第178話 運命の出会い
帝都よりは全然城壁の直径が小さいとは言え、今回拡張したため、当初の予定よりは大幅に時間を食ってしまったのは想定外であった。
とは言え、こうやってほぼ連日何くれと無くご機嫌伺いも兼ねてお茶や軽食だと誠意を尽くしてくれた相手が俺の作品を見て涙を流しながら喜んでいるのを見るのは気持ちが良い。
作者冥利に尽きるね!
完成したタイミングに丁度トランバニア侯爵も現場に居て最後のセクションが建造開始のセクションに繋がったのを見て思わず「うぉーー!」と叫んでいたよ。
その雄叫びに思わず俺もビクッとしちゃったよ。 魔王なのに恥ずかしい。
と言う事でソソクサとシュタって片手を上げて「じゃあね!」って帰ろうとしたんだけど、結構良い歳とは思えぬ様な俊敏さで俺の所まで駆けよって来て俺の腕を掴み、
「お、お待ち下され!! 暫し! 暫しお待ち下され!」と呼び止められてしまったのだ。
どうやら、トランバニア侯爵曰く、今朝から、領主の屋敷でソロソロ完成しそうだからと見切って祝賀会の準備しちゃっていたらしいのだ。
なんだろう? つい最近同じフレーズと言うか同じパターンを経験した気がするが、折角喜んでセッティングしてくれたのに断るのも大人げないかと、少しだけとの条件を付けて承諾したのだった。
父となった俺は前の俺と違い、必要な場面では大人な対応の出来るまでに成長したのだよ。ふっふっふ。
まあ、見かけ上は
た中二臭い喋りの怪しい奴なんだけどね。
そんな訳で請われて誘われるままに竜車にのって何か知らん間に場内をパレードしてしまったよ。 ちょっとそう言う重要事項は事前に言っておいて貰わないと!
(前の城壁をボロボロにした事とか)結構恨まれてると思ってたから石とか投げられるんじゃ無いかって思ったんだけど、何か真逆に領都住民から感謝の言葉とか投げ掛けられて、嬉しいやら恥ずかしいやら、微妙な気分。
もしかしてこれが有名な『褒め殺し』って奴なのか?
そしてパレードの後に辿り着いた祝賀会会場は、てっきり、領主の屋敷って無条件に思い込んでたんだけど、何と、領都の真ん中にある広場だったよ。
勿論、俺専用の仕切られた空間も用意してくれてて、,身バレ顔バレ防止にも留意してくれていた。
まあ、場所が場所なので想像付くと思うけど、その通りで、さっきまで道の両脇で声援とか感謝の言葉とか投げ掛けてくれていた領都住民も祝賀会に自由に参加している。
何となくだけど、トランバニア侯爵はマッシモ様と同じで領民に慕われている貴族らしい。尤も、柔らかい感じの見た目のマッシモ様と違ってこっちのトランバニア侯爵は武人系で厳つい威圧感も兼ね備えて居るんだけどね。
トランバニア侯爵の挨拶が壇上で始まる。
「皆の者!聞いて欲しい!! 本日、ここに居られる魔王様のご尽力で無事に城壁が完成した! 既に見た者も多いだろうが、見てない者は是非とも先に新しい城壁を見てみて欲しい! あの綺麗で滑らかな鏡の様な表面を。なんと驚く事に我が国の帝都の城壁と我がトランバニアの城壁は同じ物なんだぞ! tumari
1000年は保つと言う事だ! しかも魔王様のご厚意で、領都の場内も拡張して下さったんだぞ! さあ、皆の者!魔王様に感謝して、飲んで食って祝って欲しい!」と締め括ると、「うぉー!トランバニア万歳!!」等と歓声が上がっていた。
うん、何となく流れからして予感してたから。 うん、判ってたから。
俺はトランバニア侯爵からお願いされて、グラスを片手に壇上上がって、スピーチを始める。
「トランバニアの諸君。 我は魔王と名乗っておる者じゃ。縁あってここトランバニアの城壁の修復をヘンリー皇帝陛下経由で行った。 トランバニア侯爵の仰った様に、ここと帝都の城壁は同じ強度と言って過言では無い。以前の帝都の城壁が1000年保ったなら、今度の城壁は2000年保つかも知れぬ。
ただ、我は、他国を害せず他国から諸君らの平和と安寧を犯されない幸せな生活と繁栄を望む者である。 では、安寧と幸せを願って乾杯!」と言ってグラスをかげた。 すると広場内の全員が「カンパーイ!」と嬉し気に復唱していたのだった。
俺専用の衝立で作った死角エリアに入ると、メイド?が料理を取り分けて何皿か運んで来てくれる。 前の皿を食べ終えると、自動的に新しい皿へと交換してくれると言うわんこそば形式である。
どの料理も帝国料理と呼ばれる物らしく、味付けも非常に美味しい。
料理面では、王国って本当に帝国に惨敗してたんだなぁ~と今更ながら思ってしまう。
前に思ったが帝国料理って、フランス料理やイタリア料理に系統が似てるのかも知れないな。
尤も、パンが出て来るけど、俺のレシピで作った様にふっくら柔らかいパンでは無いのが残念だが、パスタっぽい物も出て来るし、トマトソース味の物も結構出て来る。
そして何皿目か判らないが、出て来たステーキっぽい肉を食って俺は驚いた。ミノタウロスの肉程激美味い訳ではないが、これは完全に牛肉と言って差し支えが無いだろう。
ちょっと硬い気もするが、それは肉叩きで叩いて解したりおろし玉葱等の酵素とかで柔らかくしてやったりすればかなり変わるはずだ。
次の皿を持って来てくれたメイドを呼び止めて、
「すまぬが、先程この皿で持って来てくれた肉!ステーキなのか? この肉をもう一度持って来て欲しい。そして何の肉か名前を教えて欲しいのだが。」と所望してみた。
俺から声を掛けられた事でビクッとして居たが、安心しろよ!取って食ったりしないからさ!
