第6話 はじめようか、冒険者登録2
「ご存じかと思いますが冒険者への支援は国民の義務として定められております。一定以上の視聴者数とクエスト達成率を超えた冒険者の方はこちらの納税義務を放棄することが可能となります」
通りで高額支援が良く飛ぶと思ったら、ギルチャは趣味では無く納税だったみたい。ちなみにギルチャの何割かは税金として天引きされるそうだ。
「
パソコンもカメラもマイクも何もない異世界では配信虫という魔法生物が撮影録画配信全て行ってくれるらしい。虫と名前がついてはいるけど姿形は様々で、デジカメタイプやタブレットタイプも存在するらしい。ちなみに安い配信虫に編集機能は無く生放送利用に限られているので放送事故があってもカットすることは出来ない。失言と炎上には注意が必要だ。
「―――と、以上で説明は終了です。何か質問はありますか?」
徹夜したおかげで初めての異世界生活でもそれなりに話についていけたと思う。セピアは元々冒険者に憧れていた事もあって私以上に熱心に説明を聞いていた。
「あ、ひとつ質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
そして一つ確信する。初心者用の説明マニュアルに無いということは、私の推理は正しかったみたいだ。
徹夜で沢山の動画を見て、殆ど存在しなかった現実世界の人気ジャンルがあった。セピアにはそれを実践してもらい、他冒険者との差別化を図りたいと思っている。
「二人で配信をする場合にギルチャや経験値がどうなるのか知りたいです」
そのジャンルとは、友達、兄弟、カップル・・・コンビ配信だ。
「・・・はい? お二人で、ですか?」
受付のお姉さんはキョトンとした顔をしている。
実況プレイや雑談だけでなく、大食い動画でも旅行動画でも複数人で仲良く配信するチャンネルは現代でも大人気だ。勿論一人で頂点に立てる人もいるけど、グループで活動する人気ユーチューバーは多く、人数がいる分トークの負担も軽い。掛け合いを楽しむこともできるしゲーム企画やドッキリ企画など様々な事に挑戦できる。
固定グルに限らずコラボ配信によってお互いのファンを増やしたり、そういった現代では定番の戦略がトレサポには全くと言えるくらいに無かった。
「その、奴隷・・・じゃなくて、雇用主が使用人を配信に出演させる場合は雇用主にのみ配信の報酬が行くようにできます。基本的に自分の配信に他者が映った場合は配信主にしか報酬をおくることが出来ませんので」
「えっと、そういうのじゃなくて。一つの配信でどちらにもギルチャが贈れるみたいな機能ありますよね」
この世界の複数人配信は受付のお姉さんが言うように奴隷や使用人を使った圧倒的上下関係がある場合のみで、対等な友達同士で配信を行う事はまず無い。どうやら視聴者数やコメント数から得られるクエスト報酬(=冒険者経験値)は配信を開始した放送主にしか入らず、協力者のメリットがあまりにも少ない為のようだ。
例えコラボ配信を順番に行ってもその日の撮れ高で経験値が偏る事はあるし、自分にギルチャが来なければ1クエスト分タダ働きする事になる。
そんなわけで、複数人で配信するのはコスパが悪い。複数人必要なクエストをやる場合はライバル冒険者では無く最初から戦力重視で人を雇う方が人気も分散せずに済む。というのがこの世界の定石みたい。
でも、それは間違っている。
とあるアイドルはメンバー同士の親しい日常をSNSに公開する事によってより人気が出た。ファンに見せる完璧な姿だけでなく友達に見せる素顔に人々は惹かれ、より身近に感じて応援したいと思えるものだ。同性に好かれる子は異性からも魅力的に見られるし、二人でいれば魅力が二倍三倍にもなる。推しの恋愛は応援し辛くても友情なら全力で支援できる、同性の友達と仲が良ければプライベートでもいい子だと安心できる。
というか、女の子が時に親しく時に真剣に厳しく、寄り添い励まし合う姿を見て嫌う奴なんている筈がない!
青春の体現は一人より二人、二人よりたくさんのアイドルが必要。一人のアイドルもいいけど、ユニットやグループになればドラマが生まれる。
その相乗効果を知らない遅れた異世界にユニット冒険者という概念をぶち込んでやろうとたくらんでいるのだ。
「そ、それでしたら・・・配信設定の方で――――」
その後、困惑するお姉さんからギルチャの設定だけ教えてもらって私達は冒険者ギルドを後にした。
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