第102話 魔法修行の波紋

俺がジェシカとラフティに魔法を教える様になって、3ヵ月が経過した。


ハッキリ言うと、血の所為かは知らないが、2人共にかなり優秀で魔法の才能があると思う。

まあ、ラフティは職業柄って言う下地が功を奏したとしても、まさかジェシカまでもがたった1ヵ月ぐらいで魔力を感知出来るなんて思いもしなかったよ。


当初、『教えてみたけど駄目だったね。王都へお帰り!』ってコースを夢想していたのだが、そうは問屋処かジェシカが許してくれない様だ。


え?何故、いつの間にか『ジェシカ』呼びになったんだ? もう美人のお姫様に気を許したのか? アリーシアさんを擦れる気か?って言われそうだけど、そうじゃないからね?


簡単に言うと、第一王女殿下はまっ先に却下され、師匠が弟子に謙るのはおかしいし、示しが付かないと言われ、『じゃあ、ジェシカ姫?』って言うと子供達の手前ここで溝を作らないで公平に単なる1人の弟子として扱って欲しいと懇願されて、それぞれ、『ジェシカ』『ラフティ』と呼び捨てにせざるを得なかったんだよ。


もう少し付け加えると、上記のやり取り(攻防)の後から、若干アリーシアさんがムクレてね・・・『何故、一番最初から共に居る私だけアリーシア『さん』付けなんでしょうか?私の事は信用出来ないから、余所余所しくしているのでしょうか?』と詰められてしまい、結果、子供達は元から呼び捨てなので置いといて、

女性陣全員一律呼び捨てってルールが採用となったのだ。

え?その呼び捨て女性陣に師匠が含まれるのか?って? 恐ろしい事を聞くんじゃないよ!師匠は何時までも『師匠』だよ!!


それなら、俺の事を『様』付けも止めて欲しいと言ったんだけど、『トージ』と言う呼び捨てはとても出来ないと言われて、じゃあせめて『様』じゃなくて『さん』にして下さいってお願いした感じである。


ほら、よくお父さんの経営する会社にポンコツな息子がコネ入社して、社長室に来た息子が「パパ何?呼んだ?」って現れた息子に「バカ野郎、会社では『社長』と呼びなさいってあれだけ何度も言って聞かせたのに・・・」って注意するのに似てる?ってちょっと1人ツボってクスクス笑っていたんだけど、

シリアスなシーンでイキナリクスって笑った物だから、真剣に『トージ様』・・・『さん』とか呼んでる最中だったので、「酷いです!」って酷く怒られてしまって平謝りしたのだった。



こっちだと、会社=商会って事になるんだろうけ、どっちかって言うと会社って言うより、個人商店、つまり自営業の大規模版って感じなんだよね。

だから、先の頭の中で妄想したシーンを彼女らに説明しようとしても今一つニュアンスが伝わらないと言うか、伝えられない感じなんだよね。


そんな訳で女性陣への呼び捨てが当たり前の様になったのがここ1ヵ月の変化である。



■■■


さて、ジェシカとラフティが簡単な魔法を発動出来る様になって、攻撃魔法等を練習するにはジェシカの屋敷の方が敷地が広く都合が良い筈なのだが、何だかんだ言っては我が家に来たがってズルズルと帰宅時間をズラして行って最近ではちょいちょい夕食まで食べて行く。


まあ別に食事が2人分追加になるからってケチな事を言って渋るわけじゃなくて、幾ら気安く呼び捨てにしている師弟関係と言えど、下手な噂が立つと相手は第一王女殿下、色々拙いじゃない?


と俺は思って居たんだが、最近、ジェシカ&ラフティと元からの女性陣(アリーシア、ソフィア、ソリアの3人)が実に仲良くなっていてちょっとビックリ。


何か、ジェシカ&ラフティがズルズルと帰宅時間をズラしてるのを容認して居る様な節があるんだよね。


そして、最近時々俺に聞こえる感じに「そろそろ、もう少し広い食堂が欲しくなりますね。子供達も増えたし、ドンドン大きく育って行くし、まだまだ子供達が増えそうですしね。そろそろ良い自機かなぁ~?」って呟いているんだよね。

建て替えるのか?


