親分がダメな見習いの傭兵

ねぎてろ

親分がダメな見習いの傭兵

ウチの親分はどうしようもないダメ人間だ。




「かーっ! 酒はやっぱ美味いっ!!」




 がちゃん、とグラスを無造作に置く。飛び散ったビールがクレアに降りかかった。


 クレアは迷惑そうに顔をしかめる。




「親分、さっきから飲みすぎ」


「そう言うなクレア。今日くらい飲みすぎても罰は当たらん! がははっ!」




 ポケットをポンポンと叩く。傭兵代がたっぷりあると言いたいんだろう。




「いっつも飲んでるくせに……」




 頬をつきながら親分に氷よりも冷めた目を送る。


 クレアと親分の二人は日雇い傭兵の仲間だ。


 レノ。それがクレアが親分と呼ぶ男の名前だった。


 赤茶色の短髪と頬の傷が目立つ人。体格や身長は平均よりもでかめ。


 そしてめちゃくちゃ笑う。声もでかい。




 そんな親分はいつも金がない。なぜなら、お酒と食事に消えていくからだ。


 まるで絵に描いたような酒豪で、任務終わりにはよく酒場に寄る。


 たぶん、今回の傭兵代も三日もあればなくなるだろう。




 金銭管理ができないダメな親分だ。




「うっ……、ちょっと外の空気吸ってくる」


「うーっす、しっかり吐いてこいよ!」


「はぁ? ただ酒場の匂いで気持ち悪くなっただけだし!」




 寝不足のような目つきで睨みつけると、さっさと外に出る。


 むさ苦しい空間から解放されて、心地よい夜風が頬を撫でた。




「宿屋に帰ろうかな……」




 どうせ親分はウチがいてもいなくても気にしない。


 なら先に帰って明日の準備でもしとく方が良い。




「――おいおい、お嬢ちゃん。こんなトコで一人かい?」




 掛けられた声に振り返ると、クレアより背の高い細身な男が立っていた。


 取り巻きが二人。いずれも若い。


 へらへらと口元をつり上げながらクレアを見下している。




「ここらは酒飲みのたまり場だからよ。ふらふらしてたら危ないぜ?」


「ほっといて。心配いらないから」


「いやいや、お嬢ちゃんはちっこいしすーぐ連れ去られちゃうぜ? 安全な場所を紹介してやっからよ」




 真ん中の男がクレアの腕を掴む。思ったより力があるみたいだ。


 一人なら男でも負けないけど、三人だと話が変わってくる。


 クレアは眼を細めると、男を睨み上げる。




「連れ去ろうとしてるのはあんたたちでしょ」


「あははっ、大丈夫だって。俺らは怖いヤツらじゃないからさ――」




 ぽんぽん。




 肩を叩かれ、三人の男が後ろを振り向く。


「どこの誰か知らねぇが……。俺の弟子に何か用か?」


 


 そこに立っていたのは、紛れもなく親分だった。




「親分っ!?」




 目を丸くすると親分を見上げる。


 さっきまで飲んだくれの顔だったはずなのに、今はゾッとするほど恐ろしい顔をしていた。


 それを見て焦ったのは男たちだ。




「い、いやっ!? 俺たちは心配して声をかけただけで! なぁ?」


「そ、そうそうっ! 何事もなくてよかったな!」




 互いに頷き合うと、あっという間に去っていった。




「なんだあいつら? まぁ良いか」


「親分、その……。あ、ありがと……」




 頬を朱色に染めながら、少しうつむきがちに言う。


 飲んだくれのダメ親分。だけど、嫌いになれないのが親分なのだ。


 恥ずかしそうなクレアに、親分は。




「――ん? 俺なんかしたか?」




 不思議そうにきょとんと首をかしげていた。




「……えっ? た、助けに来たわけじゃないの?」


「助ける? いや、実はちょっとお腹壊してな……。いてて……」




 言って、そばにあったベンチに座ると一息つく。


 クレアは思わずその場で立ちすくんだ。




 ……つまり。


 助けにきたわけじゃなく、体調不良で来ただけで。


 怒っていたわけじゃなく、単に苦しい顔をしていただけ……?




「…………親分のバカ」


「ん? なんか言ったか?」


「知らないっ! 親分なんか大っ嫌い!」


「ちょ――おいっ! なんでキレてんだぁ?」




 理不尽な怒りに嘆く親分を置いて、クレアは早足で立ち去る。


 見直したと思ったらこれだ。ちょっとドキドキした自分がバカだった。




「一人前になったら弟子なんかやめてやるっ!」




 宿に向かう途中、クレアはそう強く決意したのだった。






〇 〇 〇 〇 〇






 傭兵の任務を受注したクレアたちは、宿屋で装備の最終確認をしていた。


 クレアと親分は貴族や王族の専属傭兵じゃない。


 傭兵協会で日雇いの仕事を探す必要がある。


 収入が安定しないから、懐に入っているお金の量もまちまちだ。


 すっからかんの時が多いけど。




「うーっし! じゃあ宿出るぞ? もう忘れもんはないか? 戻れないからな?」




 親分はニヤニヤとまるで遠足に行くような顔だ。子供っぽい。




「心配なのはウチより親分だけど。そっちこそ忘れ物ない?」


「がっはっは! 何言ってる。俺はベテラン傭兵だぞ? 身支度くらい余裕だぜ」


「ふぅん。……じゃ、床下に隠した予備の短剣は?」


「…………」




 親分が固まった。




「それとロープ。ベッドの下にも何か置いてなかった?」


「…………」


「……もう、しっかりしてよ」


「べ、別にこれは最後にとっておいただけだっ!?」




 とっておいたとはなんなのか。


 みっともなくベッドの下を漁る親分に、呆れてため息が漏れる。


 と。




「ん? おい。こんな服、お前持ってたか?」


 親分が何かを持ち上げる。




 それは一着の真紅色の服だった。




「いや、たぶん前からあったと思うけど」


「まぁ、そうか。お前コートばっかりだもんな。はっはっは」


「うっ……、別にこれは良いでしょ。ウチのお気に入りなんだし」




 ぎゅっとコートを握る。


 クレアは傭兵任務の時、身体より一回り大きなコートを羽織っている。


 濁った水に似た銀髪、ほんのりと赤褐色に染まった肌、そして燃えるような緋色の瞳。


 クレアの容姿はどこに行っても珍しい目で見られてしまう。


 争いや騒動の種は少ない方が良い。だからクレアはいつもコートで身を隠していた。




「試しに着るか?」


「はぁ? 何言ってんの? そんなの合わないから」


「そうかぁ? 可愛いと思うけどな」


「なっ――、……着ないって言ってるでしょ」


 踵を返して親分を置いて廊下に出る。




「……なんなの、あのバカ親分……!」


 クレアの頬は浴室から出てきたように朱色に染まっていた。






○ 〇 〇 〇 〇




 


