第46話 勝負! 挑み挑まれ

 11月7日からの戦いが始まる。


 ここまで勝ち残った高校はさすがに強敵だ。


 この日の対決は、北海道代表のひぐま高校だ。


「さあ、勝つべや~熊なだけに!」


 そんなことを言って、部員が笑っている。


 いぜん、連日ドル円の動きは大きい。上下高校投資部のみんなは、ドルを中心にトレードしていく方針は、すでに決めていた。


「相手の羆高校のデータだけど」


 カリンがみんなを集めた。


「すべての試合で、プラスの利益で終わっているよ。利益はそんなに多きはないから、いつも通りやれば勝てるはず。頑張っていこう!」


 イロハは、改めて気合が入った。


(ここからは、きちんとした実力じゃないと勝てない!)


 まず、イロハが投資の舞台に上がる。


「よろしくお願いします」


「うん、よろしくお願いします。一年生?」


「はい」


「うん、なまらめんこい子だね」


「めんこい……?」


 開始の合図が上がる。


(今は147円ちょうど。でも、4日の終値は146円50銭くらい。今日は上への窓開けで始まっているけど、まだ戻していないし、ショート中心にいこう)


 イロハは、147円で10lotショートを打つ。


(えっ、ちょっ、上に行く……)


 為替は、あっという間に5銭上昇した。


(うそ、もう5000円の含み損。それに、スプレットも0.2だから、5200円……。でも、時間内に下がるよね……)


 しかし、為替は下がらない。


 一回しかトレードできていないよ。


 羆高校の生徒が、マウスをカチカチ動かす音がする。


(相手は、たくさんトレードしてるみたい……)


「そこまで!」


 審判の合図とともに、強制決済された。


(損失、5800円……)


