲヘラー・フォン・マルローデリアン国王は、側近達の退却を進言する言葉に只頷き、無言のまま湿ったズボンを着替えて帰途に就いたのであった。
さて、退却すいるに際して点呼を行った結果、5000名の内4863名が重軽傷の損傷を負っており、行軍に耐えられる者はその内の3000名を切る程しか居無かった。
応急処置をして、可能な限り動ける様にして、最終的にはマ・クバーヌ砦から輸送部隊が救援に駆けつけるまで放置されるのであった。
尤も、重傷で取り残された者の内83名は内臓に損傷を受けており、残念ながら救援部隊が駆けつけた時には既に事切れて居たのであった。
この様に即死者こそ居なかったものの、重傷の後に回復ポーション等が間に合わずに亡くなった戦死者の数は最終的に837名にまで及んだ。
回復ポイントが間に合わなかった多くの原因は爆発の衝撃波で瓶が割れた事によって、使える回復ポーションが激減した事に起因するのだ。
たった1回、十分に離れた場所の爆発でこのザマである。
こうして、恐ろしい黒ずくめの男の事をいつの間にか兵士の間では隠語で『魔王』と呼ぶ様になっていたのであった。
さて、マ・クバーヌ砦から言葉少なに逃げ帰ったゲヘラー・フォン・マルローデリアン国王は王城に辿り着いた後、自室に閉じ籠もり、窓を閉めてカーテンを閉め、一切空を見えない様にしてしまった。
そして、1ヵ月もしない内に息子のベルトナーー・フォン・マルローデリアン王子に王座を譲り隠居してしまったのであった。
尚、譲位する際に「決してヘイルウッド公国の黒い『悪魔』には手を出すな!いや、ヘイルウッド公国に手を出してはならぬ。」と厳重に言い残したらしい。
最初は父親流のジョークかと思っていたベルトナー・フォン・マルローデリアン王子も父の異常な状態で伝え聞く先日の遠征の結果が本当だったのかとこの時初めて察したのであった。
この68代目国王新国王となったベルトナー・フォン・マルローデリアンはこれまでのこの国の国王とちょっと毛色が違い、脳筋では無く、自国内の努力によって農地改革や生産量の増加を目論んで居た。
こうして最悪の統治の国から少しずつ脱却して行くのだがそれはかなり先の話である。
■■■
さて、ゲヘラー・フォン・マルローデリアン前国王の晩年だが徐々に精神に支障を来し、空が視界に入る事を酷く怖がる様になった為、常に閉じ籠もり、更に精神状態が悪化すると言う悪循環で悲惨な版円を送ったらしい。
口癖は、『黒い悪魔が爆破しに『空』から舞い降りる』であったらしい。
その事から、前国王の言う『黒い悪魔』=『黒い魔王』となって、トージの全く知らない所で勝手に『黒い魔王』が定着していたのだった。
一方その『黒い魔王』ことトージは3歳になったユーキちゃんに魔法を教え日々デレデレと顔を綻ばせていたのだった。
ガスリー君、サチちゃん、コータはそれぞれ8歳、6歳、5歳になって、日々マッシモ東ダンジョンに潜り、父と同じ最下層を目指して頑張って居るのだった。
幸いな事にその後ヘイルウッド公国からの緊急呼び出し等は無く、どうやら平穏が続いているらしいとジョニー殿下経由で近況を聞くぐらいである。
そうそう、そんなジョニー殿下だが、マリアーヌ王太子妃がご懐妊し、近日お父さんとなるらしい。
ジョニー殿下の所だけでなく、マッシュ達と同時期に結婚した一期生のカップルの所もベビーラッシュで来年には大賑わいとなりそうである。
アッと言う間の本格的なお爺ちゃんだなとコハルちゃんを抱き上げながら思わず口元が綻んでしまうのであった・・・。
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