「おっ、君たちが依頼した傭兵だね? 今日はよろしく頼むよ」


 街の馬車置き場に着くと、手を振る青年の姿があった。




 がっちりと二人は握手を交わす。




「こっちこそ。俺とこいつで護衛させてもらう」


「ありがたい。確か君たちが提示した金額は一人分と半分、だったかな?」


「おう、こいつはまだ半人前なもんでよ。だから見習い金額っつーことだ! がっはっは!」


「15歳ってホントかい? 僕の妹と同じ年なのに、立派ですごいなぁ」


「んなことねぇ。まだまだ未熟だぜ。未だに俺と同じ部屋で寝ないと――」




 ぶちっ。




「ふんっ」


 ムカッとしたクレアは横腹を思いきり肘で突いた。




「ぐあッ――!?」




 絶叫してうずくまる親分。


 クレアは素知らぬふりをして、荷馬車を指さした。




「運ぶのはこの一台で良いの?」


「え? あ、ああ……。そうだね。鉱石を詰め込んであるんだ。依頼表に書いた通りだよ」


「そう。ならウチは後ろに乗る。親分は手先がすっごく不器用だから、細かい作業はウチに言って」


「お、俺は不器用じゃねぇし!」




 涙目になりながら吠える親分には目もくれず、クレアは荷馬車のチェックを始めた。






○ 〇 〇 〇 〇






 森林地帯が続く山道を一台の荷馬車が通っていた。


 板の下から地面を転がる車輪の振動がガタガタと伝わる。


 道路はあまり舗装されていないせいでお尻がちょっと痛い。


 クレアは荷馬車の端っこに座って、過ぎ去る風景を眺めていた。




 時折、前の方から親分の笑い声が聞こえてくる。


 どうやら、青年との会話が弾んでいるらしい。




「呆れた……。これだから親分は……」




 クレアはポツリと愚痴をこぼす。


 いくら馬車の護衛が暇でも、さすがにサボりすぎだ。


 もしも万が一、何かがあれば――、




「――――てくれ――んか」


「っ……!?」




 今、誰かの声が聞こえたような。


 それもかなり近い場所から。


 周りの風景に特に異常はない。今のはいったい――。


 クレアは立ち上がると、眼を閉じて耳を澄ませた。




「誰か助け――れ――んか」




 やっぱり! 誰かいる!


 さっきよりもはっきりと聞こえた。


 確信すると、クレアはすぐさま親分に声をかけた。




「親分っ! 誰かが助けを呼んでるっ!」


「んぁ? 何言ってんだクレア?」




 アホ面を晒す親分に、クレアは目じりをつり上げる。


 クレアの予想通り、親分は聞こえてなかったみたいだった。


 そりゃそうだ。あれだけバカみたいに笑って話していれば。


 話している時間も惜しい。今すぐ降りないとどんどん遠ざかってしまう。




「バカっ! 叫び声が聞こえたの! 降りて確認してくる!」


「はぁ? おい、待てって! 一人で行ったら危ないだろ!」


「大丈夫、親分は馬車止めて待ってて!」




 叩きつけるように言うと、クレアは馬車から飛び降りた。


 親分が傭兵の任務から外れることができないなら、クレアが行くしかなかった。


 道から外れると、草木を掻き分けて森の中へ入っていく。


 手がかりはかすかに聞こえた声だけだ。


 具体的な場所はわからない。


 だけど、方向はしっかりつかんでいた。






 森の中に入って数分。




「誰かいる――?」


 クレアは目いっぱいの声を出して、薄暗い森の中を歩いていた。


 声は返ってこない。人影らしきものもない。


 もしかしてあの声は自分の聞き間違いだった?




(いや、そんなハズ……)




 辺りはどんどん暗くなっていく。


 この辺りは獣が出没する危険地帯だ。


 長居は禁物だった。




(……別に獣なんか怖くない。ウチは傭兵だし)




 心細さをごまかすように、クレアは自らを奮い立たせる。


 襲って来たらこの短剣で突き刺してやる。


 そう意気込み、クレアは足をさらに奥へと向けて、




「そこの方、助けていただけないでしょうか」


「ぎゃぁああああああああああああああああっっ――――!?」


 


