取引8件目 明かされる秘密
***
午後九時。
俺の部屋に重苦しい空気が漂っている。
「まずは話の前にこれを見てくれ」
「ポーチ?」
渡されたのは、少し大きめのポーチ。
中を開けてみろと言う指示で開けると、中からは色々と出てくる。
スマホ、財布、鍵、パスポート、年金手帳。
なぜ唄子はこんなものを出してきたのか、皆目見当もつかない。
「この鍵、家のじゃないな。というかこの財布百鬼さんの使ってたやつか?」
「私の家の鍵だ、それにその財布は私のだ」
「いつの間に鍵変えたんだろ、俺新しい鍵渡されてないぞ」
基本鍵を持って出ない俺には不要だが、さすがに鍵を新調したなら渡して欲しいぞ。
「身分証をみてくれ、財布の中だ」
「……!?」
身分証を見て俺は、驚きのあまり勢いよく唄子を見る。
唄子は静かに頷くのみ。
「これ、百鬼さんの身分証じゃん。あの人証明写真でも美人だな」
「んっ、そういうのはいい。パスポートを見てくれ」
促されてパスポートを見るが。
「これも百鬼さんのやつだ、やっぱパスポートの写真も美人だな」
「だからそういうのはいいんだ」
「ていうかなんで百鬼さんの身分証とか持ってるんだ?」
なぜ唄子が深刻な表情で百鬼さんの身分証を見せたのか謎すぎるが、そもそも持っていること自体が謎すぎるんだってことに今気付いた。
「嘘だろ? そこまで察しが悪い男だったか?」
「え、なにが」
「百鬼天音の身分証、百鬼天音のパスポート、百鬼天音の年金手帳。それを幻中唄子が所持できる理由はただ一つだろう」
なにを言ってるのかさっぱりわからない。
「つまり私は幻中唄子ではなく、百鬼天音ということだ」
「明日は休んで病院に行こう」
「病気じゃない! 信じがたい話だろうが、信じてくれとしか言えない。というか年金手帳まで出してるんだから疑う余地ないだろう」
目の前にいるのは唄子であって百鬼さん?
なにを言ってるんだこの妹は。
「私、百鬼天音は意識不明だろう?」
「そうだな、一向に目を覚ましてくれない」
いつ目を覚ましてくれるのか、俺は気が気じゃない。
「そして幻中くんの妹、幻中唄子は傷心の末心を病んでしまっただろう?」
「ああ、未だに元凶のあの会社だけは許せない」
妹は新卒入社先の会社で重度のパワハラとセクハラで病んでしまった。それまでは明るく元気な妹だったが、声を発することも、部屋から出る機会も減ってしまっていた。今までは。
「つまりそんな状況で、百鬼天音と幻中唄子はリンクした」
「一旦寝るわ」
「一通り聞いてからにしてくれ」
なにを言っているのかは分からないが、妹が厨二病に目覚めたと認識していいのかこれは。
「彷徨う私の魂を、唄子ちゃんは受け入れてくれたのだ。」
「えーっと……? つまり、ファンタジーみたいな現象が起きてるってことか?」
その通りだと言う唄子だが、やはり俺の脳は追いつかない。
「事の顛末を全て話そう」
言って唄子は、話が長くなるからとコーヒーとクッキーを取りに行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます