雨降れば隣いいですか?
ろくろわ
降水確率十パーセント
「やっぱり降ってきたかぁ」
エレベーターを降り正面玄関に向かって歩く
時刻はまだ十七時半だと言うのに雨雲に覆われた外は薄暗く、雨はここから見ても分かる程強く降っていた。
今朝の天気予報では爽やかなお姉さんが降水確率十パーセント。傘は必要ないと言っていた。
だからだろうか。予想外の雨に傘を差して外を歩く人はまばらで、駅まで駆けていく人もいた。
俺はそんな人達を横目にゆっくりと鞄に手を入れると小さく折り畳まれた黒い傘を取り出した。
備えあればなんとやら、例え降水確率十パーセントであっても用意しておく事に越したことはないのだ。
鞄から取り出した折り畳み傘の骨を伸ばし組み立てている俺の後ろから、エレベーターのチンと鳴った鐘の音と共に俺を呼ぶ軽い声が聞こえた。
「圭介さん、今帰りですか?うわっ、外すごい雨ですね。雨降らないって言ってたのになぁ」
「あぁ
「そうですよね。しまったなぁ、僕傘持ってきてないのになぁ」
身長は百八十センチを越え、少しポッチャリとした体格とその姿からは想像がつかない軽い優しい声を持つ関山さんが、雨が降る様子を見ながらチラリと俺の持つ傘に視線を送ったのを見逃さなかった。
俺は既に組み終えた折り畳みの傘を持ち、それじゃあと背を向け外に出ようとしたのを関山さんが慌てて引き留めてきた。
「ちょっと待ってくださいよ。折角だから雨が弱まるまで少し立ち話でもしませんか」
ニカッと笑う関山さんとは同じ営業部に所属しておりそれなりの付き合いはあるのだが、チームが違うため俺は立ち話にあまり乗り気ではなかった。だが、だからと言って断る理由もなく、結局の所「まぁ良いですけど」と無難な返事をすることになった。
まぁ俺の返事を聞く前に関山さんはエントランス横にある自動販売機で缶コーヒーを買ってきて俺に差し出した所を見ると、どのみち彼の中で俺と話しをする予定だったのだろう。
俺と関山さんは通行の邪魔になら無いように正面玄関から少し離れた所に移動し、二人で缶コーヒーを飲みながら最近の仕事はどうかとか、面白いテレビは何だとか他愛もない話を話した。
そうして十分ほど経った頃だろうか、話題は気になる店の話となっていた。
「圭介さん、会社から帰る途中にある【燻製創作料理
「いや無いなぁ。気にはなっているだけど何だか凄く高級そうな雰囲気で中々入るのに躊躇しちゃって」
「そうなんですよねぇ、でも意外と入ってみるとリーズナブルで凄く良かったですよ」
「えっ関山さん、行ったことあるんですか?」
「メニューは燻製だけじゃなくてお肉やお魚もあって美味しかったですよ。会社の人も中々入りにくいって言ってて。良かったら圭介さん、連れていってあげたらどうですか?」
ニカッと子供のように笑うと親指をぐぅと立てた関山さんが詳しくお店の様子を教えてくれたお陰で、行ったことの無い店も行ったような気持ちになっており俺は楽しくなっていた。しかしそんな状況が変わったのは関山さんの一言からだった。
「そうそう、圭介さんは相合傘ってしたことありますか?僕、実は一回もないんですよねぇ」
急な話題の変化に一瞬、俺はポカンとしたが関山さんの方を見ると関山さんは再び俺の持つ折り畳み傘を見ていることに気がついた。
「そりゃあ、最近は無いけど学生の頃には何回かしたかなぁ」
「良いですねぇ。憧れだったんですけどね、僕にはそんな機会ありませんでしたよ」
ようやく本題に入るのかのように関山さんは僕の傘を見ながら話していた。
外の雨はまだまだ止みそうにない。
一人傘を持つ俺は関山さんの言おうとする事が何なのか何となく予想していた。
続く。
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