 ふいに聞こえた声に、クレアは甲高い悲鳴を上げた。


 もはや咆哮に近い大音量で。


 みっともなく尻餅をつくと、クレアは震える手で短剣をあっちこっちに向ける。


 左右。いない。後ろ。いない。前もいない。


 クレアは必死に辺りを見渡した。




「こちらです。こっちこっち」


「っ――!?」




 反射的に短剣を声のする方へ向ける。


 その切っ先の先には、一人の女性がクレアを見下ろしていた。




「すみません。少し手を貸していただきたいのですが。木に引っかかってしまったので」


 クレアのほぼ真上。


 枝からコウモリのようにぶら下がった状態で。




「だ、誰っ……?」


「見てわかる通り、魔女です」




 顔色ひとつ変えずに黒髪の女の人は言った。


 左目の下に泣きほくろのある、大人びた雰囲気の人だった。




「ローブやホウキが木に絡まって、どうしようかと困っていたのです」




 女の人の周りには杖やホウキやらが枝に絡まっていた。


 助けを乞う本人も枝やツルに巻かれ、服が裂けている箇所もある。




「ぇ……あ、もしかしてさっきの声、あんたの?」




 クレアの問いかけに、魔女は少しだけ目を見開く。


「おや、もしや声を聞いて助けに来てくれたのですか? 優しい方ですね」


「そうだけど……。無視するわけにいかないし――」


「あ、あああっ! そこから動かないでくださいっ!?」


「ひぃいっ!? な、なにっ!?」




 立ち上がろうとしたクレアに、魔女は突然声を張り上げる。


 ビクッとしたクレアはその場で再び尻餅をついた。




「そこ、そこに私の大切な眼鏡があります」


「へっ……? 眼鏡……?」




 言われたとおり、近くの地面に視線を走らせる。


 クレアのすぐ隣に、フレームの分厚い丸メガネが落ちていた。


 目立った傷や壊れた部分は見当たらない。




「すみませんが、降りるまで持っていてくれますか?」


「え? まぁ、良いけど……」


「では、救助お願いします」


「はぁ……」




 冷静かと思ったら、突然叫んだりとおかしな人だ。


 魔女って頭が良いイメージだったけど、意外とそうでもないかもしれない。


 


「――はい、眼鏡」




 無事に地面に降ろすと眼鏡を魔女に手渡す。




「助かりました。ありがとうございます」




 眼鏡をかけると、魔女さんは無表情のまま礼を述べた。


 虫眼鏡みたいな大きさなので、真面目っぽさがぐんと上がる。




「……あんたの名前は? なんで枝に引っかかってたの?」


 魔女は滅多に会えない希少な存在だ。クレアは名前くらいしか聞いたことがない。


「私はドルアと言います。魔女協会に属する魔女です。枝に引っかかっていた経緯は……」


「経緯は?」


「…………」


「なんで目を逸らすの?」




 真顔で顔を横に背けられ、クレアは困惑する。




「……魔女のイメージを壊したくないなら、聞かない方が良いかと。




 魔女のイメージを壊す? どういうことだろう。


 クレアは木と魔女を交互に見てから、ホウキに目を移す。


「――え。居眠りして落ちたとか? いやいや、それはさすがに――」




「…………」




「――嘘でしょ?」


「さて、助けてもらったので何かお礼をしたいのですが」




 ドルアは真顔で無視すると、変わらず話しを進めた。


 この眼鏡魔女。真面目っぽそうだけど、実はポンコツなのでは。




「お礼? いいよ別に。魔女からお金もらうなんて罰当たりだし」


「いえ、財布は飛んでる最中に落としたのでありません」




 あ。ポンコツだ。




「なので、代わりに何か占ってあげます。何か知りたいことはありますか?」




 急に魔女っぽいことを言い出した。




「――え、知りたいこと……? そんな急に言われても……」




「何かないんですか? お宝の埋蔵地とか、最強の使い魔の手に入れ方とか。魔女と会う機会は滅多にないので、聞いておいて損はないと思いますが」


「ウチの知りたいこと……」


 クレアは考えるように俯く。


「――親分の気持ちかな」


「親分?」


 ドルアは顔をかしげて言葉を反復させる。




「そう。ウチは親分に引き取られたの。ずっと一緒に傭兵やってるんだけど、ウチのことどう思ってるのかなって」


「なるほど。親分から見て、あなたはどう映っているのか知りたいわけですね」


「そう」


「わかりました。では親分に会ったときに占います。それで良いですか?」


「良いけど……。このこと親分には秘密にしてよ?」


「ええ、了解しました。結果はこっそりと教えます。……ところで」


「なに?」


「逆にあなたは親分のことをどう思っているのですか?」


「えっ? ま、まぁ……。一緒にいてそこまで嫌じゃないって言うか……」


「おっと、もう大丈夫です」


「な、何が大丈夫なの?」


「いえ、聞くまでもないことでしたから」




 親分の気持ちを尋ねたということは、つまりそういうことなのだ。


 クレアはどうやら無自覚なようで、ドルアは黙っておくことにした。


「どういうことよ」


 ドルアの返答に納得いかないクレアは口元を尖らせ――、




 ドンッ――!