 相手の羆高校の成績が表示された画面を見ると、利益2500円と書かれていた。


「うーん、まずまずだべ~」


 相手は、大きくリードしたことで機嫌よく、仲間の待つ控え場所へと戻っていった。


「みなさん、すみません……」


「ううん、イロハ、ドンマイだよ。ショートする戦略は間違ってなかったよ」


 カリンが出迎えてくれる。


「相手は、ロングしていたんでしょうか?」


「ううん、それが、相手も最初はショートだったんだよ。でも、すぐに含み損になったから、あっという間に損切して、ドテンしたんだ」


「すごい……」


「やっぱり、損切は大切だよね」


 イロハは、一度しかトレードできなかったこと。そして、きっと戻るはず、と思って損切できなかったトレードを悔やんだ。


「イロハ、これは次に活かそうよ。今は、花子を応援だよ」


「そ、そうですね。ハナちゃん、頑張って」


 花子に声をかけると、花子は、うん、と一つ頷いて、


「わしが華麗に買ってくるぞ」


 といって、舞台に上がっていった。


 しかし……


「ボロボロじゃった~」


 この時間のトレードは難しい。


 花子も逆にトレードを繰り返し、上下じょうげ高校の損益は、マイナス1万円になってしまった。


「ううん、難しかったから仕方がないよ。羆高校も損して、プラス1千円まで利益を縮めてるから」


「それでも、1万1千円も差があるぞ。およよ~」


 花子の落ち込み様を見ると、みんなは、苦笑いした。


「でも、相手が大崩れすることはなさそうですね。ここで、なんとか差を縮めてきます」


 アヤノが、勇ましい顔でいう。


「アヤノ先輩、頑張ってください!」


「アヤノ、ファイト!」


 みんなでアヤノを送り出す。


 はじめ、の合図で、アヤノと、羆高校の生徒が一斉にトレードをはじめる。


「すごい、羆高校の人も、1万円も差がひらいているのに、攻めてきますね」


「今までなら、ここでトレードしないって戦略もあったかもだけど、それだけ上下高校を評価してくれているってことじゃないのかな」


「そうですよね。カリン先輩も、アヤノ先輩も、ハナちゃんだって、投資の実績と経験がありますもんね」


「何言ってるのさ、イロハのおかげだよ」


「えっ?」


 イロハは驚いた。自分はまだ、投資部の中では一番経験が浅い。


 トレードも、うまくできているとは思えない。


「わたし、ぜんぜん、評価されるようなことは」


「ううん。イロハのおかげだよ」


 イロハはまじまじとカリンの顔を見た。


「イロハはこれまで、一番最初に舞台に上がったよね」


「はい」


「そして、イロハが利益を上げて、それで勝ち負けが決まることが多かったじゃん」


「うーん、そうかもしれません」


「あれで、相手の高校にプレッシャーをかけることができてたんだよ」


「ええっ!」


「それで二人目以降が、取り返そうとして、焦ってトレードして自滅するような展開にもなっていたんだ」


「そうなんですか!?」


「うん。だから、羆高校も、いつもは最後に出てくる、たぶん一番トレードのうまい子が、今日最初に出てきたんだよ」


 そういえば、これまでは同じ一年生が相手のことが多かった。


 今日は、イロハのことを、めんこい、などと言ってきたことからも、おそらく上級生だったのだろう。


「イロハが、上下高校の評価を上げていたんだよ」


 カリンがニコッと笑うと、イロハはなんだかうれしくなった。


「そこまで!」


 審判の声が響いた。


「負けたべ~」


 相手がぐったりしている。


 アヤノは利益を積み重ね、マイナス2千円まで取り戻している。


「すごい、8千円も買った! 相手は……」


 羆高校は2千円の損失を出し、ついにマイナス1千円になっている。


「千円差!!」


「よし、ここは部長のわたしが、勝ってくるよ!」


 カリンが、戻ってきたアヤノとハイタッチして、舞台に向かう。


(なんだか、カリン先輩、頼もしいな)


「はじめ!」


 の合図とともに、カリンと羆高校の生徒がトレードをはじめる。


 カリンは、パソコンにぐぐっと顔を近づけて、マウスをカチカチいじる。


 トレードの様子が映し出された画面には、カリンの素早いトレードが映し出される。


 損切、利確、利確、損切……


 少しずつ利益が増えていく。


 ここにきて、相手の羆高校の生徒は、少しずつ利益を減らしている。


(一番最初に、トレードの上手な人を出したって言ってたけど……)


「終了! そこまで」


 審判の合図とともに、今持っているポジションも決済される。


「どうなった!」


 相手のトレードを知らないカリンが叫んだ。


 上下高校、プラス1200円。羆高校プラス1000円。


「やったー!!」


 カリンは両腕を突き上げた。


 僅差で上下高校の勝利だ。


 控え場所に戻ってきたカリンをみんなで出迎える。


「カリン先輩、やりましたね!」


「えっへん!」


 カリンが胸を張る。


「私にかかれば、朝飯前だよ」


「あまり調子に乗らないでくださいよ。まだ試合はあるんですから」


「ううっ、まあ、いいだろ。勝った直後くらい」




 ここからも強敵が続く。


 みんな、どんどん利益を積み上げてくる。


 しかし、イロハと花子が大負けしない限り、アヤノとカリンがその分を取り返してくれる。


(やっぱり、先輩たち、すごいなぁ)


 はじめのうちは、上下高校投資部のトレードがはじまっても、見学者はそれほど多くなかったが、勝ち進んでいくにつれ、実際に足を運ぶ人や、リモートで観戦する人が増えていった。


 そして、11日の金曜日の準決勝も上下高校は辛勝。


 10日に発表されたCPIの結果で、ドル円は大暴落。


 この大きな動きに、どの学校も混乱する中、上下高校のみんなは、これまでいくつもの暴落暴騰を乗り越えてきているだけに、なんとか利益を上げることができた。


 いよいよ、週明けの14日が決勝戦だ。


「相手は……やっぱり、神奈川県の間黒まぐろ高校か」


 投資部のみんなは、もう一ブロックの準決勝を観戦。


危なげなく間黒高校が決勝に進んだ。


 最初の二人で大きく利益を取り、最後の二人はトレードの舞台に上がるだけ。


 一つもトレードをせずに勝敗がついてしまう圧勝だった。


 そう、この最後の二人こそ、以前上下高校へ見学に来た、3年生の部長の三浦みうらミサキと、2年で副部長の茶木羅ちゃきらコウだった。


 勝利して、選手の控室に引き上げていく、トリのミサキが、上下高校のみんなが試合を観戦していたのに気付いたようで、歩み寄ってくる。


「あらみなさん、ごきげんよう」


 部長のカリンが一歩前に出る。


「決勝進出、おめでとう」


「決勝進出おめでとう? あら、優勝おめでとうの間違いでなくって?」


「えっ、それはどういう?」


「あなたたち、わたしたちの相手になるとでもお考えですの? あなたたちのトレードを見させていただきましたけれど、はっきり申し上げて、わたくしたちの敵ではなくってよ。ここまできたら、わたくしたちの部員が新型コロナにかかって出場辞退とでもならない限り、あなたたちの勝ちはなくってよ」


 ミサキは、すでに勝ち誇った顔だ。


「うう~」


 カリンは言い返そうとしているが、横からアヤノが割って入る。


「わたしたち、あれからもレベルアップしてきたつもりです。あなたたちには負けません」


「おほほ、せいぜい頑張ってくださいまし。ところで、来週で終わる、団体戦の成績は、どうなっているのかしら? いぜんは、300万円とおっしゃっていましたけれど」


「ふん! うまくいってるよ。団体戦だって、わたしたち、まけないから! そっちだって、利益は1千万円くらいって言ってたよね」


 カリンが勢い余っていう。


「ちょっと、カリン先輩」


 アヤノが横から、カリンの制服の袖を引っ張る。


 たしかに、最近、大きく880万円利益を確定させている。証拠金の500万円と、最後にすべての資産で買った空運株を合わせると、1500万円ほどだ。以前間黒高校が言っていた利益を上回っている。


「おっほっほ、勇ましいわね」


 ミサキはまだ微笑を崩さない。


「団体戦終了を前にして、資金が推移していないとでも?」


「ううっ、じゃあ、どうなのさ」


「正確な金額は団体終了後の結果発表をお楽しみに。ですが、わたくしたちは、1千万円よりも、もっと素晴らしい成績をご用意できると思いますわ。庶民は庶民らしく、それなりの成績を期待していますわ。まあ、記念すべき第一回の投資甲子園の舞台になった高校が、無様な成績にならないことだけはお願いしますわね」


「聞き捨てならないよ。無様だなんて」


「あら?」


「無様な成績だなんて、それって、これまで頑張ってデモトレをしてきた人たちに、ちょっと失礼じゃないの」


「オホホ、言葉だけでは分からないようですわね。勝負の世界、いいえ人生は、勝ち負けが全てですわ。そこに頑張ったも楽したもなくってよ」


「頑張った人が無様だなんて、そんなことないと、わたしは思う」


「いいですわ。では、負けた方が無様だということを、その身をもって知るといいですわ。こうしましょう。団体戦でも勝負ですわ」


「勝負?」


「間黒高校と上下高校とで、どちらの利益が多いか」


「のぞむところ。でも、その身をもってってなんだよ?」


「そうね、負けた方は、地面に這いつくばるのはどうかしら」


「這いつくばる?」


「ええ。幸い、間黒高校も上下高校も可憐な女子ばかりですわ。そんな女子の無様な格好を殿方をはじめ、大勢に見せることになれば、敗北者の気持ちがようやく分かるというもの」