ミノタウロスの肉が和牛のA5ランクとすれば、先程の肉は海外の欧米産の牛肉って感じだろうか?
柔らかさや肉その物の持つ旨味はミノタウロスの肉と比べるべくもないが、この肉の値段によっては庶民向けの焼肉用に出す事もアリなんじゃないかと思ってね。
ほら、ここトランバニア特産の肉だとしても、ゲート網あるから、何とでもなるじゃん?
メイドが再度持って来てくれた肉を食べつつ味をチェックする俺。 これは正に運命の出会いだろう。安価な牛肉なら庶民でも焼肉を味わえるって物だ、
メイド曰く、やはりトランバニアの特産の家畜である『ビフモウー』と言う大型の家畜の肉なのだそうだ。
なる程、これは交渉の余地在りだな。
あ!そうか!俺って今魔王じゃんよ! それが『ビフモウー』の肉を売ってくれて言ってその後『オオサワ商会』が受け取りに来るとか、完全に魔王と『オオサワ商会』が繋がってまっせー!って宣言してる様な物じゃんか!!
うーん、ちょっと遣り方を考え無いと駄目かな? でも1度この肉でタレに漬け込んで焼肉してみたいな。
どうするかな? 後日素の俺とマッシュとで商談に来てみるか・・・。と方法を悩みつつもトランバニア侯爵にそれとなく知人に『ビフモウー』の肉の事を話しておく事を臭わせようと決めたのであった。
更に1時間程飲み食いをした後、アルコールが入って上機嫌のトランバニア侯爵を捕まえて、ソロソロお暇する事を伝え、祝賀会のご招待のお礼を言った。
「あ、魔王様、まだ追加工事の分のお支払いに付いてを取り決めて降りませぬが!」とトランバニア侯爵が焦った様に聞いて来た。
「うむ、そうじゃったな。我は正直どうでも良いのじゃよ。別に金銭で払ってもらうつもりも無かったしのぉ~。どうするか・・・ おお!そうじゃ! 先程食わせて貰った『ビフモウー』の肉じゃが、おそらく、儂の知る者が探しておった肉やも知れぬ。その者は食堂とかをやっておってな。その者に『ビフモウー』の肉の事を話して置く故に、もしその者が『魔王より聞いて来た』と言ったら、取引に応じて欲しいのじゃ。 そう言う条件でどうじゃろうか? お主としてもそれ程悪く無い話じゃないかの? 勿論肉をタダにせよとは申して居らんぞ。その者が気に入ったらば、適正価格で取引に応じてくれれば良いのじゃ。どうじゃろうか?」と俺が言うと、
「へ? そんな事で宜しいのか? それでは魔王様に全く益が無いのではないか?」と心配してくれた。
「ふふ、心配無用ぞ! 我は好き気ままに美味しい物を食うのが好きなのじゃ。よって美味しい食材が我の知ったる所から我の周囲に入って来れば、回り回って我の口にも入るのじゃ。」と今回の件はこれで良いと言う事を明確に伝えたのであった。
いや、まさかこう言う形で代替えの牛肉が手に入るとは・・・「情けは人のためならず」って・・・あれれ?これは本当は違う意味だっけ?
そうして、長く掛かった一連の工事も多くの収穫を得て終わるのであった。
ああ、そうそう、トランバニア侯爵が折角だからって、『ビフモウー』の肉のブロックを多めにお土産として分けてくれたんだよね。
お礼を言ってホクホクと魔の森の小屋経由で風呂と着替えをして自宅に帰るのだけど、一つ大失敗。 『ビフモウー』の肉のお土産は良いんだが、サチちゃんってまだ
離乳食ですらないから、お土産が無い事に今更気付いてしまったのだ。
どうしよう? ある物と言えば、ここに在る『エグドラの木の実』やアプモグの実である。
うむーー、ジュースにしちゃえば歯が生えそろってなくても飲めるか・・・。『エグドラの木の実』とアプモグの実を多めに採取して、せっせと無属性魔法のフォース・フィールドで摺り下ろしたりしてジュースを作るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます