第180話 忘れた頃に・・・ その1
今回仕入れた『ビフモウー』の肉は部位的にも大当たりで、特にカルビーやハラミ等は日本の近所の焼肉屋で食べた物を思い出させる。
高級過ぎるミノタウロスの肉の焼肉とは違って、高級過ぎずに安心感の在る味と言う良い方が語弊が少ないだろうか?
これなら、焼肉のタレの味も十分に愉しめて白米との相性も抜群である。
今度は1人焼肉では無く、流れのままにマッシュも付き合わせている。
ちょっとした試食だけのつもりが2人でご飯もお替わりして仕舞う程にガッツリと食ってしまった。
「この『ビフモウー』の肉も良いな!」と俺が満足気に言うと、膨らんだお腹を擦りながら「ええ、良いですね。これであの価格でしょ?売り方考え無いと拙いかもですね。」とマッシュが返したのだった。
焼肉だけで言うと、ミノタウロスの肉が『特上』の冠を付ける代わりに『ビフモウー』の肉は『並』にするとかである。
しかし価格をどうするか?逆に『ビフモウー』の肉のみを使った大衆用の専用の店を別途作った方がブランドイメージを損ねないかも知れない・・・。
実に悩ましい問題だ。
『何処でもちょい焼肉』的なイメージかな?
結局俺達2人だけで決められる問題でも無く、特に焼肉屋を切り盛りているスタッフの意見も聞くべきだろうと言う事に落ち着き、次の定休日に本格的に試食意見交換会を開催する事にしたのだった。
「みんな、定休日の貴重な休みを潰してしまい申し訳無い。是非とも皆の意見も聞きたくてな。。」と口火を切って、早速『ビフモウー』の肉を網の上に乗せて行き焼いて行く。
ジューと言う何時もの良い音良い匂いが漂い始め全員で本格的な『ビフモウー』の焼肉の試食開始である。
「ほう!これはなかなか!」と一口目から唸るジェキンスさん。
女性陣は早めにギブアップして居たが、全員『ビフモウー』の味は理解し終えた。
そこでこの『ビフモウー』の肉を今の『ミノ亭』で安い価格帯で出すべきかどうかを含め忌憚ない話し合いを始めたのだったが、即答に近くジェキンスさんから「僭越ながら私は出すべきではないと思います。」と断言された。
理由は極感嘆で、そもそも『ミノタウロスの肉』が売り物の『ミノ亭』と言う名の店に全然ミノタウロス関係無い『ビフモウー』の肉を出すのは如何な物か?と言われてしまった。
確かにそうである。コンセプトからズレてるのは間違い無い。
「それに・・・『ミノ亭』に来るお客さんの場合、それ相応の静けさや店の雰囲気も込みであの価格で納得されて食べて行かれますので、価格帯を下げた肉を出す様になると、そう言う今の常連のお客さん達への背信行為になるやも知れません。」と理路整然とジェキンスさんから諭されてしまった。
「なる程、確かに価格帯が安くなると客層もガラッと変わる可能性が高いな。 じゃあ、『ミノ亭』の方は取り敢えず現状維持で、『ビフモウー』の肉を出す焼肉屋は別名の店を新たに立ち上げる方向にするか。」と俺が締め括った。
そんなおれの提案は皆も賛成してくれたのだが、問題は新しく作る店のスタッフをどうするか?である。
現在の『ミノ亭』の方のスタッフ的なキャパはイッパイイッパイなので、新規に雇って訓練するしか無い。
幸い王国全土からスカウトキャラバンで子供らは集まって来て居るが、年齢的であったり、出身の孤児院の地域差で初期の教育不十分の場合がかなり多く、余り即戦力にはなっていないのが現状なのである。
だが、別にそこは『金余り』の『オオサワ商会』だ。短期的に即売り上げに貢献しなくともへっちゃらなのである。
いや、勿論長期的には利益をもたらす有能な人材に育って貰う前提ではあるが、長い目で見守っていてもへっちゃらなのだ。
流石にそのままニートになられたら困るけどね。
だけど、ここ(マッシモの宿舎)に集まった子供らは、今までの境遇からの脱出のチャンスを逃さない!とばかりに非常に勤勉で魔法や勉強に意欲的に取り組んで居る。
何時も思うのは彼ら彼女らと比べ自分の同年齢の頃のなんと幼く幼稚な事よ・・・。気構えもハングリーさの欠片さえ無く温々と過ごして居た。
どっちが良いと一概に言えないが、環境によってこうまで変わるんだなとシミジミ思うのだった。
話が飛んだが、そのスカウトキャラバンで来た子供らの大半は王都等のアンテナショップの店員となって貰う感じで進めている。
その勤め先に今回新たに立ち上げる焼肉屋『何処でもちょい焼肉』(仮)も加えようかと思っているのだ。
まあ配属先をドンドン増やして行かないと、直ぐにパンクしちゃうから、それこそニートを大量製産しかねない・・・。財政的には危機感が無いだけに意識して気を付けないと危ない危ない。
■■■
マッシモ、王都、そして2つの公爵の領都に同時進行で新しい店舗『何処でもちょい焼肉』(仮)の建築を始める。