まあ、その方が良いなら俺は反対はしないけど、大急ぎで建てて貰っても、4ヵ月ぐらいは掛かるだろうし、その間の全員の住処が問題だからね。そう簡単な話では無いのだ。



俺が「立て替えは全然良いけど、その間の仮の住処の確保は今のマッシモじゃあ大変だから、難しいんじゃない?」ってアリーシアさん・・・もといアリーシアに言うと、ニヤリと微笑んで「そこら辺は私にお任せ下さい。」と自身ありげに言って来た。


「そう?じゃあそこら辺は何時の様にアリーシアにお任せするよ。」と了承すると嬉しそうに「はい。お任せ下さい。」言ってそのままお出かけしてしまった。



さて、アリーシア主動による我が家の家の全面建て直し計画が始動し始めた頃、俺の全く知らない所で、とある方面の界隈に激震が走っていた・・・らしい。


発端はラフティによる先月の定期報告書であった。


国王陛下の下へ届いた今回の定期報告書には、ビッシリとトージ家の食事の美味しさへの賞賛が過剰名程に綴られていたが、一番波紋を呼んだのは、その後に書かれていたこの国の魔法界隈ではあり得ない事象?快挙についてである。

この国において、魔法が使える様になるならないは単純にどう言う家系の血を引き継いでいるか?これに尽きる。

つまりこの国の常識ではそこらのポッと出の庶民やそもそもが魔法使いを輩出して居るかどうかが重要なファクターだったのである。

それに加え、各家独自に継承して来た秘伝の魔法や訓練方法があって、それが門外不出の強みを生んでいた。

よって、魔法使いを代々輩出している家系の者達は、もの凄い利権と権力を持っていて何世代にも渡り栄華を誇って来たのである。


そう、『これまで』はである。


その栄華が急速に曇り始めたのは、何処の馬の骨かも判らない冒険者がとあるレアな石をオークションに出した事から始まる。

かの冒険者が作り出したドームや湯船を壊すどころか、傷一つ加える事も出来ず、的を吹き飛ばした魔法が何なのかさえ判らなかった。

代々培って来た王国一の魔法使いと言うプライドが一瞬にして砕けてしまったのだ。


しかも走った激震は魔法界隈だけで無く、錬金術、特に魔動具を作る者達にもお伽噺でしか出て来ない様な話、魔動具を作る錬金術師が必ず一度は夢に見る『マジックバッグ』を実現してしまったのだ。

奴は思いもしなかった発想の魔動具を次々に発売し、余りの売れ行きに入荷と同時に完売と言う凄い売れ行きらしい。


そして、トドメを刺すかの様に届いた月次報告によると、お付きの者もこれまで全く魔法が使えなかった第一王女殿下も魔法が使える様になったらしい。


しかも、その冒険者の指導を受けて1ヵ月と言う短い期間で・・・である。


更に悪夢の様な事実が追加されて居た。


その冒険者の所には、子共も含め15名の庶民が居り、全員がその冒険者の指導によって魔法使いとなっていると言う事である。


つまり、これらの事実が指す事は、「魔法使いに『血』は関係無い。」と言う自分達の成り立ちの全てを否定する内容である。



月次報告が国王陛下の下に届き、その内容が王宮内に漏れ聞こえる様になるのにそう時間は掛からなかった。



ちょっと前に王国随一の魔法使いと言うプライドを砕かれただけで無く、今回は自分達バックボーンさえも全否定されてしまったのである。


王宮魔術師団の団長の号令で密かに魔法使いを輩出して来た全家系へと密書が回ったのであった・・・・。

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