幸せ研究家リシャンチ【大人の昔ばなしシリーズ】

独白世人

幸せ研究家リシャンチ

 昔々のおはなし。

 ある資産家夫婦に男の子が産まれました。

 その男の子はリシャンチと名付けられ、何不自由なく幸せに暮らしていました。


 しかし人生に不幸な出来事はつきものです。

 10歳の時にリシャンチは事故で両親を亡くしました。


 リシャンチはとても頭の良い子でした。

 幼い頃からの夢は学者になることでした。


 成人する頃、彼は生涯の研究テーマを『幸せな人生』としました。

 両親から莫大な遺産を相続していたリシャンチは、仕事や結婚をしないでひたすら幸せな人生について研究する覚悟を決めました。出来る限りフラットな目線でこの世の幸せについて考えたいと思ったのです。


 人間にとっての幸せとは研究すればするほど奥深いものでした。


 幸せな人生を送るためにお金はどれくらい必要なのか?

 幸せな人生を送るのに最適な職業は?

 幸せな人生に学歴はどう影響するのか?

 幸せな人生に結婚は必要なのか?

 幸せな人生に最適な子供の数は?

 何歳まで生きるのが幸せなのか?


 その全てが簡単に答えの出るものではありませんでした。


 リシャンチは世界中のあらゆる人から話を聞いてデータを集めました。

 そしてそのデータを元に人間の幸せ度数を計測出来るシステムを開発しようと考えました。


 しかし、研究すればするほどリシャンチには幸せというものの実態が分からなくなっていくのでした。

 大金持ちでも不幸だと言う人もいれば、貧乏でも幸せそうにしている人がたくさんいました。

 そして、学歴の良し悪しはあまり幸福度に影響されないようにも感じました。

 また、大きな会社で働いている人ほどストレスが多い人生を送っているというデータも出てきました。

 勿論、お金持ちで高学歴な人の中にも幸せだと言う人もいましたが、その中には自分自身を幸せだと思い込もうとしている人もいるように感じました。


 それでもリシャンチは幸せについて考え続けました。

 彼はやがて100歳になりました。

 そんなリシャンチが出した幸せに対する結論は次の言葉に集約されました。


「幸せかどうかはその人の心が決めるもので、周りの人間が決めるものではない。ただ一つ言えるのは、心の底からその事実を知っているかどうかが、幸せな人生を送れるかどうかの分かれ道になるということだ」


 たったこれだけの答えを出すための人生をリシャンチは生きたのでした。

 そしてリシャンチは、「もっと別の研究をすれば良かった」と言ってこの世を去りました。親から引き継いだ莫大な遺産のほとんどは残ったままでした。

 死ぬ間際にリシャンチが自分の人生につけた幸せ度数は、100点満点中14点だったそうです。

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幸せ研究家リシャンチ【大人の昔ばなしシリーズ】 独白世人 @dokuhaku_sejin

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