 


 ドルアの驚いた顔が映る。


 クレアはドルアの胸を突き飛ばしていた。


 勢いそのままに、二人は地面にすっ転がる。 


 ドルアは何が起こったのか即座に理解できなかった。




「いったい何を――」




 グァぁァアアア――――ッ!!




 声を掻き消す咆哮が森に響き渡る。


 ドルアはクレアの後ろ――今さっきまで立っていた場所に四本足の輪郭を見た。


 同じ場所に留まっていたら二人とも襲われていただろう。


 とっさに気が付いたクレアは反射的にドルアを突き飛ばしたのだった。




「立ってッ!? 走るよっ!」




 クレアはいち早く立ち上がると、ドルアの手を引いて走り出す。


 さっきまでコートを着ていたクレアはいつの間にか素肌を晒している。


 コートを獣に噛み引きちぎられたのだ。




「ねぇ、あんた魔女なんでしょ!? 強い魔術とか使えないわけっ?」


「……使えません。居眠りしてる間も飛び続けたので魔力切れです」


「もう――っ!」




 獣の足の方が確実に速い。逃げ切ることはできそうになかった。




「ウチの後ろに隠れてっ!」


 立ち止まると、ドルアを背後にして獣に向かい合う。


「大丈夫なのですか?」


「もちろん。これでも傭兵やってんの!」




 短剣をかまえる。その手は震えていた。


 ホントはウチだって怖い。勝てるかわからない。今すぐ逃げ出したい。




「でも……、ここで逃げたら……」




 護るならしっかりと護り通す。それが傭兵の責務なのだ。


 獣がクレアの顔をめがけて跳躍する。その姿は眼で追うのも難しい速さだった。


 クレアは半ば死を覚悟しながら、短剣を振りぬこうとして――、




「うぉおおおおおおおおおおおっ――――っ!」




 横から現れた影が獣を思い切りぶっ飛ばす。




「――ッ!?」




 吹き飛ばされた獣は、空中で身体をひねって地面に着地した。




「弟子を襲うとは良い度胸じゃねぇか」


「親分っ!?」




 クレアの横に立った影、それは間違いなく親分だった。


 荒い息を吐き汗を滴らせながら、血の付いた斧を握りしめている。


 そこにいつもの笑顔はなく、ただ真剣に目の前の獣を見据えていた。




 グウウゥ……!




 形勢が逆転したことを悟ると、獣はすぐに森の奥へと走り去っていく。




「へっ、なんだ。一撃で逃げるたぁ大したことねぇな」


 獣を見送ると、親分は息を吐きだす。


「ふぅ、何とか間に合ったな。ったく、先走りやがって」




 そう言って親分はクレアに笑いかける。


 クレアは気まずくなってそっぽを向いた。




「べ、別に親分がいなくても撃退できてたし……」


 クレアはボソッとつぶやくように付け加える。


「まぁ。でも、ありがと」


「おう、気にすんな! 俺の大事な弟子だからな!」


 親分が頭に手をのせてくる。


「っ……! は、早く行かないと。馬車の人、待たせてるし」




 率先してクレアは歩きだす。


 真っ赤に茹で上がった顔を見られないように。


 魔女は行先が異なるとのことで、ここでお別れとなった。




 並ぶ身長差のある背中を見送りながら、魔女は。






「そういえば占うのを忘れましたが……必要なさそうですね」


 


 そう頷いて、踵を返したのだった。

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