「なんだよ、それ……」


「ずばり、負けた方は、地面にぺったんこ座りして、前方に両手をついて、まけちゃいました~お願い、許して~と言うのはいかがでしょうか?」


「ううぅ、なんだよ、それ……正直引くよ……」


「女の子のぺったんこ座りからの、負けちゃった宣言は、とても無様に見えるのよ」


「…………」


「あら、言葉が出てこないんですの? 負けるのが怖いの? 辞めておくなら今のうちですわよ」


 カリンは下を向いて考えているようだった。


 アヤノはカリンに、


「ちょっとカリン先輩、そんなおかしな誘い、乗ることないですよ」


 と言ったが、それがミサキに聞こえたのか、


「オホホ、いいですわいいですわ。負け犬同士、勝負の前から傷をなめ合うといいですわ!」


 そう言われたものだからカリンが、


「わたしたち、負け犬なんかじゃない! いいよ、その勝負乗ったよ!」


「いいですわ! 負け犬こそよく吠えるとはこのことですわ。では、来週、楽しみにしてますわ。ごきげんよう」


 ミサキはそう言って去っていった。


「ちょっとカリン先輩っ!」


「ううっ、だってアヤノ……」


「だってじゃないですよ、なんですか、あの約束は!」


「いや、勝てばいいんじゃ……」


「そういう問題じゃないですよ! みんなに相談もなく感情的に!」


「ご、ごめんなさい……」


 カリンはしゅんとした。


 そこへ、手伝いをしていたカエデとマキ、シホも合流した。


「さすがに、さっきのは部長としての適性にかけるわよ、カリン」


「うん、ちょっとまずいで、カリン」


「うう~みんながぺったんこ座りで~、両手を前について~恥ずかしいセリフをしゃべることになっちゃうよ~」


 そんなことを言われると、カリンはますますうつむいた。


「あの、みんな、たしかに、カッとしたわたしの責任だよ。間黒高校に謝って、今回の勝負は、なしにしてもらうよ……」


「はあ……」


 カリンが言うと、アヤノが一つため息をついた。


「いいえ、でも、あんなお嬢様たちに謝るのもしゃくです。いいですよ、ここは勝負で。もし負けたら、恥ずかしい格好でもセリフでもやりますから……」


「ア、アヤノ~」


「でも、その時は、イロハちゃんとハナちゃんだけはなしにしてもらうよう、カリン先輩は土下座してでも頼むんですよ」


「う、うん……」


 でも、カリンが勝手に決めたこととはいえ、イロハも投資部の一員だ。


 なんだか、仲間外れにされたようだ……


「あの、わたしも、もし負けたら先輩たちと一緒に……」


「ダメ!」


 アヤノがぴしゃっと言った。


「これはダメダメなカリン先輩が全面的にケリをつける問題だよ!」


 アヤノの語気は強かった。


 イロハは気圧されて、「はい……」と同意するしかなかった。




 みんなで、会場の片づけを終わらせた。


 もう暗くなっている。


「明日は、本田さんのお店のアルバイト、整理をしなくちゃいけなくて、少し朝早くきてほしいそうなので、先に帰りますね。14日、決勝頑張りましょう!」


 翌日は早朝からアルバイトがあるので、その日はイロハと花子だけが先に帰る。


「ちょっとハナちゃん、歩きスマホはだけだよ」


「イロハよ、ちょっと待ってくれるかの……ドル円が、大変なんじゃ」


前日の10日は、CPIの結果を受けて、ドル円は暴落していた。


 そして、今日11日午前中は一時的にドル円は買い戻されたかのように見えたが、また円高に動いている。


「もう、早く帰りたいのに。じゃあ、公園のベンチで少しだけだよ」


「おう!」


 公園のベンチに腰をかける。


 花子は、目を血走らせながら、スマホに映し出されたチャートと格闘している。


「でも、ハナちゃん。わたし、ほんとうによかったのかな」


「何がじゃ?」


「何がって、間黒高校に団体戦で負けた時だよ」


「うーむ、まあ、カリンもアヤノも、わしもイロハも何もしなくてよいと申し出てくれたのじゃ。ここは先輩二人に任せればよかろう」


「そうなのかなぁ……」


 しばらく時間がたつ。風も出てきて、なんだか肌寒くなってきた。


「ハナちゃん、いいかげんに帰るよ」


「うむ、少し落ち着いたわい。利確と損切をしたが、あまり儲からなかったのう」


