【超短編】みんなの声
茄子色ミヤビ
【超短編】みんなの声
五階建てのビルの屋上から、30代の男性が飛び降りようとしていた。
彼は盛んに如何に自分が不幸であるか、なにより会社では日頃どのようなストレスに晒されているのかを叫んでいる。
そして地上では警官がしきりに叫んで散らしてはいるが野次馬でごった返していた。
野次馬連中の頭の中を覗いてみよう。
自殺男の勤務先の社長は、うちの会社に監査が入ったら面倒だなと思い
同僚の男Aは、自殺なんて辞めるべきだと思い
同僚の男Bは、あいつには飛び降りる根性なんてないだろうと思い
同僚の男Cは、飲み会の4000円をまだ返してもらってないと思い出し
同僚の女Aは、あぁ遂にこういうことをやったかと思い
同僚の女Bも、あぁ遂にこういうことをやったかと思い
後輩ABCは、この会社やばいのかもと思い
先輩Aは、あいつの相談を一番聞いていたかのは同期のBだったと思い
先輩Bは、早く仕事に戻らないと残業になると思うも、心配しながら
上司は、責任の所在を社長に収めべく画策を始め
タクシーの運転手は、ビルの下に停めてある自分の車に落ちないことを祈り
ビルのオーナー―は、不動産価値とこれが保険対象になるかどうか心配し
正義感の強い学生は、本気で心配し
ビデオを回す男Aは、テレビで流されるときに不謹慎だと思われないよう
ビデオを回す男Bは、この動画はバズると思いながら
ビデオを回す男Cは、取り合えず撮っておこうと思いながら
ビデオを回す女Aは、映画みたいだとワクワクしながら
ビデオを回す女Bは、明日自分はここにいたと自慢しようと考えながら
ビデオを回す女Cは、テレビに売るときは自分の名前は伏せてもらうと決めながら
そして彼の父母は、胸の前で手を組んで一心に祈りながら…
彼らは口々に「やめろー!」「考えなおせ!」と叫んでいるが、だれの声が彼の心に響き、彼がどの選択をするのかは、まだ分からない。
【超短編】みんなの声 茄子色ミヤビ @aosun
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