で、店舗『何処でもちょい焼肉』(仮)の総支配人にはカッツ(元『ミノ亭』所属)になって貰う事にして、4箇所の店舗建築も含み忙しく飛び回って貰っている。
そしてカッツが抜けた穴を埋める為にスカウトキャラバンで来た子供らの研修場所として『ミノ亭』に入って貰っている。
しかし、余りの激務と言うかフォローする事項が多過ぎてカッツから1人じゃ無理っす!」と泣きが入って、嘗ての同僚であるエクラを助手として指名して来た。
まあ本当に純粋な秘書的な助手かは微妙だが、指名されたエクラの方も満更では無い様子でふふ~ん♪とニヤリと笑って移動を了承したのだった。
つまり、現状『何処でもちょい焼肉』(仮)は総支配人カッツと助手?副支配人?エクラの2名がレギュラーメンバーと言う事になる訳だ。
マッシュ? マッシュは他の後輩の子を助手として連れ立って、トランバニアに行って『ビフモウー』の肉の仕入れ等を取り仕切って貰ったりして居る。
特に特別な事項以外はマッシュの判断で物事が進む様にしてある。
つまり、かなり俺自身の必要性は減ったのだ! 思わず鼻歌が漏れそうになるな。
なんか最初こそダラッとした我が商会だったけど、最近は結構それなりの形になって来たように思う。
更に付け加えると、マッシュにかなり任せてしまっているので、俺も非常に切り盛りが楽だ。もうこのまま楽隠居しちゃう!?って思ったりするけど、子供達・・・特に一期生は厳しく。
そんな俺の心を見透かした様に、なんやかんやと用事を振って来るのである。
そんな訳で、色々と日々順調に進みソロソロ、ダンジョンの続きをやるか!ってコソコソ準備を始めた今日この頃だったんだが、何か、ジェシカが突然我が家にやって来た。
しかも、『我が家専用のゲート』を使ってである。
「お、おま!!どうやって、そのゲート使った?」とジェシカに問い詰めると、「すいません、師匠、ちょっと正式ゲートで経由すると手続きや挨拶とか面倒臭い事が多いので、師匠の王都の家のゲート出来ちゃいました!」とテヘッって感じに首を傾げているが、「お前!それ不法侵入やん!!」と冷静に突っ込む俺。
災難(ジェシカ)は忘れた頃にやって来ると言うが本当だな・・・。
そして半怒り状態で問い詰めるまでもなくサクサクとゲロってくれるので話は早いが、何用かと思えば催促であった。
「えっとぉ~、余りお伝えしたくは無いのですが、父・・・国王陛下が、『余所の国の関係無い辺境の城壁とかばかりやってないで、そろそろ家(王都)の城壁の拡張工事を!』と言いながら泣いてまして。」と苦笑いしながら告げるジェシカ。
「えーー!?あれ本気だったの? 冗談とばかり思ってたのに・・・。ヤルの?」と俺が徐に顔を顰めると静かに頷く冷淡な
マジかーー! このままバッくれる気満々だったのに。どうやら見逃してはくれないらしい。
「しょうがない・・・気乗りしないけど、一応、明日王城に行くから。」と俺が応えると、
「ああ師匠! 毎回王都のご自宅経由とかで歩きで宮殿まで歩きってダルくないですか?一応父・・・いや国王陛下に話し付けて置きましたので、直接ゲートで乗り込んで良い部屋作りましたんで。」とほら、私って気が利くでしょ?と言わんばかりに胸を張るジェシカ。
「ああ・・・そうなんだ。判った、どの部屋に行けば良いのかな?」と俺が聞くと、今から1度案内しますので、一緒に行きましょうと言って、俺の手を曳く。
結果一番最初に王族全員と面会したあの広いリビングに出て、そこから、ジェシカに先導されてドナドナされて1つの部屋に案内されたのであった。
「師匠、ここです。この部屋なら、何時でも24時間直接前触れ無く来て頂いて大丈夫なので。そして、その紐を引っ張って貰えば係の者が直ぐに参りますので。」と6畳ぐらいの椅子と壁から垂れ下がって居る紐だけがある殺風景な部屋の使い方を説明されたのであった。
「なる程、これは便利ではあるが、こんな感じで警備面は大丈夫なのか?」と心配になって尋ねると、
「師匠、それこそ今更ですよ。ち国王陛下や近衛騎士団長にも言ったんですが、師匠がその気になれば暗殺し放題だし、なんなら城ごと消せますよね?」と真顔で問うて来た。
「えらく直球だな、確かに幾らでも
まあ的を射てるだけに否定出来ないな。
で、促されるままに壁の紐を引っ張らされて、カランカラン♪と音が向こうの方ですると1人のメイドが現れて、俺とジェシカを「さあどうぞ!」と国王陛下の元へと案内したのだった。
えー?明日とちゃうんかい!? と内心思ったが、まあ1日早いだけだししょうがないと諦めたのだった・・・。
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