 帰ろうと思って立ち上がると、


「あ、あれ、カリン先輩とアヤノ先輩」


「おう、追いつかれてしまったの」


「声かけてみる?」


「いや、ちょっと待つのじゃ」


「え、また隠れるの? 前にも同じことあったよね!?」


 花子と草むらに隠れる。


 アヤノとカリンが、先ほどまでイロハと花子がすわっていたベンチの前までくる。


「アヤノ……いい加減、機嫌直してよ……」


「もう! カリン先輩、自分が何したか、分かってるんですか!」


「うん、今回は、本当に軽率だったと思ってるよ……」


「はあ……」


 ベンチの前なのだが、アヤノとカリンは座ることなく、立っている。


「わたしさ、投資部の活動をバカにされたようで、腹が立っちゃって……」


「だからって……」


「うん、だからって、今回のことは、よく考えずにとっちゃった行動で、反省している。でも、本当に、嫌だったんだ。間黒高校の人たちに、目にもの見せてやりたい、なんて思っちゃって……瞬間的に、頑張ってきたわたしたちが、報われないはずがないんだって、変な思い込みをしちゃって」


「それって、投資と同じですよ。バイアスってやつです」


「だよね……」


「でも……」


「うん?」


「そういうカリン先輩って、やっぱり素敵です」


「アヤノ……」


「前に、大孫先生がわたしにひどいこと言った時、カリン先輩馬乗りになって殴りかかったことありましたよね」


「うん、あったよね」


「なんか、すごく心が温かくなって……あれから、カリン先輩みたいになりたいな、なんて思っちゃったんです。そしたら、今度はイロハちゃんに大孫先生が嫌なこと言った時、私が殴っちゃいましたけどね」


「アハハ……」


「でも、やっぱり暴力はダメです。カッとなると、いいことありません。投資も、人生も……」


「そうだよね……」


「いずれにしても、14日の個人戦に勝って、その後の団体戦も勝てばいいんですよ。今は、そう思っていきましょう」


「アヤノ~」


 バサッとカリンがアヤノに抱きついた。


「もう、カリン先輩、人に見られたらどうするんですか……」


「えへへ、アヤノって柔らかくていいにおいするよね」


「ううっ」


 アヤノはカリンを引き離した。


「アハハ、冗談だよ」


 そういわれたアヤノが、顔を真っ赤にしているのが分かった。


 カリンの顔も真っ赤になっている。


「カリン先輩、やっぱり、許すのやめますよ!」


「えへへ~」


「まったく、負けたら一生恨みますからね。ぺったんこ座りして、前に両手をついて、まけちゃいました~お願い、許して~、なんて、一生の不覚ってやつです」


「うーん、でも、ちょっとアヤノがやっている姿、見てみたいような……」


「なっ!!」


「だって、クールなアヤノが、そんな姿で、弱々しいセリフを言うのって、なんだか、かわいいなぁ、って想像しちゃったりして」


「ううっ~」


 アヤノの顔は、さっきよりも真っ赤だ。


「もう、カリン先輩のバカ!」


「アハハ~……」


 カリンも顔が真っ赤になっている。


「でも、アヤノ、頑張ろう。わたしの尻ぬぐいさせちゃうようだけど。バイアスかもしれないけど、なんとかなる気がするんだ」


「ふう、まあ、カリン先輩とは恥を共有してきたわけですし、いいですよ。最後まで付き合ってあげます」


 そういって、アヤノとカリンは去っていった。


 次第に遠のいていく会話から、


「アヤノって、わたしの部屋にきた時も、正座だよね。ぺったんこ座りしないの? かわいいのに」


「何言ってるんですか! 怒りますよ!」


 などと冗談をいい合っているのが分かった。


「なんとか、仲直りしている感じで、よかったよね」


「うむ、そうじゃな。それにしても、あの者たち、両想いのカップルみたいじゃの」


「カップルって、カリン先輩とアヤノ先輩が……」


「イロハよ、なんか思わぬか?」


「う、うん。カップル……カリン先輩とアヤノ先輩……あり得るかも……」


 なんとも言えない気持ちで、イロハと花子は岐路についた。


 勝負の14日までは、あとわずかだ。


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