失うといふこと
きひら◇もとむ
第1話
時間が解決してくれたはずだった
会社帰りのターミナル駅
3年かけて周りと同じ速さで歩けるようになった
「もう大丈夫」
自分に言い聞かすように呟いた
ガタンゴトン
35分の電車通勤
もう各駅停車じゃなくても大丈夫
快速急行にも乗れるようになった
それなのに
それなのに
駅前の花屋
オレンジや黄色
可愛い花のきれいなブーケ
買って帰ろう
彼女の喜ぶ顔が目に浮かぶ
『え!私に?ありがとう!』
僕は空を見上げる
ねぇ知ってるかい?
涙って止まらなくなることがあるんだぜ
君のいないこの世界
優しい思い出が硝子の破片となって僕に降り掛かってくるのなら
美しい思い出が烈火の如く僕を焼き尽くそうとするのなら
いっそ涙の海に沈んでしまおう
ありがとう
そして
さよなら、永遠に
失うといふこと きひら◇もとむ @write-up-your-fire
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